EC利用が拡大するなか、生活圏に最も近い場所に店舗を構えるコンビニエンスストアやドラッグストアは高い業績を上げています。ほかにも、生活圏に近い場所に実店舗を展開し、店舗受け取りや返品対応を徹底するなど、オンライン・オフラインを含めた事業全体の伸びしろが見えてきています。今回はそんな変化の真っただ中にある消費活動に対応するために押さえておきたいポイントをご紹介しましょう。
買物は一瞬で済むように
私が出版した書籍では、デジタル時代における6つのポイントをご紹介しています。その中でもとくに重要なポイントとなっているテーマが、「買物プロセスの面倒くささが際立ってきている」という点です。私はこうしたプロセスを省く新たな買物方法を「ストップウォッチショッピング」と呼んでいますが、コロナ禍が本格化する前に弊社で統計を取った際にも面白いデータが出ています。
「ここ数年お店に行く頻度が減ったか」という質問に対して、かなり多くの方が「頻度が減った」と答えています。その理由を聞くと、「レジに並ぶのが面倒」「店員の接客が面倒」「店内で商品を探すのが面倒」という声が多くなっています。
デジタルでの買物体験が増えたことで、「買物は一瞬で済む」ということが当たり前になり、とくに若者の間でこのような傾向が顕著に表れています。これはスマホの普及による影響が大きく、コロナ以前から、わざわざレジに並んだり、店員と会話しながら買ったりといった「買物のプロセス」を避けたいと思う人が多くなっているのです。
ストップウォッチショッピングは、「欲しい・必要だと思った瞬間にそれを買う必要があるということを忘れたい」という消費者心理に起因しています。ネットで注文を済ませてしまえば翌日には商品が届いてしまうため、購入のタスクを抱えておく必要はありません。デジタルが進むなかでは、これが普通の消費行動となっているのです。
ウィッシュリストに商品を入れるだけで満足する人も
ほかには「ウィッシュリストショッピング」という消費行動もあります。現在はネットやSNSで情報が爆発的に溢れているため、情報のインプット量が飛躍的に多くなっています。一昔前であれば、TVCMなどを見てその商品が欲しいと思った場合、学校や仕事で平日に買物する時間を確保できないため、最短でも手に入るのは週末で、それまでそのことを覚えていなければなりませんでした。
しかし、今はアマゾンなどで自分のショッピングカートやウィッシュリストにとりあえず欲しい商品を入れておけば、自分で覚えておく必要はありません。結局忘れてしまって買わない場合もありますが、現代では覚えることが増えているせいで、とにかく「デバイスに情報を入れて自分は忘れたい」というマインドがあり、欲しいものは買物に行けるようになるタイミングまで覚えておくものではなく、ウィッシュリストやショッピングカートにとりあえず入れておくものになっているのです。リストやカートに入れておくことが楽しくて、それに満足する人もたくさんいますし、それ自体を買物行動として楽しむような傾向も増えているほどです。デジタルが普及することで、週末に買物に行くこと自体が楽しいという気持ちはこれらの消費行動により日に日に薄まっているのです。
時間がない人ほどECを利用する
時間のない人がデジタルで買う傾向が非常に高い傾向にあるため、ふだんからデジタルで商品を買い慣れているのは、比較的若者が多くなっています。一方、時間に余裕がある人はわざわざ急いで買うというモチベーションが発生しません。時間とデジタル消費は比例関係になるため、若者の中でも時間がある学生であれば「友達と店舗に買物に行くことが楽しい」という人も多く、デジタルで購入するのが最も多いのはやはり仕事をしている時間のない人々です。彼らは、とにかく短時間で買物したいと考えているため、どんどんEC化率が上がっています。
忙しく時間がない世代は、仕事をしているぶん消費意欲も高い反面、常に時間に追われているため、その買物行動には劇的な変化が起こっています。しかし、そのような傾向を整理して把握することで、ターゲットに対して小売事業者が取るべき施策が見えてくるはずです。忙しくても店舗に行きたいと思わせる新たな魅力をつくるのか、ネットと連動して店舗そのものの利便性を高めるのか、これから舵を切る戦略次第で小売業界での明暗が分かれることになるでしょう。
プロフィール
望月智之(もちづき・ともゆき)
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。