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アマゾン ジャパン ライフ&レジャー事業本部 統括事業本部長 バイスプレジデント 渡辺 朱美
PB商品でも「地球上で最も豊富な品揃え」めざす!

インターネット通販最大手のアマゾン ジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長:以下、アマゾン)は7月29日、小売業や通信販売専業企業のプライベートブランド(PB)商品を取り揃えた「プライベートブランドストア」(http://www.amazon.co.jp/pbrand)をオープンした。なぜ、アマゾンは小売業のPBの販売に力を入れるのか。担当のライフ&レジャー事業本部統括事業本部長の渡辺朱美バイスプレジデントに聞いた。

聞き手=千田直哉 構成=小木田 泰弘(以上、チェーンストアエイジ)


PB商品を比較購買できる場を開設

アマゾン ジャパン ライフ&レジャー事業本部 統括事業本部長 バイスプレジデント
渡辺朱美 わたなべ・あけみ●九州大学卒。外資系IT企業にて、27年間にわたって日本・アジア・グローバルの舞台にて活躍。サーバーやPCの事業を統括し、執行役員、代表取締役社長歴任後、2013年よりアマゾン ジャパンにて現職。

──3万2000点以上のPB商品を集めた「プライベートブランドストア」(以下、PBストア)開設のねらいは何ですか?

 

渡辺 まず、消費者の立場でみると、プライベートブランド(PB)商品に触れる機会はリアル店舗に行かなければありませんし、複数の小売業のPB商品を比較購買できるところもほぼ見当たらないということです。一方の小売業にとっては、PB商品の販売チャネルは自社やグループの店舗、ECサイトに限られます。PB商品だけを集めた「PBストア」を開設することで、さまざまな商品を比較購買したい消費者と、商勢圏外に住む幅広い消費者にリーチしたい小売業、双方のニーズに応えることができると考えました。

 

──7月29日の開設時点では、アマゾンを含めて16社が「PBストア」に出品しています。ホームセンターのカインズ(埼玉県/土屋裕雅社長)、DCMホールディングス(東京都/久田宗弘社長)、東急ハンズ(東京都/榊真二社長)、ドラッグストアのマツモトキヨシホールディングス(千葉県/松本清雄社長)、スポーツ用品のアルペン(愛知県/水野泰三社長)などの大手だけでなく、ローカルチェーンも散見できます(図表参照)。

 

 

渡辺 たとえば、北海道、もしくは九州など、ルーラルを中心に店舗展開している販売事業者さんにとって、本州の大都市圏に住む消費者にリーチする機会はあまりなかったと思います。本州に住む消費者も、北海道や九州など、遠くにある店舗に行って買物する機会は少ないでしょう。大都市圏を中心に店舗展開している販売事業者さんも同じで、店舗と消費者の距離が遠いほど、双方の接点は限られてしまいます。PB商品を展開していても、店舗が消費者の近くになければ、両者が物理的に接触する機会はほとんどありません。

 

 しかし、オンラインの訪問者数が圧倒的なアマゾンに出品することによって、PB商品と消費者の接点は確実に増えることになります。

 

 しかも、消費者は「PBストア」で異なるチェーンのPB商品を比較できます。このような場はこれまでになかったと思います。

 

 たとえば、「PBストア」内の「ヨガマット」は、アルペンのPB「IGNIO(イグニオ)」と、「スポーツオーソリティ」(運営はメガスポーツ〈東京都/南山学社長〉)のPB「s.a.gear(エスエーギア)」、カインズのPB「カインズ」の商品が表示されます。「人気度」「価格」「レビューの評価」「最新商品」で並べ替えて表示できるので、比較はしやすくなっています。

 

──「PBストア」の開設はアマゾンにとってどんなメリットがあるのですか。

 

渡辺 「PBストア」に出品いただいているのは、以前からアマゾンのプラットフォームをご利用されていた販売事業者さんです。アマゾンが「PBストア」として再編集しなくても、消費者が検索し購入できるようになっていました。

 

 しかし、「PBストア」としてまとめることで、PB商品を求めて「amazon.co.jp」を訪れるお客さまに、検索のしやすさ、簡単に比較できる利便性を提供できるようになります。これは訪問者や売上アップにつながるのです。

 

