仕事で各地へ行くと、その土地で人気のある飲食店を探すのを毎度楽しみにしている。しかしスマホで検索しても、なかなか“当たり”に巡り合わない。きっと京都を訪れる方も同じだろうと、今回、地元民の私が紹介したい店がある。周辺には見どころも多く、機会があれば足を運んでほしいと思う。
立派な洋館が並ぶ三条通
京都市中心部、市営地下鉄の「烏丸御池」駅から「京都市役所前」駅にかけては、落ち着いた雰囲気の中にも見どころが多い“大人の街”である。清水寺や伏見稲荷大社周辺のような派手さはないが、観光スポットや人気店も点在、個人的におすすめしたいエリアだ。
おすすめの飲食店へ行く前に、見物がてら歩く。
カフェや雑貨店、ブティックなどに混じり、あちらこちらで見られるのは洋館である。京都といえば京町屋はじめ和風建築を想像する人は多いと思うが、実は明治や大正期の異国情緒あふれる建物が多い。
三条烏丸交差点にあるのは、明治9年(1906年)竣工の「みずほ銀行京都中央支店」(旧第一勧業銀行京都支店)。実は1999年に一旦、取り壊されたが保存を求める声を受け、2003年に復元された。
三条通を東に進み、東洞院通との交差点に見えるのは明治35年(1902年)に建築された「中京郵便局」。1970年代、改築計画に伴い、一旦は取り壊しが決まったが、こちらも反対運動によって、外壁だけ残して内部を新築するという手法により今も当時の姿を残している。それにしても日本の企業や国は古い建物を壊すことに抵抗がないのかと、少し憤りを感じるね。
さらに東へ進むと、旧日本銀行京都支店だった「京都文化博物館」。これも先ほどの、旧第一勧業銀行京都支店と同様、建築家、辰野金吾の設計によるもの。
洋館だけではない。「柊屋」「俵屋旅館」「炭谷旅館」という「京都三大旅館」があるのもこのエリアだ。以前にもこのコーナーで触れたことがあるが、これらの老舗旅館には、Apple共同創始者のひとり、かのスティーブ・ジョブズのほか、ロックミュージシャンのデヴィット・ボウイも宿泊している。
さらに東へ移動すると、「本能寺」はじめ寺院が多い寺町通が見えてくる。ここまで来ると河原町通も近く、賑やかな雰囲気である。
そんなエリアの一角にあるのが、今回、食事をする「わたつね」。ネットで調べると「京味菜 わたつね」と「石臼蕎麦 わたつね」、2種類の店名が出てきて、どちらが正しいのか定かではない。メニューには「京の定食とおかず」とのキャッチコピーがあり、これが一番しっくりくる。
それはともかく早速、店内へ入る。
見よ、この完璧なルックスを
足を運んだのは日曜日の夕方。人気店なので、混雑を避けようと夕飯時よりも少し早めにやってきた。幸運にも、すぐに座ることができた。
メニューを開き、何を食べるか検討する。先ほど店名のくだりでも書いた通り、ここは手打ちの蕎麦もおいしく、もちろん私も時々食べる。しかし今回は「かきごはん」を注文することに決めていた。
その他はどうするか。事前に調べると、カキフライと一緒に頼む人もいるようだ。しかし見栄えを想像すると少し違うような気がする。あれこれ考え、若い女性店員の提案により、「刺身定食」のごはんをかきごはんへ変更するという組み合わせでいくことにする。何でも聞いてみるものだ。
料理を待つ間、店内を様子を観察すると、年配男性、友達同士、カップル、親子といったように客層は幅広い。壁面にはカウンター席があり、常連と見られるおじさんが定食を食べながらビールを飲んでいた。創業は昭和32(1957年)で、もう70年近くも地域から愛されているのかと思うと感慨深い。
私は8時過ぎ、近くに用事があって店の前を歩いたことがある。すると「だし」の香りがほんのりと漂っている。朝からまじめに仕事をしているのだろうと想像しながらいつも通り過ぎる。
しばらくして私のテーブルに届けられたのがこれ。もう完璧なルックスである。ちなみに値段は1500円。ラーメンが1杯1000円以上もする時代。同じものを祇園とか観光地で食べたら、少し器を高級なものに入って軽く3000円以上はするのではないだろうか。
さっそくかきごはんからいただく。しょうがの香りがぷんと効いており、とてもおいしい。続けて、お刺身。鯛、まぐろだけでなく、あわびまで入っている。もちろん最高だ。一緒に頼んだ焼酎のお湯割を飲むと、幸せな気持ちになった。
夢中で食べ、すべていただく。ごちそうさまでした。
入口の方を見ると、何組か並んでいるようだ。お待たせするのも悪いので、すぐにお勘定を済ませ、再び、洋館のある三条通を歩いて帰った次第である。