ビームス(東京都/設楽洋CEO)は、強力なリアル店舗網を擁しているが、コロナ禍を経てなお、EC売上も順調に拡大している。そこで、2021年9月、大掛かりな組織改編を断行、各レーベル(ブランド)をベースにした事業部制から、企画生産・販売といった、機能別の組織にリモデルした。各レーベルを持つ事業本部ごとに分散していた店舗やEC機能を一括で管理することで、ECとリアル店舗のリソースを有機的に活用することが最大の狙いだ。同時に、リアル店舗のリソースを活用、店舗の販売スタッフがWEB上で顧客のQ&Aを担当する「チャット接客」といった新しい取り組みも試験導入するなど、OMO(オンラインとオフラインの融合)を推進する。
デジタル売上が約3割、その半分は自社サイト
ビームスは2005年、ZOZOTOWNに出店したことでECに乗り出したが、2009年には自社ECサイトも開設。さらに2016年には、公式サイトとECサイトを統合する形でビームス公式サイトをリニューアル、店舗スタッフがアカウントを持ちコーディネートやブログを発信するスタッフ投稿と言われるメディア機能を拡充した。その背景には、「自社プラットフォームの構築によって、“ビームスらしさ”をより打ち出したいという狙いがあった」と、同社カスタマーエンゲージメント本部長の渡部啓司氏は明かす。
同社のサイトは、情報量が多いのが特徴。ブログや動画などのスタッフ投稿も多く、ファッションに関する記事など、商品情報以外のコンテンツも豊富だ。コンテンツは、一部のアウトソーシングを除いて基本的に社内制作のオリジナル、というのもポイントだろう。年間来訪者は現在、延べ約1億人を超え、「自社ECのお客さまのうち、約60%がスタッフ投稿のコンテンツをご覧になってから商品を購入している」(渡部氏)
同社のEC売上は2016年以降、年々拡大し、コロナ禍を経てもなお順調に推移している。ECは、今やリアル店舗と並ぶ重要な販路に成長している。「サイトで商品を見つけて、店舗で試着してから買う」といった、ネットとリアルを併用する購買パターンも含めた自社指標の「デジタル売上」は現在、全社売上の約30%前後だという。
「デジタル売上の半分ほどが自社サイト経由になっている。一方で、ZOZOTOWNさんへの出店も継続している。自社サイトはリアル店舗と同じで、30~40代前半が主客層だが、ZOZOTOWNさんは20代に圧倒的に強い。またECモールのため、他社さんからの買い回りで集客力も高い。それぞれの長所を生かすべきと判断している」(同)
販売部門がリアル店舗とECを一括管理
ビームスは2021年9月、販路がリアル店舗とネットの二頭立てになった前提で、大掛かりな組織改編に踏み切った。その中で、現在約30あるレーベル(ブランド)をベースにした事業部制から、機能をベースにした体制にシフトしたのだ。
具体例で言えば、レディース向けの「ビームスボーイ」なら、これまでレーベルを統括する事業部門が商品企画から店頭販売、ECまで一気通貫で管理していた。ところが、新組織では、商品企画部門がビームスボーイの企画や仕入れを担当し、商品販売やカスタマーマーケティングを担当する部門でリアル店舗やECサイトでの販売全般を担うことになる。
「“お客さまファースト”で考えた場合、ECとリアル店舗を分けて管理することは時代に合わない。しっかり土台を固める必要があった」(渡部氏)
例えば、商品の企画や仕入れは「プロダクト本部」、商品販売は「カスタマーエンゲージメント本部」が担当する。カスタマーエンゲージメント本部は、さらにチャネルによって、リアル店舗を担当する「ストアマネジメント1~4部」、自社EC担当の「デジタル部」、他社EC担当の「デジタルアライアンス部」(ZOZOTOWNなどを担当)などに分かれるという。
組織改編によって、モノづくりと販売の担当者が離れ離れになり、ブランド管理がしにくくなるといったデメリットもあった。しかし、各ブランドに横串を刺し、各機能部門の担当者が一括管理できるようになったことで、販売部門では顧客ロイヤリティを測る指標に向上が見られるといったメリットも生じているという。
チャット接客は、顧客からも、スタッフからも好評
一方で、同社には、国内約160店舗のリアル店舗、約2000人の店舗スタッフという“資産”がある。そうした資産をECに生かす「OMO」こそ、他社と差別化できる武器というのが、ビームスの考え方だ。
「セレクトショップとして45年以上の実績があるリアル店舗は、ファッションの情報発信に強いという自負がある。ECは便利だが、当社の店舗で接客を受けるような感動を与えるにはまだまだ工夫が必要だ。そこで、リアル店舗のリソースを活用し、ECにもビームスならではの感動を加えたいと考えた。反対に、ECを活用して、リアル店舗の利便性も高めたい」(同)
OMOの具体的な取組みとしては、「オムニスタイルコンサルタント」などが挙げられるが、最近では、「チャット接客」にも着手した。
「EC上のお客さまとのチャットを使ったQ&Aについても、通常だとオペレーターが回答すると思うが、当社は商品に精通したリアル店舗のスタッフがお客さまに対応するようにした。そのほうが、お客さまに対して、厚みのある答えができる」(同)
2021年11月22日~12月25日、コロナ禍で店舗スタッフが参加しやすかったこと、またクリスマスギフトなどの年末需要の高まりを受けて、チャット接客のトライアルを行った。約30のレーベルを対象に毎日約20人、交代で延べ約100人の担当スタッフが、顧客対応を実施した。
例えば、「こどもビームス」で取り扱う学習デスクの機能についての質問には、担当スタッフが店頭の在庫を画面で見せながら説明し、顧客から「わかりやすかった」と褒められた。また、ニットコーディネートについての質問には、スタイリング提案の画像をアップしたところ、「近くにいたから」と、顧客が来店して買い物をしてくれたという。
「店舗スタッフからも好評で、ECの価値を見直すきっかけにもなった」と、渡部氏は強調する。「ネットでもお客さまの顔が見える」「ECでお客さまが何に悩んだり、迷ったりしているのか、具体的に把握できた」といったスタッフからの声もあった。
将来的には、カスタマーエンゲージメント本部内に専任スタッフを配置した接客チャットサービスの本格始動も計画する。「デジタルを活用すれば、いつでも、どこでもお客さまとつながることができる。店舗スタッフが自宅からリモートワークで参加するなど、働き方の幅も広がるかもしれない。OMOで、リアル店舗も活性化させたい」と、渡部氏は意気込む。