メニュー

注文から10~60分での即時配送を実験 約1時間で30件超をこなすROMSとココネットのテクノロジーとは

ネットスーパー新時代

ロボティクスをコア技術に小売業向けソリューションを開発するROMS(ロムス:東京都/前野洋介社長)は、ネットスーパー配送を手がけるココネット(東京都/河合秀治社長)と連携し、店舗から2km圏内の即時配送サービス(即配:QuickCommerce)の実証実験を行った。時間指定での便配送のネットスーパーとは異なる、オンデマンドでの即時配送ならではの「大きなニーズ」とそのニーズに対応するテクノロジーとは何か?

ROMSのNFCの特徴とは

 ROMSは、超小型無人店舗「RCS(ロボティクス・コンビニエンス・ストア)」や日本版ネットスーパー向け店舗兼自動倉庫「NFC(ナノ・フルフィルメント・センター)」など、自動化やロボティクスをコア技術とした小売業向けソリューションを開発するスタートアップ企業だ。

 近年、ウォルマート(Walmart)やアルバートソンズ(Albertsons)ら、米国の小売大手を中心に、ネットスーパーの配送拠点となるマイクロフルフィルメントセンター(MFC)の導入が広がってきた。自動倉庫システムとピッキングロボットを組み合わせたROMSの「NFC」は、日本の食品スーパー(SM)の実情に合わせてMFCよりも小型化され、ロボットアームによって商品のピッキング作業を自動化するのが特徴だ。店舗の駐車場などでの設置を想定し、格納SKU数に応じて10坪程度から100坪程度に導入できる。

オーダーに応じて商品をロボットが準備

 ROMSは2020年10月、NFCおよびRCSのモデル店舗として10坪程度の大きさでの24時間営業の無人店舗「MOPU」(東京都墨田区)を開設(現在は閉店)し、21年10月末までの1年間、実証実験を行った。弁当、総菜、飲料、菓子、酒類、日用品など、コンビニエンスストア(CVS)の商品をベースに約450品目が品揃えされ、ユーザーがROMSのモバイルアプリまたは店内のキオスク端末で商品を注文すると、自動倉庫内のロボットが商品をピッキングし、店内の受け取り口へと自動で搬出する仕組みだ。入店後にキオスク端末上で欲しい商品を選んでその場で購入できるほか、モバイルアプリで事前に注文した商品を店舗で受け取るBOPIS(店舗受け取りサービス)にも対応している。

 21年9月からは、セイノーホールディングス(岐阜県/田口義隆社長)傘下でネットスーパーの配送などを手がけるココネットとの連携のもと、ココネットの配送を組み合わせ、「MOPU」を配送拠点とした即時配送サービスの実証実験に取り組んだ。

2km圏内を注文から10~60分以内で配達

配達員は「MOPU」へ出向き、店内に設置されている配達員専用端末で4ケタの注文番号を入力して受け取り口から商品を受け取り、梱包した後、ユーザーに届ける

 この即時配送サービスは、「MOPU」から2㎞圏内に居住する登録モニターを対象に、毎日11時から19時までROMSのモバイルアプリからの注文を受け付け、注文後10~60分以内で商品を届けるというものだ。「MOPU」で取り扱っていた商品に加え、野菜・卵などの生鮮食品を合わせて約450品目が品揃えされた。なお実証実験の目的から、配送料は無料で、最低注文金額なども設定しなかった。

 この即時配送サービスでは「NFC」とココネットの配送管理システム「デリバリーソリューションサース」が連携。ユーザーがROMSのモバイルアプリで商品を注文すると、「MOPU」のロボットが商品をピッキングするのと並行して、氏名や住所などのユーザー情報がココネットに共有される。配達員は「MOPU」へ出向き、店内に設置されている配達員専用端末で注文番号を入力して受け取り口から商品を受け取り、梱包した後、ユーザーに届ける流れだ。

 1日当たりの注文件数は平均30件。期間の前半は1日平均20件程度で推移していたが、徐々に利用が定着し、後半には1日30件を超える日が増え、最大41件まで増加した。注文件数は平日のほうが土日よりも多く、とくに平日の昼11時から13時と夕方18時から19時の時間帯で増えた。