 アマゾンは、そのビジョンの1つに「地球上で最も豊富な品揃え」を掲げています。これまでも、そして、こらからもナショナルブランド(NB)商品を増やすことに取り組みますが、PB商品をさらに拡充する1つの手段として「PBストア」をスタートさせたのです。

膨大な数の商品に埋もれるPBを目立たせる

──「PBストア」は、すでに出品していた小売業のPB商品を単純に括り直しただけのように見えますが、なかなか考えつかない斬新なアイデアです。日本以外のアマゾンにも「PBストア」のような取り組みは見受けられません。

 

渡辺 アマゾンは、アメリカをはじめ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどでも事業を展開していますが、私が知る範囲では、日本以外のアマゾンで「PBストア」のような括りでサイト内にストアを設けているケースはないと思います。

 

 「PBストア」は、私が管轄するライフ&レジャー事業本部にPB商品が多いことから、まずは始めたというのが本当のところです。

 

 アマゾンは、取扱商品のマーチャンダイジング(MD)と販売を担うリテール部門、サイト上で事業を展開する企業を開拓・支援するマーチャントサービス部門、確実かつ早いデリバリーを支え、顧客満足度の向上を実現させるオペレーション部門などに分かれていて、それぞれが有機的に連動し、アマゾンのサービスを支えています。

 

 そして、アマゾンは、自社で商品を仕入れて販売する「リテール」のビジネスモデルと、メーカーや小売業など販売事業者さんに出品していただく「マーケットプレイス」のビジネスモデルの2つに大きく分けられます。

 

 私が管轄するライフ&レジャー事業本部は、リテール部門内にあり、(1)DIY・カー・バイク用品、(2)スポーツ&アウトドア、(3)ベビー・おもちゃ・ホビー、(4)ホーム&キッチン・ペットの4事業部から成ります。

 

 ライフ&レジャー事業本部内では、アマゾンに出品する販売事業者さんをもっと増やし、アマゾンのプラットフォームを活用いただき、われわれのビジネスをさらに成長させるにはどのようなことが必要かを議論していました。

 

 その時、DIY・工具・ガーデニングなどのカテゴリーにPB商品が多くあることに気づきました。しかも、この分野のPB商品は、膨大な数の商品に埋もれてしまっているきらいがありましたから、そこにフォーカスしてみようとなったのです。「PB商品だから価格競争が起こりにくいのではないか」「PB商品として括ることでより価値を訴求しやすくなるのではないか」「アマゾンのプラットフォームをより活用いただけるのではないか」と考えたのです。そして「PBストア」の開設がある程度決まった段階で、私のほうからほかの事業部に声掛けしたのです。食品やヘルス&ビューティケアなど、私の管轄以外のカテゴリーが「PBストア」にあるのはそのような経緯からです。

 

──「PBストア」は渡辺本部長の管轄になるのですか?

 

渡辺 そうです。アマゾンはとても面白い働き方ができる会社で、各事業部や部署が考えた企画でも部門横断的に実施できます。“言いだしっぺ”が旗を振って取り組む文化がありますので、「PBストア」に関しては私のところが主体となって動いています。

 

──販売事業者数と品揃えは積極的に拡大していくと聞いています。どのカテゴリーの商品を増やすのですか。

 

渡辺 まだまだ手薄な食品や日用品、衣料品はとくに拡充させていきたいと考えています。目標は設定せず、PB商品でも「地球上で最も豊富な品揃え」を追求していく方向です。

 

「フルフィルメント・バイ・アマゾン」で売上伸びる

──PB商品を出品する販売事業者は、「PBストア」の開設をどのように受けとめていますか。

 

渡辺 概ね、好意的です。

 

 「PBストア」に出品いただいている販売事業者さんの多くは、「PBストア」のトップページに自社の商品を表示したり、目立たせたい商品を自社のページのいちばん上に配置するなど、できる範囲で売上を伸ばす工夫を積極的に行っています。

 

 「PBストア」を開設したからといって、販売事業者さんとアマゾンの契約内容に変更はありません。成城石井さんをはじめ4社は、商品の保管、注文処理・出荷・配送・返品までサポートする当社のサービス「フルフィルメント・バイ・アマゾン」(以下、FBA)をご利用いただいています。ほかの販売事業者さんは、アマゾンから送られる注文情報をもとに、それぞれのお客さまに出荷いただくような仕組みになっています。

