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“権威”は信頼を失った

 枝野幸男官房長官がたびたび口にする「ただちに健康被害が出ることはない」という言葉――。

 つい30年も昔であれば、お上の言うことは間違いないとばかりに、「(放射線は)大丈夫なんだ」と盲信する国民が多かったことだろう。

 大本営発表に騙される大衆は確実に存在していた。

 

 ところが現代は、枝野官房長官の発言を受けて、心底、安全や安心を感じる者はほとんどいない。

 “ただちに”という箇所に深い疑いを持ち、「万全ではないんだ」と政府の煙幕に惑わされることなく、冷静を保っている。

 非常に良い傾向である。

 

 もはや日本国民は、以前からあった“権威”を信じていない。

 政府、政治家、大企業、大新聞社、大テレビ局、御用学者…。

 

 彼らの発する一言一句を実に冷ややかな目で見ているだけだ。

 

 “権威”がなぜ、事実を発表しないのかは、分からないわけではない。

 本当のことを報じれば、パニックや暴動を助長することになるので、オブラートに包んで報じる、または報じない、という選択肢を選んでいるのだ。

 

 4月10日に日本全国各地で起こった反原子力発電所のデモ、被災地で行われている略奪行為、放射線を出し続ける福島第一原子力発電所の実態…。大メディアがほぼ報じなかった理由もそう考えれば理解できる。

 

 ところがいまや、“権威”のそんな裏事情を誰もが知るに至っている。

 インターネット網が個々人の発信を可能にしているから“権威”が歪曲、隠ぺいしようとした事実は、即座に白日のもとにさらされることになる。

 

 それが幾度となく繰り返されれば、“権威”は信頼を失う。

 実際、すでに日本国民の“権威”への信頼は失墜してしまった。

 

 いま、“権威”がしなければいけないことは、事実をすべて表沙汰にした上で、「具体的で的確な対策を明示し、だから大丈夫です」と発表し安心させることだ。

 

 そのくらい、難易度の高いことを要求されているのであり、事実を隠すだけなら“権威”ではなくともできる。