デジタル活用を重点施策の1つに掲げるものの、なかなかうまくいかない企業が多い。本連載では、ホームセンター(HC)業界を代表するデジタル先進企業のグッデイ(福岡県)の柳瀬隆志社長に、どのようにデジタル活用を実践しているのかを解説してもらう。
ゼロからのスタート
まったく何もないところからのスタートでした。
私は2008年にグッデイに入社しました。当時はメールアドレスもなく、ウェブサイトもなく、まったくIT化が進んでいない状況でした。1990年代にPOSシステム、在庫管理、売上管理システムは導入していましたが、その数字を分析するということもありませんでした。
もともと文系で、ITに詳しいわけではありませんが、この状況は良くないだろうと思い、まず、ドメインを取得し、メールアドレスを使えるようにして、ウェブサイトを作成しました。一方で、基幹システムの方はどうしたらよいかわからなかったため、2014年まで放置し、これまでの仕組みを使ってきました。
改革に取り組み始めたのは2015年2月からです。当時、クラウドサービスが少しずつ取り上げられるようになりました。最初に無料版のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を使ってみました。
また、BIツール(基幹システムで生成したデータを加工するツール)の「タブロー(Tableau)」を使ってみました。これはデータ分析ツールで、POSや売上管理のデータを読み込ませると表やグラフで視覚的にわかりやすく見ることができます。タブローを使い始めてからいろいろな分析ができるようになりました。
仲間を増やす社内の勉強会
次に取り組み始めたのは、社内での仲間づくりです。
経営企画室のメンバーにタブローを紹介し、試しにいろいろと分析してもらいました。POSや売上管理のデータだけでなく、天候や店舗でのイベントなど取り入れるデータソースの充実を図りました。
それから営業本部の若手社員も仲間に加え、2015年6月から週に1回の勉強会を始めるようになりました。週替わりで社員が先生になって、ほかのメンバーに教えるというものです。この勉強会によって少しずつ社内メンバーの意識変革が行われ、ある程度のデータ分析ができるようになりました。
バイヤーにもタブレットを支給し、2016年には取引先にもデータを公開し、どのようにすれば売上高をアップできるのかといった提案もするようになりました。
5年で環境激変クラウドの時代
デジタル活用のポイントは大きく分けて3つあると思います。
1つは自分で使ってみることです。理屈で理解しても使ってみないとわからないことが実際たくさんあります。
やりたいことを実現するためにどのようなツールを使ったらいいのか、社内のエンジニアにも聞きました。細かい内容についてはエンジニアに頼っていいと思いますが、根本的にそれを使って何をしたいのかは経営層が決めなければいけません。
よくほかの企業で聞くのは、ITベンダーが提案し、そのままその案を採用してしまうことです。グッデイが違和感なくデジタルを活用できるようになったのは、社内でどのように活用するかを決めているからです。
2つ目は、何のために使うのかを明確にすることです。よく失敗するのは「AIを使いたい」、「データ分析をしたい」という手段と目的が入れ替わってしまっているときです。業務を楽にするためにITを使っていく、ということを忘れてはいけません。
3つ目は、クラウドサービスを使ってみることです。クラウドの普及によって、大きな初期投資が必要でなくなったため、大企業でなくても負担なく便利なツールを使えるようになりました。以前は同じことをやろうとしても、サーバーを買って、ITベンダーに運用をお願いしないといけないためコストがかさむうえ、面倒でした。
クラウドは他企業のノウハウもオープンになっているため、どのように使ったらよいのか真似をすることができます。
この5~10年でデジタル活用の環境そのものが激変しました。そういう意味で、グッデイが約5年前から本格的にデジタル活用に取り組み始めたのはいいタイミングだったと思います。