私「この間、映画『タイタニック』(1997)の3D版を観てきたんですよ」
Iさん「よかったでしょう。監督は『アバター』(2009)の3D版でも力を発揮したジェームズ・キャメロンだもんね」
私「それがそうでもなくて…。もっと迫力のある映像を期待していたんですけど、3D化が目立っているのは、手前に立っている人物の影くらいなもので、あとは取り立てて凄いとは思いませんでした。やっぱり、3Dを後付にするというのは無理があるんでしょうね。ただ、2200円の鑑賞料金で3Dメガネをもらいましたんで、これからは《マイ3Dメガネ》で映画鑑賞ができるようになりました」
Iさん「そうそう。最近はメガネをくれるみたいだね。僕ももらったよ。前に使った人がどんな人か分からないというクレームがあったり、汚かったりという衛生上の問題なんかがあったんだろうね」
私「われわれが子供のころは、そんなことまったくなかったのにねえ」
Iさん「路上に落ちたお菓子でも食べちゃったりしてね。それでもなんともなかった。まあ、老若男女が逞しかった」
私「そんなクレームから起こったかどうかはわかりませんけど、映画鑑賞で言えば、最近は禁止項目がやたらと多いですよ。『タイタニック』でも喫煙、おしゃべり、携帯電話は当たり前のように禁止です」
Iさん「そりゃそうでしょう。でも僕らが子供のころは、タバコは吸えたよね。喋っていれば、怖いおじさんに怒鳴られた」
私「それだけじゃないんですよ。前の席を蹴らない、食べ物を食べる音をさせない、食べ物のにおいを控える…」
Iさん「そんなに細かいの? 僕が最近行った映画館では、あまり気づかなかったけど」
私「従来なら、観客が直接、別の観客に文句を言ったものでしょ。それが調整弁として機能していたようなところがあったんですけど、今やそんな不文律が規則として、上映前の画面に映されるんですよ。それだけで食傷気味。いやになっちゃいますよ」
Iさん「ファミコン世代やネット世代の台頭で、人との接触を忌避する人たちが増えている当世を表しているようで興味深いね。大体、館内ではポップコーンを売ってるんでしょ。音も立てないで口中で舐めて溶かしてどうするんだよね。うまいわけないよね」
私「嫌煙権、日照権、セクハラ、パワハラなど…子供のころにはなかった言葉がどんどん増えていくたびに居心地の悪さを実感しますね。地球の人口が70億人を超えるってこういうことなのかなあ?」
Iさん「そうかもしれないね。まあ、だからと言ってすべてを否定するのはどうかと思うけど、確かに住み心地は悪くなっているよね。どんどん活動範囲が制限されているようでね。夏目漱石の『草枕』の一節、『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい』の境地だね、って言ったら気障かなあ?」