イオン(千葉県)は21年12月、同社のプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の食料品と日用品の計約5000品目の価格を2022年3月31日まで据え置くことを発表している。コロナ禍での生活防衛意識の高まりを受けたもので、全国約1万店舗を対象に実施。原材料価格の高騰で、各メーカー、スーパーマーケット(SM)が値上げを決断するなか、イオンはなぜ「価格凍結」を決断したのだろうか。
「NBからトップバリュへの『スイッチ』が起こっている!」
昨今、原材料価格の高騰や物流・輸送コストの上昇、為替・原油相場の変動により、商品の値上げが相次いでいる。イオン執行役商品担当の西峠泰男氏も「これまでに経験したことのない原材料高騰が続いている」と明かす。
そうした中、イオンは2021年9月13日、「トップバリュ」の食料品約3000品目について、同年12月31日までの価格据え置きを決断。一定の成果を上げた。実際、価格を据え置いた約3000品目については、約4か月間で、平均して売上対前年比20%増を記録したという。特に、食料油やマヨネーズといった他NB(ナショナルブランド)で値上げが著しい商品群に関しては、前年比50%増を記録した。
「NB商品はブランド力があり、お客さまもロイヤリティを持っている。そうした中で、トップバリの商品は『安い』ということで多くのお客さまにご購入いただいた。価格凍結宣言によるNBから当社PBへのスイッチがあった」(イオン・西峠氏)
来年3月31日までの期間延長で、消費意欲が高まる来年度までの期間に顧客を呼び込み、「トップバリュ」ブランドのリピーター獲得を狙う。
今回、新たにトイレットペーパーやアルミホイルなど日用品約1800品目を追加したのも、他社の値上げを意識してのことだ。「アルミや紙についても原材料が上がり続けている。他社よりもお値打ちの価格をアピールすることで『トップバリュ』ファン獲得に努めたい」(同)
対象店舗は、イオン、イオンスタイル、マックスバリュ、ダイエーなどの全国約1万店舗だ。
過去に例のない原材料高騰 「3月31日までが限界」
とはいえ、過去に例のない原材料高騰の中、価格を据え置くのは商売上、楽ではないはずだ。西峠氏も「原価率が上がっており、商品単体での利益率は下がっているのが現状。(据え置き期間も)2022年3月31日までが限界に近いと考えている。4月1日以降は未定。未だに価格が上昇し続けている原材料もある」(西峠氏)
価格据え置きに際しては①物流コスト・店舗のオペレーションコスト削減②販売量を上げることで対応する考えだ。
①については、イオン全体での物流コスト削減を狙う。一例として店舗に近い工場で新たに飲料類の製造を開始。製造工場を増やすことで、店舗との距離を短縮し、かかる費用を抑える。倉庫での保管費用削減を削減するべく「フロースルー物流(物流センターに入荷した商品を保管することなく店舗へ出荷する作業のこと)」にも取り組んでいる。店舗ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進め、販売量を予測し、在庫コスト削減を目指す。
②については、価格を据え置く商品の販売量を上げ、原材料高騰が影響しない他のPB商品を積極的に売り出すという。
値段引き上げる小売企業も イオンは「価格凍結」してブランド認知力向上狙う
消費者にとっては嬉しい「価格凍結宣言」だが、会見では「(原材料高騰による)値上げ幅を商品価格に転嫁しないことで、取引先メーカーにしわ寄せがいくのではないか」「『デフレ脱却』をモットーに、価格を引き上げている他の小売業もある」といった質問も飛び出した。
西峠氏は、こうした疑問に対し、「サプライヤーさまにはご理解をいただいており、良好な関係を築いている。負担を押し付けてはいない」と断った上で、「様々なご意見があるのは承知しているが、私たちは『お客さま第一』の精神でお値打ち価格の商品を提案し、お客さまの消費をサポートしていく」と説明した。
今年9月からの価格据え置きで、同社のPB「トップバリュ」の売上は好調だった。ここから更に商品開発力に磨きをかけ、「安さ」以外の「美味しさ」「簡便さ」などの付加価値も追求していく、と西峠氏は強調した。
「内食需要については、近年ドラッグストアやディスカウントストアの台頭により、年々競争が激化している。今年9月からの価格凍結で、トップバリュの認知度が向上した。『安さ』だけでは、将来的なファン獲得にはつながらない。物流コストなどを削減しながら、ブランドならではの価値を高めていきたい」(西峠氏)
過去に例をみない原材料高騰という課題に直面する小売業各社。イオンは2022年3月31日までの「価格凍結」でトップバリュブランドの発展を狙う。