[東京 26日 ロイター] – 外食産業で明暗が分かれている。新型コロナウイルスの影響を総じて受けているものの、業態や客層、立地などによってその濃淡が異なるためだ。接待や宴会需要の高いパブ・居酒屋の売り上げが落ち込む一方、食堂、レストラン、専門店などは底堅い。大人数より小人数、繁華街より郊外の業態の方が相対的に賑わいをみせている。
寂しい繁華街
「本当はきょう貸し切り営業だったんですけどね」。3月中旬のアフター5。東京・赤坂駅から徒歩5分の居酒屋には、カウンターに個人客が1人。いつもと違う風景が広がっていた。
地酒が売りのこの店は、19時過ぎには会社帰りのビジネスパーソンでテーブル・カウンター全25席が埋まることが多かった。ただ、安倍晋三首相が先月26日、イベントの自粛を要請したところから風向きが変わり、3月2日以降に入っていた予約は個人、宴会を含めてすべてキャンセル。9日以降も予約の申し込みがまったく無くなったという。
例年、3月は企業の送迎会などがあって忙しい時期だが、新型コロナの影響で自粛ムードが広がり機会損失となっている。「歓迎会は延期できますが、送迎会は人が別の場所に行ったきりになったりしますからね。送迎会のやり直しは見込めません」。居酒屋の店主は話す。
レストラン予約管理システムなどを手掛けるテーブルチェック(東京都中央区)がまとめたデータによると、団体予約のキャンセル率が、26日以降、6名予約が1月初旬に比べて約1.5倍、10名以上が約3.6倍まで急上昇したという。
赤坂や新橋などの飲食店の事情に詳しい、港区内の酒店店員によると、接待や宴会の自粛が飲食店の経営を圧迫。夜間営業のみの店がランチを始めたり、複数店を経営しているところは営業店舗を減らしたりして「糊口を凌いでいる」という。中には4月以降の営業の継続を諦め、店舗の賃貸契約を解約したところもあるという。
郊外は別の光景
賑わいをみせている店もある。
別の3月後半の平日夜。東京・板橋区の住宅街の一角にある居酒屋は、ほぼ満席状態だった。企業や団体ではなく、常連やファミリー層が顧客の中心だったこともあり、新型コロナ流行による自粛の影響を免れた形だ。「客足はほとんど落ちていない」(店主)といい、男性客の一人は「会社での飲み会はほとんどなくなった。最近は一人でサッと飲んで帰ることが多くなった」と話す。
その日の深夜。同じ板橋区の幹線道路沿いにある立ち食い蕎麦屋には、途切れることなく客が舞い込んでいた。午前0時を過ぎているにもかかわらず、カウンターはほぼ満席。客は平均10分程度で食べ終え、徒歩や自転車で帰っていく。客足について、ここもまた「おかげさまで新型コロナの感染が拡大してからもあまり変化はない」と店員は話す。
夜間帯メインの業態が苦戦
日本フードサービス協会が25日発表した外食産業データによると、2月の外食全体の売上高は前年同月比4.8%増。このうちファーストフード業態が同9.8%増、ファミリーレストラン業態が同2.0%増だったのに対し、「パブ・ビアホール」が同9.6%減、「居酒屋」は同4.8%減、ディナーレストラン業態は同2.6%減だった。
同協会は「飲酒業態は立地や客層により新型コロナの影響に差があり、若年層やプライベート需要の多い店では影響が比較的少なかった一方、観光地立地や法人の宴会需要が多い店は月後半を中心に大きな打撃を受けた」と指摘する。
今年の2月は閏年で日数自体が1日多かった。天皇誕生日で祝日が増えたことや、土曜日が1日多い曜日周りだったことなど特殊要因もあった。それを差し引いても夜間帯メインの業態での苦戦を示すデータが出てきたことで、市場では「居酒屋系の3月月次は相当厳しい数字が出てきそうだ」(立花証券・国際法人部課長、栗原一朗氏)との見方が多い。
コロナの影響、長引く可能性も
4月が近づき、長期にわたる自粛に対する「疲れ」や、危機感や実感の希薄化が出ていた部分もあり、「いつも混雑していて予約が取れない飲食店を友人や同僚などと来店している」といった声も出始めていた。
ただ、東京オリンピックの開催延期が決定。その後、東京都で新型コロナ感染症の増加ペースが加速し、小池百合子都知事が週末の不要不急の外出を自粛するよう都民に要請する事態となっている。
市場からは「新型コロナが終息すれば短期的に回復するだろうが、長い目で見れば、戻り切れないリスクもある。これを機に働き方改革を進める方向になるだろう。テレワークが推進され、同僚との飲食や接待の必要性が見直される可能性がある」(SMBC日興証券の日本担当シニアエコノミスト、宮前耕也氏)との声も出ている。
コロナの影響が長引けば、これまでとは違う外食産業の姿が広がるかもしれない。