すかいらーくホールディングス(東京都/谷真会長兼社長)が3月に発表した2021年度通期決算は、売上高が2646億円(対前期比8.3%減)、営業利益は182億円(前年は230億円の赤字)だった。前期の大幅赤字から一転して黒字転換となったが、その大きな要因は427億円の時短協力金だ。ルールに従ったことによる当然の権利に違いないが、良くも悪くも新型コロナウイルスの影響の大きさを物語る数字といえるだろう。
真の回復へ向け「変態」を加速
だからこそ22年度の通期業績予想には同社の決意が強くにじんでいる。売上高は3360億円、営業利益100億円、当期利益は40億円とし、コロナ禍前の水準までの自力到達を目指す。同社がその軸に据えるのがデジタル・トランスフォーメーション(DX)だ。コロナ禍以前から着々と取り組みを進めていたが動きを加速。コロナ禍を教訓に、どんな状況でも安定した収益を確保できる体制を整え、外食チェーンとして生き残るための進化形を追求する。
DXというより機械化の文脈になるが、まず目に見える部分では配膳ロボットの大規模導入を推進する。22年12月末までに2149店舗で3000台の導入を予定。昨年あたりから他チェーンでも導入が加速する配膳ロボットを同社も積極投入することで、フロアでの作業効率アップを目指す。なお、すでに導入済みのガスト店舗ではランチピーク時の回転率が導入前より7.5%アップ、スタッフの歩行数は42%減少し、片付け完了時間も35%短縮されたという。
データ活用であらゆる業務を大幅改善
DXの本丸となるデータ活用では、グループの持つデータを最大限に活用し、飲食チェーンとしてのDXを加速させる。具体的には、POSの刷新、キャッシュレスレジの導入による待ち時間の解消などだ。POSデータがマーケティングに有効なことは知られているが、データの互換性などさまざまな課題からうまく活用できている企業はまだ少数派だ。だが、3000店舗以上の飲食チェーンを展開する同社のPOSデータは消費者の実像を鮮明に捉えており、有効活用することで売れ筋やヒット商品開発をかなりの確度で生み出すことが可能になる。
外食習慣の減少に取って代わる中食商品の開発においてももちろん有効だろう。またデータ活用による売れ筋や繁忙時間等の予測によって回転率や食材の最適化を図り、ロスの最小化にもつなげられる。さらに常連客のデータから、個に対応したおすすめ情報を作成し、定期的に配信することで顧客のロイヤリティ化につなげることもできるだろう。同社では将来的にサブスクリションサービスの導入も計画しており、そうなるとより長く愛用してもらうためにもデータ活用はより重要性を増す。
導入推進中のデジタルメニューブックやすかいらーくアプリも情報を吸い上げるタッチポイントとして重要なツールであり、同社では今後、ユーザビリティの改善や機能拡張を継続する。
お得メニューの拡充で利用機会を創出
DX推進と並行し売上アップ施策も補強する。そのための施策のひとつとして同社は、従来の外食習慣が減少傾向にある中で、顧客ニーズに最適な品揃えと価格戦略を重点的に実行するメニュー戦略をあげている。
たとえばガストでは、値ごろ感のある商品アイテム数を拡充し、注文点数を増やすことで客単価の向上と客数増を目指す。和食業態の夢庵、藍屋では、日常使いしやすい手頃な価格のうどん・そばのラインナップ拡充と旬の素材を強化する。バーミヤンは、500-600円台の麺・飯メニューと、ティータイムに飲茶メニューを投入し、新たな利用動機の創出を図る。また、外食自粛によって中食が強力な競合となった。その結果、特にランチの価格帯が低下したことに対応し、従来の価格設定より値ごろな商品アイテムの拡充に注力。「お得ランチ」の提供で、まずは店舗の利用頻度を高めてもらうことに力を注ぐ。
コロナ禍で順調に拡大したデリバリー・テイクアウトもさらなる強化を図る。同社は自社で宅配リソースを保有しており、軌道に乗れば新たな収益源となり得るポテンシャルがあるだけに、競争が激化しているものの攻めの姿勢は崩さない。
通販事業も順調に成長しており、楽天・アマゾンでは自社ブランドが人気商品に育っている。商品ラインアップも4品から16品まで拡充しており、21年12月には前年同期比で3.6倍の売上を達成するなど、通販市場でも同社の存在は徐々に浸透しつつある。
外食チェーンDX化の先にある未来とは
どの店舗でも安定したクオリティのメニュー・サービスで消費者の食を支え、食べることの満足感を与えてきた外食レストランチェーン。コロナ禍で人流が遮断されるという緊急事態は、そうした当たり前の追求が万能でない事実を突きつけた。
いつかコロナ禍は終わるという楽観論は霧消し、外食チェーン各社のテーマはどんな時でも安定して質の高い食を提供し続けられる体制の構築へと完全にシフトした。そのひとつのカギがDX。人との接触がサービス品質の源泉だった外食チェーンがいま、環境変化に適応するための大変態へ向け、技術革新の波に乗りながら静かにもがいている。