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焦点:企業のビットコイン投資、担当者が「賭けられない」理由

ビットコインのイメージと米ドル紙幣
3月8日、米電気自動車(EV)メーカー、テスラのマスク最高経営責任者(CEO)が今年2月、暗号資産(仮想通貨)ビットコイン保有を拡大したと表明すると早速、多くの評論家が、企業によるビットコイン投資ラッシュが起きると予言して見せた。写真はビットコインのイメージと米ドル紙幣。1月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

[ロンドン/ニューヨーク 8日 ロイター] – 米電気自動車(EV)メーカー、テスラのマスク最高経営責任者(CEO)が今年2月、暗号資産(仮想通貨)ビットコイン保有を拡大したと表明すると早速、多くの評論家が、企業によるビットコイン投資ラッシュが起きると予言して見せた。

しかし、企業の財務担当幹部や会計専門家によれば、すぐさまビットコインに殺到することにはなりそうもない。こうした財務や会計の責任者は、価格が不安定で予測不能なビットコインが、バランスシートや自社の評判を傷つけるのを嫌うからだ。

英企業財務協会(ACT)に助言するPwCの国際税制・財務担当パートナー、グラハム・ロビンソン氏は「自分が企業財務の試験を受けた時、最優先の目的は、バランスシートの安全と流動性を確保することだと教わったものだ。ビットコインには、その面で根本的な問題がつきまとう」と話す。同氏は「安全と流動性こそが財務担当者の目的であるなら、これらの目的が損なわれる場合、そうした担当者は立場が難しくなりかねない」と指摘した。

マスク氏がビットコイン15億ドル分を購入したと明かしたことに便乗するように、ビジネスソフトウエア企業・マイクロストラテジーも、ビットコインの追加投資を発表した。また、ツイッターのドーシーCEOが率いる決済企業・スクエアは、一部の手元現金をビットコインに入れ替えている。

ビットコインは、インフレやドル安に対してだけでなく、高利回り資産を見つけ出すのが難しい超低金利に対するヘッジ手段になるというのが、支持派の主張だ。

こうした動きをきっかけに、確かに企業取締役会でのビットコインへの言及は増えてはいる。だが、ビットコインにはボラティリティーから会計処理および保管まで、さまざまな「頭痛の種」があるため、バランスシート上でビットコインを大規模保有する動きが短期的に相次ぐとは考えにくい。これが財務担当幹部や取締役、会計専門家など十数人をロイターが取材して得た結論だ。

米半導体大手・ブロードコムの監査委員を務める起業家で投資家のラウル・フェルナンデス氏は「企業経営陣の議論に影響を及ぼすには、ごく少数の現状打破的な企業だけでなく、もっと多くの企業がビットコイン投資に向かう必要があるだろう。より規模が大きいグローバル企業に至っては、今のところビットコイン投資が話題に上るのさえ、目にすることはできない」と述べた。

窮屈な会計上の縛り

問題の1つは、会計実務の分野では他の多くの業界と同じく、今も仮想通貨の性質を詳しく分析している段階にとどまっていることにある。

米国財務会計基準審議会(FASB)は、仮想通貨だけを対象とした処理の指針をまだ用意していない。ただ、企業は知的財産やのれん、ブランド認識などに通常用いられる「無形資産」に関する既存のFASBの指針をビットコインに適用している。

これに基づくと、投資会社ないしブローカーディーラー以外の企業は、ビットコインが値上がりしても評価益は計上できない。一方で、値下がりした場合は、減損処理をしなければならない。

さらにいったん評価額を引き下げると、その後値上がりしても売却するまでは評価額を修正できない。対照的に従来型の通貨を保有しているのであれば、企業は定期的に時価評価額を財務諸表に反映させられる。

FASBは、急いでビットコインの扱いを見直す計画はない。事情に詳しい関係者の話によると、この問題で影響を受ける加盟企業が、ほとんど見当たらないことが理由だ。

ただ、元FASB会長のロバート・ハーツ氏は「現状が最適な会計処理だとは思わない。より多くの主流な事業会社がビットコインを保有するようになれば、FASBも処理方法を見直すかもしれない」と話した。

米国外でも、仮想通貨は無形資産として扱われるのが一般的だ。もっともFASBの指針と逆に、いったん下げた評価額は例えば数年のうちに引き上げることができたりする。企業がビットコインの時価評価を適時計上できるケースもある。

