生鮮食品の流通で重要な役割を果たしている中央卸売市場は、北海道から九州、沖縄まで全国に分布する。数ある中央卸売市場の中で、日本で最初に開設されたのが「京都市中央卸売市場第一市場」だ。そんな「食の原点」とも言える場所を訪れ、空腹を満たしてやろうというのが今回の企画である。
※現在は閉店
期待に胸を膨らませて入店
古都の玄関口、JR「京都」駅から山陰本線に乗って1駅の「梅小路京都西」駅周辺には、「京都水族館」や「梅小路鉄道博物館」など、寺社仏閣とは一味違った楽しいスポットが点在する。そのため近年はカップルや家族連れ、観光客が増えている。
その一角にあるのが京都市中央卸売市場。開業は1927年(昭和2年)、今年95周年を迎えた日本でもっとも古い中央卸売市場である。現在、全国各地にある市場の多くは、京都をモデルにしたものと考えられる。
長い歴史を持つ反面、施設は老朽化している。これを受け、近年、行われているのが建て替え工事。同時に食文化の継承、情報発信の拠点としての再整備計画も進む。
計画の一環で、2020年7月には京都の「食」や「職」をテーマとするコーナー、またホテルが入る大型の複合施設が開業した。中央卸売市場から直送の鮮魚を使った寿司店が店を構えるなど、一体となった取り組みも見られる。
今後、計画の進行に伴って構想が具現化していけば、今以上に魅力的なエリアになっていくのは間違いない。
今回はそんな京都市中央卸売市場で昼食をいただくというお話。気持ちを盛り上げるため、朝から一切何も口にしていない。中央市場の新鮮な素材を使った食事で、“完全空腹状態”の胃袋を一気に満たしてやろうという目論みだ。
市場の南側から入る。七条新千本交差点を北進すると完成した水産棟が見える。そのまま通り過ぎ、しばらくして左手に3階建ての事務所棟が現れる。そこを左折、2つめの建物が、お目当ての店が入る11号棟である。
足を踏み入れると市場関係業者が数多く入居する通路に、今回の舞台となる「割烹 マキノ」がある。市場内にある飲食店としては最古参の部類に入るという。営業時間は午前7時から12時。市場関係者向けなので早く閉まるのだ。
店の前には「日替わり定食 さば煮 かやくごはん 700円」と書かれたボードが掲げられている。時計を見ると、午前11時過ぎ。期待に胸を膨らませながら、年季を感じさせる暖簾をくぐった。
しばらく放心状態のまま天井を眺める
店内に入ると、5卓あるテーブルはすべて埋まっていた。店員に「1人です」と伝えたところ、相席を促され適当な席に座る。
壁には「日替わり定食」のほか、「焼魚定食 800円」「うなぎ丼 同」、お造りの「盛合わせ定食 1100円」などの手書きメニューがあった。私は空腹にふさわしい料理はどれかと考え、「中トロ定食 1200円」を注文した。
料理がくる間、周囲を観察していると全員が男性。作業着姿の市場関係者のほか、スーツに身を包んだサラリーマン、またリュックを抱えた旅行者風の人もいる。
料理を運んでいるのは、やや落ち着いた年齢の金髪女性。伝票を確認しながら、お盆の上に小鉢を置いたり、戸棚から食器を下ろしたりと忙しそうに働いている。奥の厨房に視線をやると、黙々と調理する年配の男性の姿が見えた。無言の連携のもと、実現している効率的なオペレーションを感じる。
少しして、運ばれてきた定食がこれである。
中トロをアップ。
まずは味噌汁から。割り箸で具を確認した後、椀を持ち上げ、すっと汁を口に含む。うん、薄味で好きな味だ。
いよいよメーンの中トロである。
一番手前にあった一片を箸で持ち上げる。
わさびを多めに入れ、事前に攪拌しておいたしょうゆにつけて口に入れる。心の中で思わず「ブラボー!」と叫んだ。間髪入れずご飯を掻き込むと、久しぶりの食事に早くも胃が反応している。たまらず、中トロをもう一片、追加投入した。
それから大根おろし&釜揚げしらすやたくわんで時々、口をリセットしつつ、思う存分に中トロを楽しんだ。最後は、ちょっとだけ残しておいた味噌汁でフィニッシュする。
ごちそうさまでした。しばらく放心状態のまま天井を眺めていた。
満足な気持ちで店を後にする。競りはとっくに終わっており、活気のある時間帯ではない。だが、あちこちで軽車両や、「ターレットトラック」と言われる小型の乗り物で移動する人の姿があり、あらためて中央市場にいることを感じさせてくれた。
「京都」駅から、わずか1駅の「梅小路京都西」駅の周辺エリア。ちょっと違った京都を楽しみたい人におすすめしたい。