「涙は女の武器」と言われていたのもいまは昔――。
10年ほど前、遊び人だったT君に聞いたことがある。
「T君は交際相手を年がら年中とっかえひっかえだけれども、君くらいカッコいいと君は良くても、女性が別れてくれないじゃないの。いったい、どうしているの?」。
「実は…」とT君は、別れ方について話してくれた。
「泣くんですよ。何かの理由をつけて泣いて別れを乞うて、女性の僕に対する憧れやリスペクトを壊してあげるんです。そうすると案外別れてくれるんですよね」。
まるで悪魔のような奥義であるが、時代は変わるもの。T君は、涙を男の武器にしてプレイボーイを興じていたわけだ。
野球評論家の張本勲さんに「喝!」と怒られそうな涙を流したのは、昨晩完投勝利を飾った埼玉西武ライオンズの菊池雄星投手だ。
6月12日に阪神タイガース戦でプロ初登板。3回でノックアウトされると涙を流した。悔し涙の典型と言っていいのだろうが、プロはそんなに簡単に泣くべきではない。
“男の涙”を売りに大活躍なのは、今年古稀を迎えた元日本テレビアナウンサーの徳光和夫さんだ。
最近では「泣きの徳光」としてバラエティに、スポーツに、抜群の存在感を見せている。
明日の夜からスタートする『24時間テレビ34 愛は地球を救う』では24時間マラソンに挑戦。中継点やゴールでの泣きのシーンは、月曜日のスポーツ新聞芸能欄のトップを飾ることになるのだろう。
そしてトリは海江田万里経済産業大臣だ。
菅直人首相の後継を決める民主党代表選に出馬する意向を固め、今日にも記者会見して正式に表明するという。
7月末に国会で自らの辞任の時期を問いただされ、涙を流し、論議を呼んだ。
私見を述べるなら、海江田大臣の涙が菊池雄星投手のような喜怒哀楽をむき出しにしたようなものならまったくダメであり、リーダーの素質はゼロ。すぐに政治家をやめてもらいたい。
しかし、T君や徳光さん型の“武器”としてのもの、すなわち「国民からの同情を意識して好感度や支持率アップを狙ったもの」であるならば、政治家としてはなかなかのものだ。
涙の向こう側のとんでもない鉄面皮と泣き泣き戦法で、官僚をうまく操り、外交では百戦錬磨の各国トップを煙に巻くことができるかもしれないからだ。