2024年の訪日客数が過去最多を更新した。円安を追い風に、日本食に加え、豊かな自然や文化を体験しようと観光客が増加。ただ、客足は大都市圏に集中し、東京、大阪、京都では宿泊費高騰などの影響が出ている。政府が目指す「観光立国」の実現には、地方への誘客がカギを握る。
アジア圏に加え、欧米やオーストラリアからの客数増加が目立つ。24年1~11月の累計はコロナ禍前の19年同期間に比べ、米国は57.4%、オーストラリアは47.1%それぞれ増えた。日本政府観光局の担当者は「アジアからはリピーターが多い。欧米からは円安による割安感もあり、初めて訪れる人も多い」と説明する。
訪問先は大都市圏に偏っている。観光庁によると、23年の外国人延べ宿泊者数のうち、東京や京都、兵庫、愛知など8都府県に宿泊した外国人の割合は19年より高まり、全体の7割を占めた。JTB総合研究所の早野陽子主席研究員は「地方の小都市まで含めると二次交通の問題や情報量の少なさから(地方分散が)進みにくいのではないか」と分析する。
東京、大阪、京都では宿泊費が高騰。京都市観光協会によると、今年10月の市内主要ホテルの平均客室単価は2万2708円と19年同月比で35.7%上昇した。訪日客増のあおりを受け、日本人観光客が日帰りや大都市圏周辺での宿泊を余儀なくされている可能性がある。
観光需要の開拓余地がある地方への誘客に商機を見いだす企業もある。日本航空は9月、海外の対象地域から国際線を利用する外国人に対し、国際線と国内線を同時に予約すると国内線を無料にするキャンペーンを始めた。JR東日本は、東北地方への誘客を増やそうと、海外での情報発信を強化。広報担当者は「東北は自然や食、温泉など豊富な観光資源があり、ポテンシャルが高い」と強調する。
訪日客の地方誘致について、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「ビジネスマインドのある自治体の人が需要を発見し、民間と協力して事業を継続していくことが大事だ」と指摘している。