企業の労働力不足や働き方の多様化を背景に、1日もしくは数時間単位で働ける「スキマバイト」の利用が増加している。なかでも、2024年3月にメルカリ(東京都/山田進太郎社長)がサービスを開始した「メルカリ ハロ」は、わずか1年あまりで登録者数1100万人を突破するなど、急成長を遂げている。スキマバイト市場の最新動向について、25年3月に同社が開催した「物流・飲食・小売業界のスキマバイト活用実態に関する調査」の発表会をもとにレポートする。
スキマバイトが求められる理由
スポットワーク協会の調べによると、25年2月15日時点におけるスキマバイト各種サービスの登録会員数は約3200万人にのぼり、市場は約1年で2倍超の規模に拡大した。
その背景について、メルカリ執行役員 CEO Workの太田麻未氏は「構造的な人手不足が要因だ」と指摘したうえで、「パーソル総合研究所の『労働市場の未来推計2030』によると、2025年は史上初めて労働力不足が500万人を超える見込みだ」と説明する。
また、メルカリが物流・飲食・小売業界の事業者600名を対象に実施した調査では、スキマバイトを導入している事業者の8割超が「人手不足が深刻」と回答した。さらに、これらの業界では3事業所に1事業所が「スキマバイトサービスがないと店舗が回らない」と答えている。
繁忙期と閑散期の差が大きく、安定的にシフトを組みにくい業態である小売業や飲食業では、人件費を抑えるためにレギュラーバイトの雇用を控える傾向もある。さらに、早朝や深夜といった人が集まりにくい時間帯のシフトでは、応募が集まらないという声も多く聞かれた。こうした人手不足の課題に対して、従来のアルバイト・パートの募集では対応しきれず、「スキマバイト」サービスの活用が現実的な選択肢となっている。
働き手側に目を向けると、フリーランスの増加や副業解禁などによって働き方は多様化している。さらに、25年1月から「103万円の壁」が撤廃されたことにより、通常の本業とスキマバイトを掛け持つ「労働のハイブリッド化」も進んでいる。
こうした背景を受けて、スキマバイトは双方にメリットをもたらす雇用形態だ。企業側は急な人手不足を補え、繁忙期など必要な時に必要な分だけ人材を確保でき、柔軟に人員を調整できる。働き手にとっては、アプリで簡単に仕事が探せ、自分の都合や経験を問わず働け、日常生活の合間を利用して収入が得られるという利点がある。
物流・小売・飲食の3業界のスキマバイト活用の実態
スキマバイトは、業界ごとにその活用方法が異なる。物流・小売・飲食の3業界における代表的な活用パターンは以下の通りだ。
- 物流業界:平日メーンで、商品の仕分け・ピッキング・梱包作業を任せる
- 小売業界:週末メーンで、品出し・商品陳列・掃除・レジ・会計などの業務を任せる
- 飲食業界:週末メーンで、フードや飲み物の配膳、掃除、皿洗いといった作業を任せる
これらの業務は、いずれも高度なスキルを必要とせず、未経験の人材にも依頼しやすい内容が中心だ。そのため、短時間でも人手が確保できれば業務を回しやすく、スキマバイトとの親和性が高い。
また、業界ごとに人手が求められるタイミングも異なる。物流業界では早朝や深夜、小売業では開店前の品出しや清掃、飲食業ではランチやディナーのピークタイムにスキマバイトの活用が集中している。
1回あたりのスキマバイト採用人数では、物流業界や小売業界が飲食業界よりもわずかに多く、いずれの業界も全体の2割程度のシフトをスキマバイトでまかなっている。一部の小売店舗では、品出しや清掃といった定型業務の多くをスキマバイトで運用しているケースもある。
さらに業界別に見ると、物流業界では、1拠点あたり平均15.7人をスキマバイトとして雇用しており、これは飲食業界の約4倍(飲食業界は約3.9人)にのぼる。これは、物流現場が広大な倉庫内での作業となるため、他業界よりも多くの人数が必要になるからだ。太田氏は「実際、メルカリ ハロでも同一事業者が当日に複数の求人を掲載するケースが多く見られる」と話す。
スキマバイトを活用した人材戦略
スキマバイトを単発の労働機会として捉えるのではなく、その後の“関係構築”につなげようとする企業も増えている。たとえば、勤務後に店舗で買物をするといった付随する接点を通じて、利用者との継続的な関係性を育む動きだ。
「即戦力としての“瞬発力”と、企業との接点を繰り返し持つ“持続力”の両立がスキマバイトを活用した人材戦略の成功のカギを握る」と語るのは、発表会に登壇した人材研究所の曽和利光社長だ。
曽和氏は「未経験者でもすぐに仕事ができるよう、準備を整えることが重要だ。たとえば、某ファストフードチェーンでは、10分程度の動画を視聴すれば、すぐに現場で業務に就ける仕組みが整っている」と語る。
こうした中、企業はスキマバイト経験者を「再稼働が見込める人材」として捉え、必要な時に再度働いてもらえる関係を築く取り組みを進めている。曽和氏は「企業が過去の退職者(アルムナイ)や社員紹介(リファラル)から人材を確保する動きが広がるなかで、スキマバイトを通じた“関係採用”も新たな手法として注目されている」と話す。
たとえば、イオンファンタジー(千葉県)では、スキマバイトを通じて「まず試しに働いてみる」機会を提供し、何度か働くうちに長期雇用へとつながるケースが生まれている。こうした活用法は、スキマバイトを正社員採用のステップとして捉える企業の広がりにもつながっている。
こうした取り組みを通じて、企業と求職者の双方にとって持続可能で柔軟な働き方の実現が進み、スキマバイトは単なる“短期の労働手段”から“関係を築く雇用の入口”へと進化しつつある。