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今のファッションは2極化している

 ファッションデザイナー、菊池武夫(73)さんの経歴は実に華々しい。

 

 1970年にレディスの「BIGI」、75年に「Men’s BIGI」を設立し、DCブームの火付け役を果たしたことは、今なお多くの人たちの記憶に鮮明に刻まれているところだ。84年にはワールド(兵庫県/寺井秀藏社長)に移籍して、「TAKEO KIKUCHI(タケオキクチ)」を立ち上げた。

 この間、萩原健一さん主演の伝説的ドラマ『傷だらけの天使』の衣装担当としても、その名を世間に轟かせている。

 

 今年5月、8年ぶりに「TAKEO KIKUCHI」のクリエイティブディレクターに復帰した菊池さんは、「今のファッションは2極化している」と言う。

 

 ひとつには、GAPやZARA、H&Mやユニクロに代表されるファストファッションだ。菊池さんは、「ファストファッションは完成されている」と賛辞を送る一方で、マス化されたファッションであるファストファッションには「限界がある」とも話している。

「ファストファッションは、供給量を確保するために世界規模での展開が求められる。もちろん、生産拠点も世界中に広がる。自分では発信できないから、さまざまな業界から自分たちに役立つものを取り込む。それとともに、リーダーが即断即決できるフレキシブルな体制も必要になる。そのダイナミズムがないとファストファッションは成立しない。ということは、ファストファッションは、そのシステムの範囲でしか存在できない」。

 

 もう一極は、菊池さんの歩むクリエーションの道だ。ファッションをマス化するのではなく、前にあったモノを壊しながら少しずつ前に進むというものだ。

「もちろん価格は安い方がいい。しかし、みんなが同じ服を着る中では、自分だけを満足させてくれる服も欲しくなるはず。ファストファッションが流布すれば、それと同じだけのカウンターパワーで出てくる。だから我々のような企業がしっかりと発信しなければいけない」。

 

 菊池さんが見据えているファッションは、「今」ではなく「未来」だ。

「予想は間違っているかもしれない。また、たとえ的中していたとしても、早すぎて伝わらないこともある。だから、いつも手探りだ。自分でも先のことは分からない。だが、今の時代は自分が分からないことを分かるようにする試行錯誤のエネルギーが必要だ」。

 

 現状維持は後退である。その現状も壊し方によっては、現状維持以下に後退してしまう可能性がある。それを知りながらも壊さなければいけないのがファッション――。

 

 73歳のパワーに圧倒されるとともに、この摂理はファッションに限ったことではないと考えさせられた。