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生鮮食品を売らないと意味がない!? プロが教える「儲かるネットスーパー」のポイント

15年以上前からネットスーパー事業の黒字化を実現している“ネットスーパーのプロ”、スーパーサンシ常務取締役NetMarket事業本部長の高倉照和氏が、ネットスーパーが成功するためのポイントを解説する本連載。第5回目となる今回は、ネットスーパーの「購入金額制限」について解説してもらう。

なぜ、生鮮食品を売らないといけないのか

 ネットスーパーでは、「いかに生鮮食品の売上高構成比を店舗に近づけるか」、あるいは「部門によっては、店舗よりも高い構成比を出せるか」がその成否において重要なポイントとなります。しかし現実的には、巷のネットスーパーでは生鮮食品の構成比が店舗よりもかなり低くなるのが常です。

 これには明確な理由があります。それは、後述する「購入単価のバー」が高過ぎるのです。これにはそうせざるを得ない理由もあるのですが、実はここがネットスーパーのモデル設計の最も大事な要点の一つと言っても過言ではありません。

 なぜなら、ネットスーパーの最大のメリットは「多くの生鮮食品を売って、高い粗利益額を確保すること」にあるからです。逆に言うと、もし生鮮食品をメーンで売らないのであれば、ネットスーパーで採算を合わせることは非常に難しくなります。

店内売りとの収益構造の違い

 生鮮食品の構成比の話に戻りますが、店舗であれば、「何を売っても売上ができればそれでよい」という発想は理解できます。なぜなら、商品棚からお客さまの自宅までの物流コストのすべてはお客さまの負担だからです。つまり、「どうせ同じ固定費なのだから、売れば売っただけ得」という理屈が成り立ちます。

 ところがネットスーパーは違います。少し乱暴な数字で例えると、仮にネットスーパー3000円を売り上げたとしましょう。特売のビールや水などを売ってつくった3000円の売上高のうち、粗利益高は粗利益率10%の300円とします。一方、総菜や生鮮食品など販売した3000円の粗利益高は粗利益率35%の1050円とします。

 店内売りであれば、上述したとおり、売場からお客さまのご自宅までの物流費の一切はお客さま持ちですのであまり関係ありません。売ったら売っただけ何らかの利益が残ります。ところがネットスーパーの場合は、物流費のすべてをスーパーマーケット企業側が持つことになります。

 話をシンプルにするために、配送は委託で、1件当たり700円の配送費がかかるとします。これを先の例で考えますと、ビールや水などで3000円を販売した場合は400円の赤字、総菜や生鮮食品の場合は350円の黒字となります。同じ3000円の売上でも、損益は天と地の差となるのがわかっていただけると思います。実際は、購買単価はもう少し高いので、収益はさらに差が開くことでしょう。

 何が言いたいかというと、「ネットスーパーの利点は生鮮比率を高めることで生み出される」ということです。ネットスーパーが店舗に勝っている最大のポイントは廃棄ロス、値引きロスがゼロということです。この点を理解して、最初の設計構築を推し進めないと、売上が上がっても儲かるネットスーパーにはなりません。

ネットスーパーの売上構成がグロサリー主体になるワケ

 ネットスーパーの売上構成が、グロサリー主体となっている一番の原因は、「購入単価のバー」にあります。5000円以上で配送料が無料になる、あるいは安くなるという、購入金額制限の問題です。

 購入金額5000円以上で無料なら平均購入単価はほぼ5000円になり、これが6000円ならほぼ平均購入単価も約6000円になります。なぜなら誰も配送料を払いたくないからです。プロスペクト理論と言って、人間は損をすることを避けるという本能が、得したいという欲求よりも2倍以上強いとされています。これにより、購入金額は配送料が無料になる金額近くに収斂されるわけです。

 ただ、1回当たりの購入単価を上げるということ自体はよいことです。問題なのは、それを実現しようとすると、生鮮比率はほぼ間違いなくグンと下がり、安売りのグロサリー主体の商品構成になってしまう点です。つまり、購買単価は上がるのですが、粗利益額が下がるのです。そして、物流費が高いのはどちらでしょうか。当然、購買単価が高い(=物量が多い)方となります。

 購入金額制限のバーを上げれば上げるほど、粗利益額は下がり、物量は多くなり、しかも配送費は上がる、という“三重苦”となります。これを意識しているネットスーパーの担当者は非常に少ないように思います。

 ネットスーパーの担当者の中には、「儲からない原因がわからない」という方が多いのではないでしょうか。机上での理論を優先して、お客さまの心理を深く考えないとそうなってしまうのです。

 なぜ、リアル店舗の平均購買単価は2500円前後なのか。もしリアル店舗で5000円のバーを設けたらどうなるのか。こうしたことを深く考えるネットスーパー担当者は皆無でしょう。物流コストありきで、それをどうカバーするかという机上論にとらわれ、「お客さまに生鮮食品主体の買物をしていただくにはどうしたらよいのか」という視点が欠けているパターンを筆者は驚くほど多く見てきました。

SHIROKUMA DESIGN/iStock

購入単価バーを設ける致命的な欠点

 購入単価バーを設けるもう一つの致命的な欠点が、「月額の購買金額が結果として低くなる」ということです。たとえば、購入金額5000円以上で配送料が無料だとします。そうすると、お客さまはほぼ例外なく、単価の高い米やビールケース、飲料ケースなどでその金額をクリアしようとします。つまり、生鮮品を買う「普段買いマインド」ではなく、「まとめ買いマインド」になるのです。

 そうなると、結果として購買頻度は月に1、2回程になります。購入金額の制限が6000円だとしても、月2回ですと月当たりの購買単価は1万2000円です。一方、生鮮主体で月に8回程度のペースで普段づかいをしていただくと、1回の購買単価が3500円だとしても、月当たりの購買単金額は2万8000円にもなります。実に2倍以上の月額購買金額となるのです。

 大事なのはここからです。これが何を意味するかというと、「同じエリア内で2倍以上の売上がある」ということは「物流効率が格段に高くなる」ことにつながるということです。このように、高単価バーの設定ひとつを取っても、ネットスーパーの場合はリアル店舗とは異なるコスト構造(=収益構造)になります。こうした点に着目していくことがネットスーパー黒字化への道だと筆者は考えています。