財務担当者の頭痛の種に

ビットコイン・トレジャリーズのデータを見ると、上場企業全体のビットコイン保有高は約90億ドル。その8割前後はテスラとマイクロストラテジーが占め、マイクロストラテジーの保有高は45億ドルを超える。利用者にビットコインでの取引を認めているスクエアは2月、1億7000万ドル分のビットコインを追加購入したと明かした。

当然ながら保有するビットコインが値上がりした場合、企業は売却すれば常に利益を確定できる。それでも過去の荒っぽい値動きを踏まえると、リスクの高い投資先と言わざるを得ない。

例えば2013年、13ドル前後で取引が始まったビットコインは1000ドル超まで急騰。17年は約1000ドルから2万ドル近辺に跳ね上がり、20年序盤には4000ドルを割り込んだ。今年に入って5万8000ドルを突破して過去最高値を更新した後、2月終盤にわずか1週間で25%余り急落。足元でそうした値下がり分の一部を取り戻しているという状況だ。

米調査会社のガートナーが2月、企業の重役77人を対象に実施した調査では、年内にビットコイン保有を計画していると答えた最高財務責任者(CFO)と財務部門幹部は、全体の約5%にとどまった。さらに企業の資産としてビットコインを保有するつもりは今後もない、という回答は約84%に達し、最大の懸念要素に挙げられたのがボラティリティーだった。次いで懸念されたのは取締役会としてのリスク回避、決済手段としての普及の遅れ、規制上の課題と続いた。

CFOリーダーシップ・カウンシルの責任者で自身もCFOだったことのあるジャック・マカルー氏は、ほとんどの企業はビットコイン投資を避けると思うと述べた上で「CFOは企業財務の管理において非常に保守的になりがちで、金利が低く極めて安全な場所に資金を置くことを喜ぶ。企業が事業を通じて成長するのを支援するのが彼らの役目であり、財務には安全と安心が求められる」と説明した。

慎重な財務担当者

ただ、ビットコイン支持派は、企業がビットコインを購入する合理性は明白で、圧倒的な準備通貨であるドルの下落がその1つであるのは言うまでもないと主張する。過去1年間で主要6通貨に対するドル指数は、約4.5%下がった。

日本の真空技術メーカー、アルバックの米国部門・アルバック・テクノロジーズのデーブ・サケットCFOは「ドルは長期的に価値がどんどん目減りしている。ビットコインはまさにその逆だ」と話す。

サケット氏は昨年4月、会社幹部にビットコイン投資を熱心に説き、収益が得られる機会を生かすべきだと提案した。それなのに幹部陣が、せっかくのチャンスを逃したと残念がる。

とはいえデロイト・アンド・トゥーシェの財務・リスクアドバイザリー慣行プリンシパル、ティム・デービス氏は、企業にとってビットコインには、どうすれば安全に保管できるか、あるいはセキュリティーに関する警戒策について、株主にどこまで開示すべきかといった問題も生じかねないと強調した。

仮想通貨交換業者からごっそり資産が盗まれるという、注目を集める事件が続いたことで、デジタル資産の安全な保管方法を巡る課題は浮き彫りになっている。デジタルウォレットのパスワード流出もリスクの1つだ。インターネットに接続されていないオフライン環境にある「コールドウォレット」が、ハッカーの侵入を防ぐ上で最適との見方が多い。ただ、そこに規制上の基準の類いは、ほとんどないに等しい。

デービス氏は、1)自分で保管するのか、2)交換業者の保管サービスを利用するのか、3)ネットに接続しているホットウォレットと、コールドウォレットとの資産配分をどうするか――などの問題点を列挙した。

専門家によれば、結局のところ、ビットコイン投資の経験がない企業が新規導入に踏み切るかどうかは、財務担当者が自身でどこまでリスクを背負うつもりがあるか、に左右されるのかもしれない。

英企業財務協会のナレシュ・アガルワル氏は「ビットコイン投資の流れに当初から乗ろうとする人はほとんど存在しないというのが、財務担当者の間でおおむね一致した意見だ」と指摘する。「財務担当者として相場の読みが正しくて、ビットコイン価格が2倍になれば、企業は保有分を売って利益を得られるかもしれない。そこで企業の資産は増えるかもしれないが、しかしながら、私の報酬にそれは決して反映されないだろう」という。「ところが、もし価格が下落したらどうなるか。私は解雇されるとかなり自信を持って言い切れる。だとすれば、なぜ自分の首を賭けて、わざわざそんな危険な行為をする必要があるのか」と同氏は語った。