海外と比べて、日本ではなかなかネットスーパーが定着しません。ネックになっているのは、フルフィルメント(受注から配送までの一連の業務)の問題です。広大な土地に巨大なフルフィルメントセンターを建設できる海外の小売企業と違い、ごくわずかな都市部に人口が密集している日本でネットスーパーを定着させるには、フルフィルメントの再構築と最適化が必要です。その方法について、ECテクノロジーのリーディングカンパニーであるRokt(東京都)が紹介します。
日本でネットスーパーが根付かない本当の理由
多くの小売業が、DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略としてネットスーパーの拡充を目標に掲げています。しかし、現状ではネットスーパーが国内に根付いているとは言い難い状況です。その理由は、日本人にネットスーパーを使う習慣がないからではありません。
問題は、現状のネットスーパーがなかなかユーザーの要望を汲み取りきれていないことです。店舗に比べると品揃えが劣るサービスが多く、たとえば精肉なら産地や部位、分量などお客のニーズに合わせた商品が並んでいない状況です。
加えて、受け取り可能な時間帯や地域が限られています。小売業界に精通した読者の方々も、生活者の立場で各社のネットスーパーを利用した際、改善の余地を感じる方もいるのではないでしょうか。
これらの理由だけではなく、問題の本質はフルフィルメントだと考えています。お客にネットスーパーの利用を促すには、インベントリ(在庫)の位置を明確化し、生産性を向上させて多様なニーズに応える必要があります。しかし、日本の小売業界がフルフィルメントを最適化し、生産性向上を叶えるには難題を抱えています。
ある程度人口が密集していてネットスーパーの需要がある札幌や大阪、東京、横浜などの地域は地価が高いため、現状のようにトランザクション(商取引)が少ない状態でフルフィルメントセンターをつくっても高い利益を上げられません。物流業界全体の課題である配送スタッフの不足で高騰している人件費、つまり配送コストなどを回収できないのです。
海外のネットスーパーの成功事例には豪コールズ(Coles)、米ウォルマート(Walmart)などがありますが、これらはいずれも「広大な土地がある」「郊外である」という条件を満たしています。中山間地域が多く、比較的狭小な土地の日本に、海外のやり方をそのまま持ち込んでもうまくいかないでしょう。
日本にネットスーパーを根付かせ、流通小売業のDXを加速させるには、地域特性や人口動態、ライフスタイルに合わせたフルフィルメントの最適化が至上命題です。
カギはダークストアとBOPIS
では、日本の人口動態やライフスタイルに合わせたフルフィルメント戦略とはどのようなものが考えられるでしょうか。その解は、「フルフィルメントセンターを持たないこと」にあります。と言うと、これまでの話と矛盾するように思われるかもしれませんが、日本の地形的な問題と配送コストの課題をクリアするためには、フルフィルメントセンターを持つ前にできることがあるのです。そのやり方は大きく都心型とベッドタウン型に分けられます。
まず、都心型フルフィルメントで有効なのはダークストアを持つことです。東京や横浜などの都心部にも、駅から徒歩10分圏内に住宅地があります。このような地域では店舗を持たずに、商品点数を絞りオーダーから配達まで数時間とサイクルが短いダークストアが最適です。
店舗がないため広大な敷地を必要としないほか、消費者にとっては「スーパーの店頭で買い忘れた、その時ちょっと欲しいもの」がすぐ手に入りやすいという特徴があります。一部の都市で始まっている「Yahoo! マート」がその一例です。
次に、ベッドタウン型は、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store:オンライン上で購入した商品を実店舗で受け取れる仕組み)が向いていると考えます。ネットスーパーで注文した商品を、スーパーマーケットの店舗スタッフが店頭でピッキングし、店舗で受け取ってもらう、そもそも「配送しない」方法です。
この2つの対応をすれば、莫大なコストをかけてフルフィルメントセンターを構築する必要はなく、配送トラックやドライバーなど配送体制を整える必要もありません。物流コストを最小限に抑えながらネットスーパーを実現できるのです。すでにある小売DXの仕組みを日本の実情に合うように再構築、再編集するだけで、生産性の高いネットスーパーへと生まれ変われるのではないでしょうか。
合わせて考えていきたいのは、出店戦略です。これからは小売業の出店戦略そのものを日本の人口動態に合わせる必要が出てくるでしょう。それほど居住者がいない都心部には「マルエツプチ」や「まいばすけっと」のようなミニスーパーを、都心部でも駅周辺に住宅街のある地域には中規模のグロサリーストアを、郊外には大型ショッピングセンターを展開するなど、地域に合わせて柔軟に出店戦略を考えていく必要もあるはずです。
ほかに、自社で物流体制を持たないことも重要な要素です。物流機能を持つ他業態と協業すればネットスーパーを実現できるはずです。「クロネコヤマト」などの宅配事業者と提携したり、ネットスーパーで購入したものを最寄りのコンビニで受け取れるようにしたりなど、やり方はさまざまです。
音楽ソフト販売店の「HMV」が運営するオンラインショップ「HMV&BOOKS online」で販売する商品を「ローソン」の店頭で受け取れるように、たとえば「ヨークフーズ」のネットスーパーで購入した商品を最寄りの「セブン–イレブン」で受け取れるようになれば、生活者にとって利便性は高まるはずです。
大切なのは、「ゼロから新しいやり方を生み出さなくても、これまで小売業が生み出してきた多様なやり方を参考にすること」と「個別最適を考えず、グループ全体の全体最適を考えること」です。そうすれば、ネットスーパーの利用者が増え、その文化を日本に根付かせることができるのではないでしょうか。