日本企業には、「やってみてダメならやめる」という発想を持つ経営者をあまり多く見かけない。
流通業界においては、「朝令暮改」や「朝礼朝改」という表現で前言撤回を当然と言い切るセブン&アイ ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)の鈴木敏文会長。また、わずか1年6か月で野菜事業「SKIP」(スキップ)を見切ったファーストリテイリング(山口県)の柳井正CEO(最高経営責任者)くらいだろう。
なぜ、そうなのだろうか?
その背景には、“恥の文化”があるのでは、とある有識者は指摘する。
実際に、企業のトップが方針を決め、多額の投資をした事業や店舗がうまくいかなかった場合、同じトップが自己否定をして、方針転換することは、“世間体”や“社内の立場”を考慮してしまうとなかなかしにくいものだ。
たとえば、ダイエーの創業者である故・中内功氏をもってしても、同社を産業再生機構入りさせる一因となったと言われる「ハイパーマート事業」(全36店舗)を否定することは、できなかった。
その結果、無駄な時間を過ごす中で雪だるま式に膨らんだ赤字を、次の経営者が処理することになった。
だが、自己否定することは、決して、恥ではない。むしろ、決定をしないことで、企業と従業員を路頭に迷わせてしまうことの方が恥だろう。
また失敗を恐れるがあまりに、新事業の立ち上げに尻込みするのは、本末転倒だ。
余力があるうちに、次期成長事業の種まきをすることは、企業成長の鉄則ともいえるからである。
「ダメなら撤退する」。
しかも、ダメだと結論を出した瞬間に撤退モードに頭を切り換えることが肝要だ。たとえ、撤退用の資金不足だとしても、その時点で撤退しなければ、企業経営は苦しくなる一方であり、そこから改善されることは、まああり得ない。
もちろん、撤退しないように、新事業に着手する前には、万全の準備や実験を実施することも大事だ。
「チェーンストアの場合は、ドミナントという考え方があり、もともとリスクは分散される仕組みなので、新店を出店する場合、基本的には撤退を考えていない」とする小売業幹部もいる。
しかしながら、いかに注意深く事業計画を策定しても、新しい事業はなかなかうまくいかないものという立場を採りたい。
だからこそ、新しい事業は社内起業や別会計で取り組み、期間を決めて、撤退戦略を組み込んだ計画が必要といえる。新しい事業に社運を賭けるなんてもってのほかだ。