阪食(大阪府/千野和利社長)の「阪急オアシス 山科店」(京都府)を見せていただいた。「高質食品専門館」のコンセプトに基づき、ライブ感のある売場演出や、多くのお客とコミュニケーションを持つ事での「情報発信」、品揃えによる「専門性」を訴求し、食にまつわるライフスタイルを提案している。
お客とのコミュニケーションをより深めることを重視し、生鮮品は対面売場を多用した。
農産売場では、「量り売りコーナー」を、また畜産売場では、畜産関連総菜を導入し即食品を充実。水産売場では、好評のお魚屋さんのお寿司を導入。総菜売場には、注文後の「揚げたて・焼きたて商品」メニューを豊富に揃え、お客と対話のできる売場づくりに努めている。
売場には店員の掛け声が始終こだまし、通路からは総菜や寿司の手づくり工程が覗ける。つくるそばから飛ぶように売れていく。
ファクトリーと市場然とした売場が直結した全く新しい形の食品スーパーの誕生だ。
これまでチェーンストア経営においては、一部の企業を除いて“接客”を等閑視してきた傾向がある。(1)セルフサービス、(2)標準化、(3)単純化、(4)中央化、という3S1Cの骨子からなるチェーンストア理論に則る形で発展してきたからだ。
本来、チェーンストア理論上のセルフサービスは、売場に存在する無数の商品を「落ち着いて、気軽に、自由に、安心して購入する」ことができるようにするサービスを指し、ノーサービスのことではない。だから、売場を製造産業別分類から用途別(TPOS)分類に区分したり、POPを充実させて“接客”がなくても、消費者に満足のいく買い物をしてもらえるだけの工夫とコストが必要になる。
だが、日本のチェーンストア企業の多くは、「セルフサービス=省力化」と歪曲して理解してしまった感がある。
そのなかで、デフレ進行による価格競争は激化し、チェーンストア企業はさらなるローコスト経営を余儀なくされており、店舗従業員を削減する企業は少なくない。人件費のコントロールについては基準となる目安はほとんどないので、削減しようと考えればどこまでも可能だ。
その結果、従業員のいない売場があちこちに散見できるようになっている。その従業員も、セルフサービスであることを理由に積極的な商品知識の取得に励まない。だから、たまに消費者から質問を受けても、無視するか逃げるようにその場を去ってしまう。
小売業の唯一無二の目標は消費者を満足させることだ。そのためのベストサービスがセルフサービスという強い企業理念があるのであれば、かまわない。
しかしながら、消費者は明らかにチェーンストアの売場の現状には「ノー」という回答を突きつけている。以前、ダイヤモンド・フリードマン社が実施した調査によれば、「売場の接客に不満を感じた」消費者は66.9%に達する――。
そして、そうしたトレンドが阪食の新しい店舗の呼び水になっているのかもしれない。
(『チェーンストアエイジ』誌2010年6月1日号では、阪食の企業特集を予定しています)