日本のお菓子をボックスに詰めて海外に送るサブスクリプション(定期購入)サービスを展開するICHIGO(東京都/近本あゆみCEO)。2015年にサービスを開始して以降、世界180の国と地域に日本の商品の魅力を届け続け、2021年12月末時点で売上40億円を達成した。越境型サブスクサービスという事業モデルはどんなものなのか。また、好調を維持している理由や今後はどのような事業拡大を考えているのか、代表の近本あゆみ氏に話を聞いた。
日本の最新、人気のお菓子を日本人の手でセレクトして海外に届ける
ICHIGOが手掛ける事業は、日本のお菓子や雑貨などを詰めたボックスを毎月世界中の会員に届けるという100%海外向けのサブスクサービスだ。今でこそサブスク型サービスは日本でも当たり前の存在となったが、スタートした2015年当時には日本でほとんど見られなかった。
主力商品の「TOKYO TREAT」は、コンビニ、スーパーに並んでいる日本の有名ナショナルブランドのお菓子とソフトドリンクを詰め合わせたボックス。バレンタイン限定、夏期限定など、季節ごとの限定商品を取り扱っていることから人気を呼び、特に20~30代の若い世代に好評である。
和菓子と日本茶を詰め合わせたボックスが「SAKURAKO」だ。地方の老舗和菓子メーカーなどが作るこだわりの和菓子は、少し高い年齢層から支持されており、30~60代までの幅広い年齢層が購入する。
ボックス価格は50USドル。日本円にすると、商品価格が3800円程度、送料1200円程度の内訳だ。全サービスの累計売上数は210万個以上に及ぶ。ライバル会社は全世界で20社ほどだというが、日本のお菓子を扱う会社としては最も高い購入数を誇り、購入者数を含むメルマガ登録者数は、すでに180万人に達している。
これほどまでに世界でICHIGOがうける理由は何なのか。
最大のこだわりは、日本人バイヤーが厳選した日本の商品を選んでいる点である。「市場調査をした時点で、アメリカの会社がすでに同様のサービスを国内向けに行っていた。しかし『日本のお菓子』とうたっていても実際に日本のものではなかったり、偽物が混ざっていることが多かった」と代表の近本あゆみ氏は話す。「日本人の手で、日本の本物のお菓子を届けたい」との想いが事業スタートの起点となった。日本人バイヤーが日本の最新商品、人気商品をつねに選んでいる点こそ、ICHIGOが広く海外で支持される大きな要因となっている。
一気通貫のサービス体制、外国人マーケティングスタッフが強み
ICHIGOの商品へのこだわりは、お菓子そのものだけではない。客が受け取る商品は、お菓子を入れる箱を含めての詰め合わせボックスなので、ボックスのデザインや見た目のイメージにもこだわっている。さらに、ECサイトの使いやすさ、商品説明冊子の内容、配送サービス、カスタマーサービスに至るまで、すべてにおいて高いクオリティを追求する。
梱包、配送手配などのアルバイトも含めて現在80名のスタッフがいるが、外部に委託せず、すべて内製化している。これにより、問題が発生しても社内で一気通貫の対応ができる。顧客からのクレーム、要望もすぐに反映し改善につなげる仕組みが構築されている。
YouTube、SNSなども積極的に活用している。「実は、ICHIGO成長のきっかけは、海外のYouTuberさんのおかげ」と近本氏は言う。「海外のYouTuberの方が商品を購入し、自身のYouTubeで紹介してくれたことで一気に注文が増え始めた。アメリカのみならず、チェコ、スペインなど『あれ?』と思う国からも注文が入る。なぜだろう?と調べてみると、そのYouTuberさんの投稿を見た人たちだった」(同)。それ以来、自社YouTubeを活用したプロモーションを自社でも展開している。
