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カインズが東急ハンズを買収した理由と気になる「東急ハンズ」店舗は今後どうなる?

ホームセンター大手のカインズ(埼玉県/高家正行社長)は1222日、東急ハンズ(東京都/木村成一社長)の買収を発表した。2022331日付で東急ハンズはカインズグループ入りすることになる。業界内外を揺るがした電撃的買収劇の背景とは。

 「新しいDIY文化の共創」をめざし東急ハンズが“カインズ入り”

カインズの高家正行社長(左)と東急ハンズの木村成一社長

 「新たなDIY文化の共創に向けたパートナーとしてカインズに迎える」――。東急ハンズ買収発表の直後に開かれた記者会見で、カインズの高家社長は高らかに宣言した。

  カインズは1222日、東急不動産ホールディングス(東京都)と、同社の連結子会社である東急ハンズの発行済み全株式の譲渡に係る株式譲渡契約を締結。買収額は非公表だが、野村證券をファイナンシャルアドバイザーとする入札形式で行われたことが明らかになっている。

 高家社長は「2社はめざすべき価値観に共通するものがある。加えて、地方を中心とした大型店舗で”日常の暮らしのDIY”を提案するカインズと、暮らしから趣味、文化の創造をめざして比較的都市部に店舗を構える東急ハンズの事業の相互補完性も非常に高い」と買収の意図を説明。そのうえで、両社は「新たなDIY文化の共創」をキーワードに、カインズのSPA(製造小売)を軸とする商品開発力や昨今力を入れるデジタル基盤、そして東急ハンズが従来得意とする商品の提案や目利き力を掛け合わせることで、さまざまな分野でのシナジー創出を図るとした。

  詳細については今後両社で議論を重ねていくとしつつ、①SPA機能(オリジナル商品開発力)の活用、②カインズが有するデジタル基盤の活用、③物流仕入れ機能の効率化、④DIY文化共創プロモーションの4つの領域で協業を進めていく方針を発表した。

  ①については、カインズも東急ハンズもプライベートブランド(PB)商品をはじめオリジナル商品の開発に注力してきたという共通項がある。高家社長は「カインズでは国内に開発拠点やテストラボを展開しており、さらに全従業員一人ひとりが商品開発に携わるという仕組みもある。そこに東急ハンズさんの編集力や目利き力を生かしていただきたい」とした。

  ②のデジタル基盤の活用については、カインズはここ数年、自社アプリやオウンドメディア、ネット注文品の店頭ピックアップの仕組み、さらにそれらの開発拠点であるイノベーションラボへの投資を加速させてきた。これを東急ハンズにも提供するという。

  ③についてはカインズと東急ハンズの仕入れ、物流機能の相互活用を図る方針。2社の物流拠点は合計すると20カ所、仕入れ総額は約3500億円規模に上る見込みだ。そして④については、2社の店舗網を活用して、イベント等を通じて「DIY文化の共創」をめざしていくという。

東急ハンズ店舗の“カインズ化”は否定も、屋号は変更へ

東急ハンズの社名と屋号は変更される見込みだ(写真は東急ハンズ 三宮店)

 一方で気になるのは、東急ハンズ店舗の処遇だろう。東急ハンズは取り扱う商品の豊富さやユニークさ、そして専門的知識を持った店員による商品提案手法などにファンも多く、その独自性から一定のブランド力を有する。ネット上でも「『東急ハンズ』の名称はどうなるのか」「東急ハンズの店がカインズになってしまうのか…」といった声が聞かれるなど、一般消費者レベルではカインズによる買収に、戸惑いを感じている人も一部ではいるのも事実だ。

 これについて高家社長は、「(今回の買収は)東急ハンズを”われわれ(カインズ)の店舗”にするためのものではない」と繰り返し強調。2社のオリジナル商品を相互の店舗で展開するといった取り組みは検討するものの、「いちばんやってはいけないのは、中途半端な”ミックス”によってカインズと東急ハンズの尖っていた部分が丸くなること。そうならないようにお互いにいろんな議論を進めていきたい」(高家社長)とした。

 ただ、東急ハンズの社名と屋号については今後変更される見込み。「東急不動産HDさんから一定期間、店舗名(屋号)を使用することは了解いただいているが、(同社)グループを離れる以上、適切な時期に新たな屋号を検討する必要がある」と高家社長は言明。多くの人に馴染みのある「東急ハンズ」というブランド名は、遠からず消えてしまうことになりそうだ。

コロナ禍で2社の業績には明暗 東急ハンズの業績改善が課題に

 「DIY文化の共創」を掲げて”合流”した2社だが、両社の業績はコロナ禍で大きく明暗が分かれている。

 カインズは家ナカ需要やDIYブームなどを追い風に成長基調にあり、212月期の売上高は4854億円、対前期比10.1%増と2ケタ増収を遂げている一方、東急ハンズは厳しい状況に置かれている。同社の売上高はコロナ前までは1000億円弱の売上高で推移していたが、コロナ禍では多くの店舗が都心部に位置することや、営業時間の短縮、さらにはEC化の加速といった、立地特性や経営環境の変化に大きく影響を受け、直近の213月期の連結売上高は619億円、2期連続の最終赤字を計上するなど業績は急降下。2110月には「池袋店」(東京都豊島区)を閉店するなど経営効率化を図っていた。

  その意味でカインズにとっては「DIY文化の共創」という壮大な目標の前提として、グループに迎える東急ハンズの“テコ入れ”も重要なミッションとなる。高家社長は「(東急ハンズの業績低迷と言う)足元を見るのではなく、ともにやっていくことで必ず東急ハンズの価値が磨き上げられ、それがしっかりと業績に表れてくるはずだ」と力を込めた。

自力成長を是としたベイシアグループとしては異例の大型M&A

カインズ、そしてベイシアグループ全体としても異例の大型M&Aとなった

 他方、今回の買収はカインズ、そして同社を擁するベイシアグループ全体にとっても経営戦略上の大きな転換点と捉えることもできる。同グループはM&A(合併・買収)に頼らず、「カインズ」「ワークマン」「ベイシア」といった事業会社が独自性を磨きながら”尖る”ことを是とする「ハリネズミ経営」を経営戦略に掲げている。

 その点で、今回のカインズによる東急ハンズ買収は異例の動きと言える。これについて高家社長は「われわれは決してM&Aを否定してきたわけではない。単純な規模拡大をめざしたM&Aが選択肢としてなかったというだけのこと。今回はM&Aというよりは、DIY文化の創造をめざすという共通した価値観を持った東急ハンズさんをパートナーとして迎え入れたかたち」と説明した。

 とはいえカインズにとって、都心部に店舗を持ち、趣味嗜好性や話題性の高い商品を扱う東急ハンズを手中に収めることは、経営戦略上大きな意義を持つことも確かだ。カインズがこれまで培ってきたノウハウや、物流・デジタル基盤といったリソースをフル活用しながら東急ハンズの価値を最大化して業績改善にもつなげ、そのうえで「DIY文化の創造」という目標を達成できるか。そしてそれはどのようなかたちで達成されるのか。今後の動きに注目が集まる。