2013年3月21日。ヤオコー(埼玉県/川野清巳社長)は、4月1日に同社社長に就任する川野澄人副社長の披露と感謝の会を開いた(@ザ・プリンスパークタワー東京)。以下では、同社の経営理論を支えた島田陽介先生(島田研究室主催)の祝辞を紹介する。どの企業にとっても非常に参考になる話である。(談:文責・千田直哉)
ヤオコーは、日本における「新しいチェーン」の代表的存在である。
その第1の理由は、ヤオコーが“業態スーパーマーケット”ではなく、《ミールソリューション》と《ライフスタイルアソートメント》を前提にした新しい品揃えのチェーンであるということだ。
過去の“業態スーパーマーケット”チェーンは米国の業態をコピーして持ってきた。もっとも、それは勉強の初期段階で当然のことだった。
しかしヤオコーは、コピーではなく自ら「新しいチェーン」を創造した。《ミールソリューション》と《ライフスタイルアソートメント》を日本の市場に合わせて実現してきたのだ。
誰も到達したことがない世界だから、これは大変な仕事だったに違いない。しかし、それを見事にやり遂げていると評価したい。
第2の理由は、画一型売店チェーンとしての食品スーパー(SM)に疑問を抱き、個々のお客の要求に対応した個店経営にシフトさせてきたことだ。
個店経営は、セブン-イレブンの鈴木敏文さんが考え、セブン-イレブンで実行したビジネスモデルだ。ただ、セブン-イレブンの場合は、基本的にフランチャイジーが1人のビジネスモデルなので個店経営へのシフトはしやすい。
これをSMという店長や売場主任やパートナーに至るまで多数の人間が働いているSMで本当に実現できるかどうかはわからなかったけれども、ヤオコーは見事にやり遂げたと評価したい。
3番目の理由は、人材育成についてだ。
これまでのチェーンストアの組織は、①ルールやマニュアルを作る人、②そのマニュアルを守らせる人、③そのマニュアルを守る人の3者で運営していた。
これに対して個店経営は、店長や売場主任やパートナーなど店舗で働く人たちが、店舗に来るお客のさまざまなニーズをキャッチして自分たちは何をやればいいのかを考え決断することが求められる。
そうした人材を育成することは、非常に大変なことだ。しかし、ヤオコーはそのための組織をつくり、人材を育て、実際に進化させてきたのである。素晴らしいことと評価したい。
さて、川野澄人新社長に言いたいのは、今後、ヤオコーにはいくつかの課題が必ず浮上してくるということだ。
さきほど長期目標として「500店舗、1兆円」という話があったが、店舗数が増えることで起きるのは、組織の硬直化、形式化、官僚化だ。
そのほうが組織を運営しやすいから、どうしてもそうなってしまう。しかし、せっかく作り上げてきた個店経営の組織は、そうなると立ち行かなる。ぜひ、この個店経営の組織を守りながら、店舗数を拡大してほしい。
2つ目は、今までの組織は、企業1社で完結するものだったということだ。
しかし今後は、自社だけでなく、物流企業やIT企業、卸売企業、メーカーなどの異なる企業と相互に協力し合って、チームで成し遂げていくことが、求められるようになる。そうしたことに対応できるように組織を磨き上げて行って欲しい。
3つ目は、日本だけではなく世界の中で異色のチェーンになってもらいたいということだ。必ずなれると思う。ウォルマートを凌ぐような組織をつくって、これがチェーンストアのモデル、というものをつくってもらいたい。
それには取引先や社員からの支援が必要だ。新社長と一緒になって世界のヤオコーにしていって欲しい。