また欧米では、日本以上にSNSの存在が大きい。「商品を受け取ったら、ほぼ全員といっていいほどSNSにアップしている。たとえば『#TOKYOTREAT』で検索すると5万件がヒットするほど。商品の感想がダイレクトに伝わってくる」(同)。良い投稿ばかりでなくマイナスの投稿もあることから、そうしたクレームや要望を吸い上げ、検討改善につなげている。現在、Instagram、Facebookを中心としたSNS全体のフォロワー数は約150万人。顧客の生の声が聞ける仕組みができ上がっている点は、マーケティング上の大きな強みといえる。
ECサイトは英語のみで展開しているため、顧客の70%はアメリカで、イギリス、カナダ、オーストラリアの4カ国で80%、その他ヨーロッパ諸国を合わせると90%を占める。残りの10%はアジア、アフリカ、中東など、幅広い国と地域の顧客を抱える。「外国のことは外国人にしかわからない」という明確な考えのもと、マーケティングスタッフは全員外国人が担う。
「飽きさせない」ために、商品開発機能も担う
「私たち日本人にとっては当たり前のことだが、日本のお菓子の特徴はバリエーションが多いこと」だと近本氏は強調する。「日本では『季節限定』『ご当地限定』などがたくさんあって消費者を飽きさせない工夫があるが、アメリカをはじめ海外のお菓子は、年間を通じてどこでもほぼ同じラインナップ。日本のお菓子の入れ替わりの早さも、外国人にとっては限定感、プレミアム感が増す理由」(同)。
180万人のメルマガ会員へのアンケートでは、4割が、日本を訪れたことがある、またはこれから行ってみたいと思っていると答えたという。日本のお菓子を食べたことがある会員も多く、日本ならではのお菓子の詰め合わせは安定した人気がある一方で、つねに新鮮さも求められる。そこでバイヤーチームは、客を飽きさせないように毎月異なるテーマを設定し、テーマに合った商品の買い付け、商品開発を行っている。メーカー、問屋と地道な交渉を続けていることから、ICHIGOの理念、ビジネスモデルに賛同してくれるメーカーがほとんどだ。「国内が人口減少の一途を辿る中、地方の小規模メーカーさんはとくに新たな販路を模索している。海外向け販路としてICHIGOに期待してくださる会社さんは多い」(同)。
最近はとくに和菓子が注目されているようで、直近で反響が大きかったは鯛焼きだ。和菓子の場合賞味期限の問題が気になるが、「あらかじめ期限の長いものを選んだり、メーカーとも相談して作ってもらっているので問題になることはない。そもそも、会員数が決まっているので、在庫が発生しないのも当社の大きな強み」(同)。
苦境に立つお菓子メーカーの販路開拓、その先には地域の復興や活性化も視野に
主力のお菓子の詰め合わせボックス以外にも、キャラクターグッズを詰め合わせたボックス、EC以外のサービスであるクレーンゲームアプリ「TokyoCatch」など、現在6つのサービスを展開する。「ICHIGOで日本のものが何でも買えるように」なることを目指し、新サービスの立ち上げ準備も着々と進んでいる。
2021年末には、和菓子の詰め合わせボックス「SAKURAKO」で新たに地方自治体と連携した取り組みにもチャレンジした。「コロナ禍においてインバウンドが激減し困窮するお菓子屋さんと、これまでも積極的に連携してきた。今回お話をいただいた神奈川県でも、お土産物の販売がほぼゼロとなったメーカーさんが苦境に立たされていると聞いて、新しい販路として少しでも役に立てたらと考えた」(近本氏)。そうして神奈川県内の菓子メーカーのお土産菓子のほか、県の特産品を使ったお菓子を商品開発し、自治体公式のオリジナルボックスを完成させた。
「地方ならではのこだわりのお菓子は、海外のお客さまにはとても魅力的。今後は全国の自治体と連携を取りながら、地域の復興、地方の活性化につながる活動を進めて、日本を元気にする役割も担いたいと考えている」(同)。