もう15年くらい前の話になる。
倒産の危機に瀕したある小売企業のメーンバンクが融資を打ち切るという噂を耳にして、その真偽について、都市銀行の広報室に取材に出かけた。
「分かりません」。
そっけない答えが返ってきただけだったが、「打ち切る」ものだと私は理解した。
理由は簡単だ。
銀行広報室の私の問いに対する回答は、「打ち切る」「打ち切らない」「分からない」の3つしかない。
もし、「打ち切らない」のであれば、「打ち切らない」と否定しこれまでの体制を継続することを明言すればいい。旧体制維持で迷惑がかかる企業や人間は、その時点ではほぼいなかった。
一方、「分からない」という答えは、隠された何かがあるということを表している。「打ち切らない」と言い切れない何かがあるのだと考えるのは普通だ。
だから噂は本当であり、「打ち切る」に違いないと確信した。
実際、その数カ月後には、打ち切りの事実が明らかになった。
私が取材した広報担当者は、その銀行に勤める私の友人と同期入社があることが分かったので、後日、当時の対応の舞台裏について聞いてもらった。
結果は、私の読み通りで、その時点で「打ち切る」ことは決まっていたが、まだ出したくないので「分からない」と答えていたのだという。