ROMS社長室長脇 春菜氏

 ROMS社長室長の脇春菜氏は、この即時配送サービスの利用シーンについて「昼休みや終業後など、テレワークの合間に利用する傾向がみられた。買物のためにわざわざ外出するのが面倒なとき、リーズナブルなコストを払って商品を自宅に届けてほしいというニーズはある」と分析する。休日の外出時には「MOPU」に立ち寄ってモバイルアプリで注文した商品を受け取り、平日の在宅中は自宅に届けてもらうといったように、BOPISと即時宅配サービスを併用するユーザーもみられた。

 「MOPU」では、最大6点という注文点数の上限を設けていたため、1回当たりの注文点数は平均3~5点、注文金額は500~1000円であった。商品カテゴリー別では「生鮮」が最も多く、「ビール・発泡酒」「チョコレート」「スポーツ・健康・栄養ドリンク」「スナック菓子・米菓」の順でこれに次ぐ。無料配送でCVSをベースとした品揃えということもあり、1回当たりの注文金額が5000円程度のネットスーパーに比べて注文点数や注文金額は少ない一方、商品カテゴリーの傾向は類似している。

約1時間で30件超のピッキング・配送を実現

 この即時配送サービスの配送体制は稼働時間ベースで1日平均1.5人。「MOPU」からの距離に応じて配送エリアを分け、1㎞圏内をデリバリーシェアリングのプラットフォーム運営会社であるanyCarry(エニキャリ:東京都)の自転車1台、1~2㎞圏内をココネットの軽自動車1 台に分担させた。

ココネット経営企画室室長の萩原哲也氏

 軽自動車では「デリバリーソリューションサース」の配送ルート最適化機能を用いて最適なルートを自動で計算し、これに沿って複数の受注をまとめて配送する一方、自転車は「MOPU」と配達先を行き来し、受注するごとに1件ずつ配送した。ココネット経営企画室室長の萩原哲也氏は「受注状況に応じて最適なルートは常に変化するため、自転車での短距離配達では、受注した順に処理するシンプルなオペレーションのほうが効率的だった」と振り返る。

 21年10月29日には受注件数が急増し、ピッキングと配送のキャパシティが検証できた。約1時間で30件超のオーダーに対するピッキングを処理し、自転車で約20件、軽自動車でも約20件の配送を完了している。この間も、「MOPU」のピッキングロボットはピッキングを続け、生産性が最大となった。脇氏はこの検証結果をふまえ、「配送効率とピッキング効率を鑑み、生産性を最大化させた状態でどのようにサービスを設計するかがカギになる」との認識を示す。

実験が示す、即時配送ならではの高いニーズ

 この即時配送サービスの登録モニターの6割はネットスーパーを利用した経験がなく、2割の人も月1回以下の利用にとどまっている。登録モニターを対象としたアンケート調査では、この即時配送サービスのモニターに登録した動機として「少量で注文できるから」「商品が届くまでの時間が短いから」との回答が多く、実際に利用して満足した点でも「少量で注文できる」「商品が届くまでの時間が短い」がより多く挙げられた。これらの回答結果から、これまでネットスーパーを利用していなかったユーザーでも、この即時配送サービスを実際に利用し、その利便性の高さを実感していることがうかがえる。

 脇氏は「少量即時配送型の購買体験にニーズはあり、ネットスーパーとは異なるサービスとして拡大する可能性がある」と分析。萩原氏も「少量から商品を注文でき、短時間で自宅に届く即時配送サービスは、都市部に居住する若年層のみならず、郊外や過疎地、買物に不便を感じる高齢者にも潜在的な需要がある」との見解を示している。

 商品の注文から配送までの時間は「MOPU」からの距離によって差異があったものの、注文件数は1㎞圏内と1~2㎞圏内でほぼ同じであり、ユーザーの満足度にも違いはみられなかった。

 萩原氏は「即時配送サービスがターゲットとする『今すぐ商品が欲しい』というニーズは一様ではなく、時間帯や利用シーンによって度合いが異なる。『注文から配送までの短時間化』以外に差別化要因となるポイントがあるのではないか」と指摘したうえで、「『どれくらい配送できるか』という配送キャパシティと『いつまでに商品を欲しいか』というユーザーのニーズをバランスさせることが必要では」とオペレーション上の課題を提起する。

 ROMSとココネットは、今後も自動化・ロボティクス技術と配送サービスを組み合わせた取り組みを強化し、新たなサービスニーズおよび供給に対応するソリューションを検証していく方針だ。

 小売業が即時配送事業に参入するにあたり、貴重な知見とソリューションとなりそうだ。