 

──FBAを利用するとどのようなメリットがあるのですか。

 

渡辺 アマゾンのFBAには、さまざまな利点があります。

 

 1つは、自社で注文処理・出荷・配送などをする必要がなくなることです。

 

 2つめは、売上アップが期待できます。FBAをご利用いただくと、商品在庫をアマゾンの倉庫で保管することになります。これは、すぐにお客さまに出荷できる状態にあるということです。すると、アマゾンのサイト上の該当商品の横に「プライム」の印が付きます。この「プライム」は、商品が即納態勢にあることをお客さまに伝えるものです。「プライム」の印があると、商品購入に結び付く率がぐっと高まります。

 

 実際、FBAをご利用している約86%の販売事業者さんは売上が伸びたとおっしゃっています。さらに言うと、半分以上の販売事業者さんが「売上が50%以上伸びた」と回答しています。これは驚異的なことです。

 

 そして3つめは、高品質なサービスなので、お客さまの満足度が向上することです。

 

 FBAは、初期投資や固定費がかかりません。必要なときに、使いたい分だけ効率的にご利用いただけるようになっています。

 

──FBAの拡張版であるFBAマルチチャネルサービスも提供しています。

 

渡辺 FBAマルチチャネルサービスは、アマゾンで販売している商品だけでなく、自社のオンラインショップやほかの通販サイトなど、アマゾン以外のチャネルで販売している商品についても、当社の倉庫から出荷できるようになっています。在庫管理から出荷・配送などまで一括して委託できるので効率的です。

 

──今後、生鮮食品を取り扱う計画はありますか?

 

渡辺 FBAでは、生鮮食品や冷蔵品などは取り扱いができません。というのも、アマゾンの現状の倉庫では生鮮食品を管理できないからです。もし、PBの生鮮食品を出品する販売事業者さんがいれば、それはご自身の出荷拠点をご活用いただくかたちになります。

 

常に適正価格を付ける

──さて、商品政策(MD)と販売を担うリテール部門の各事業部は、具体的にはどのような業務を行っているのですか。

 

渡辺 大きくは「地球上で最も豊富な品揃え」を実現することです。メーカーや卸売業などとコンタクトを取り、多種多様な商品をアマゾンのサイト上に登録(品揃え)します。また、バランスよく常に在庫を持って即日お客さまに発送できるよう在庫管理します。

 

 そして、お客さまの立場で、商品を検索しやすいサイトづくりを行うことです。これはとても重要な仕事です。

 

 アマゾンは、リアル店舗を展開する小売業とは異なり、理論上は無限に商品を揃えることができます。

 

 現在、日本のアマゾンは約1億種以上を扱っていますが、それだけ商品が多くなると、お客さまが、欲している商品をいかに簡単に見つけることができるかがポイントになります。そのため、検索キーワードや商品の絞り込み機能、アマゾンのサイトの左側にあるメニューなど、常に使い勝手を向上させていかなくてはなりません。また、説明や画像など、お客さまが購入の判断をするために十分な情報を正確に提供することも重要になります。

 

──自社で仕入れた商品の値付けはどのように行うのですか?

 

渡辺 値付けについては、常に適正な価格を付けます。

 

──アマゾンのPBである、高品質・低価格の「Amazonベーシック(TM)」の開発も各事業部で行うのですか。

 

渡辺 そうです。基本的には、仕入れ担当者がメーカーに協力を求め、スペックや品質などの仕様を伝えて製造してもらいます。そこで、「Amazonベーシック(TM)」のもとになるのはすでに広く流通している既存の製品です。

 

 「Amazonベーシック(TM)」に関して、市場にないような革新的な商品をまったくのゼロからつくることは、現時点ではありません。また、すぐれたローカルブランドを持つメーカーを育てて、出資していくというような、製造分野に進出することも現時点では考えていません。

 

──「PBストア」とライフ&レジャー事業本部は今後、どのような展開を考えていますか。

 

渡辺 「PBストア」の拡充に加えて、まだまだアマゾンが品揃えしていないNB商品が市場にはたくさんあります。また、お客さまには、検索のしやすさや利便性においてまだまだご不便をおかけしているところがあると思います。

 

 「地球上で最も豊富な品揃え」と「地球上で最もお客さまを大切にする企業であること」の実現に重きを置いて取り組みます。