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生鮮EC「クックパッドマート」が拡大中! ネットスーパーにはない強みと新たな収益プランとは

クックパッド(神奈川県/岩田林平社長)が運営する生鮮食品EC「クックパッドマート」が展開を加速している。2022年のクックパッドマート利用者数は2021年比で約5倍に増加したという。ネットスーパーやクイックコマース(QC)とは異なる独自のビジネスモデルを展開する同社に、事業戦略の詳細や進捗、今後の展望について取材した。

 赤字覚悟で日配品の定期便を始めた理由

宅配ボックス「マートステーション」

 クックパッドマートは20189月に開始した、モール型ECに近い設計の生鮮食品ECだ。地元農家が生産した農産物や卸売市場で扱う魚介類、地方にある人気専門店の精肉や鮮魚、ベーカリーなど12000種類の商品を送料無料で販売する。

 サービスの仕組みを簡単に説明しよう。専用スマートフォンアプリから商品を購入すると、専門店や農家などの販売店に注文が入る。販売店は共同出荷場に商品を出荷し、そこからクックパッドが受け取り場所である宅配ボックス「マートステーション」に発送する。ユーザーはマートステーションまで足を運べば、いつでも商品を受け取ることが可能だ。

QRリーダーにスマホをかざす
商品受け取り

 マートステーションの設置台数は着々と増えており、202212月時点で1000カ所に及ぶ。主な設置場所はマンション(全体に対する構成比率30%)、コンビニ(同25%)、コインランドリー(同17%)、ドラッグストア(同13%)、駅(同6%)などだ。

 サービス開始当初、クックパッドマートの商品ラインナップは、いわゆるこだわり商品が多かったが、21年からは普段づかいのニーズに対応する比較的リーズナブル(一般的なSMと遜色ない価格で購入できるという意味で)な商品を拡充している。

 さらにクックパッドは20225月から、新たにクックパッドマート上で毎週108円(税込)で10個入りたまごが届く「おいしい食卓応援定期便」を、同年8月から食パンと牛乳も加えた「選べる!おいしい食卓応援定期便」(各税込108円)を開始した。この取り組みが反響を呼び、22年のクックパッドマート利用者数は21年比で約5倍に推移したという。

 定期便を開始した経緯について、クックパッドマートの流通部門などの責任者でありクックパッド執行役員の末吉謙太氏は次のように話す。

 「クックパッドマートは当初、1~3カ月に1回あるハレの日の需要が多かった。お客さまからの認識は『お取り寄せが身近になるサービス』程度だったのが実情だ」(末吉氏)

 一方で、日配品を売ってほしいというユーザーの声をもらうことも多かったようだ。末吉氏は「当社としても同サービスを生活習慣の一部として利用してもらいたいと考えていたため、定期便のサービスの展開を開始することとなった」と経緯を説明する。

収益モデルの多様化と、黒字化を見据えて

「マートステーション」内の商品

 価値観が多様化していく時代において、食材へのこだわりの基準はさまざまだ。クックパッドとしても生鮮商品のマーケティングは難しいため、定期便というかたちでユーザーにアプローチしたと末吉氏は語る。

 「日配品のように毎日消費する商品を販売すれば、サービスの利用を習慣化しやすい。さらに、ほかの食材も追加で頼みやすく、利用が促進される。その狙い通り、定期便を展開してからは毎週利用するお客さまが増え、高い評価もいただいている」(末吉氏)

 こだわりの卵や食パン、牛乳が税込108円で毎週届くという「お得さ」が反響を呼び、ユーザーは増加した。しかし、昨今の物価高騰もあって、そのぶんは販促予算を充当しているのだという。それに関して末吉氏は、

 「試算としては問題ない。今はまだ、流通の仕組みや設備、サービスを充実させるための期間という認識だ。黒字化をめざしてシナリオを実行している過程なので、当面は収益にこだわるつもりはない」と説明する。

 続けて「現段階では出品者からいただく販売手数料のみが収益となるが、今後はリテールメディア化など収益モデルの多様化を見据えている」と末吉氏は語る。

ネットスーパーやQCの動向を気にしない理由

 昨今はネットスーパーやQCの存在感が増しているが、クックパッドマートではそれらの存在をあまり気にしていないという。

 「クックパッドマートは一般的なネットスーパーやQCとビジネスモデルが異なる。定期宅配サービスのクックパッドマートはネットスーパーと異なり在庫を持たないため需要予測をする必要がなく、在庫の廃棄ロスもない。また、ネットスーパーの最大の課題となるラストマイルのコストもかからない。この二点をクリアしているのがクックパッドマートの強みだ」(末吉氏)

 今後は、食品スーパーとの協業も重要な戦略の一つとして考えているようだ。すでにクックパッドマートでは、京浜急行電鉄(以下、京急)ならびに同社子会社の京急ストア(神奈川県)と協業し、クックパッドマート上で京急ストアの商品を販売するほか、京急沿線の各駅にマートステーションの設置を進めている。

 京急としては、店舗数を増やすことで沿線利用客の利便性を高めたいところだが、すべての駅に「京急ストア」を出店するは難しい。駅前に「京急ストア」がない駅にマートステーションを設置することで、近くの駅にある店舗で扱う商品を受け取れるようにしている。

 こうした取り組みを広げていくことで、「人々の毎日の食卓に貢献したい」と末吉氏は意気込みを述べる。