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第3回 店舗スタッフにデジタル武器を!Human Touch Technology STAFF STARTの可能性

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オイシックス・ラ・大地で専門役員COCOを務め、多くの企業のDX事業を推進する顧客時間共同CEO取締役の奥谷が、デジタル時代の優れたデジタル活用術を解説する本連載、「顧客とつながる時代のデジタル活用術」第3回は店舗スタッフに求められるデジタル活用について考察したい。

くらしのデジタルシフトと企業DXのミスマッチ

店舗でのデジタル活用が進み始めている

 今私は10年前に出たHarvard Business Reviewを読み返している。その記事のタイトルは「THE FUTURE OF SHOPPING ;買物の未来」だ。米国ベイン&カンパニーのリテール業界エキスパートのダレル・K・リグビー氏が書いたこの論文は筆者が学術の世界に向かうきっかけを作ってくれただけでなく、前職のMUJIでオムニチャネル戦略の推進を進めていく上でも影響を受けた。リグビーは10年前に小売業の未来に不可欠なものとして、デジタルイノベーションの活用に注目している。急速に広がり、進化するデジタル技術を店舗環境に取り込んでいかなくてはいけないこと、そしてその牽引役を小売業の経営者は担わなくてはならないことを10年も前から提唱しているのだ。

 オムニチャネル化したお客様は,ネットの利便性を常に求め,オンラインの世界とオフラインの世界の両方の体験を求めている。今で言うリテールテックを活用すれば,従来の小売フォーマットを破壊,変革する可能性があり,オムニチャネル化にはその力があることを主張している。しかし,当時の米小売業界はアナログな状態のままであり,リアルな小売業の経営者は未だに「お客様はいつでもお店にいる。いらっしゃる。」と考えているが,オムニチャネルなショッピング体験が主流になればなるほど,現状のお店には満足しなくなるだろうと警笛を鳴らしている。

 2011 年当時の米国において進化するリテールテクノロジー,IoT がもたらす可能性について大いなる期待と共にオムニチャネル戦略を考えることはまさに小売業の未来とイノベーションにとって意義あるものであった。そして、コロナ禍を経て、実際米国小売業においては積極的なリテールテクノロジーを活用したお客様との繋がり方が出現している。米国ではオムニチャネルは当たり前で、まさにOMO(Online Merges with Offline)の世界へと進化を遂げている。しかし、今日の日本の小売業におけるオムニチャネル戦略の進展やOMO事例を見ると,コロナ禍を経ても、日本の小売業におけるリテールテクノロジー活用は十分とは言えない。これだけ技術が進化しているのに,店頭のデジタル化はようやく緒に就いたところだ。なぜここまで、日本ではリテールテクノロジーの普及が進まないのだろうか?今回はその理由である小売業が抱える人手不足,店頭というアナログな環境にデジタルデバイスを導入することに難しさ、経営陣と店舗スタッフに未だに存在する「テクノロジー嫌悪主義(Technophobic Culture)」が挙げられる。今回の連載では、その解消をこころみるベンチャー企業を紹介、解説しながら、OMOに欠かせない店舗スタッフによるテクノロジーの利活用について考えていきたいと思う。

店舗スタッフに求められるデジタル武装化

 OMOが進展すればするほど、企業はオムニチャネル戦略を推進、強化していかねばならない。そして、デジタルツールで武装化したお客様をお迎えする店舗スタッフにも、デジタル武装化が必要だ。この課題感を筆者はMUJI passportをプロデュースした2010年代前半から感じていた。というのも、デジタルには難しい言い方だが、技術受容行動が必要だ。新しいツールやテクノロジーである以上、人は利用前に少し考え、そのツール使うとどんなメリットがあるのか(リスクも含めて)考える。正直最初は億劫な気持ちにもなるだろう。この精神的ハードルを超えてもらうためにマーケターは努力を惜しまない。まさに「テクノロジー嫌悪主義(Technophobic Culture)」をいかに乗り越え、お客様とつながる術を提供するかを、お客様だけでなく、店舗スタッフ、経営陣にも理解してもらう必要があるのだ。特に、店舗スタッフによるデジタルツールの受容と活用がこれからの顧客体験に必要不可欠なのだ。特に小売業においてはいくらお客様が受け入れてくれるデジタルツールも、店舗の人が受け入れてくれないものは、いつか必ず廃れていき、結果お客様にも長く使ってもらえない。この危機感は昔から、いや、昔だからこそ大きかった。

 OMOが当たり前になってきている現代。オムニチャネル戦略の実現がもたらす優れた顧客体験を店頭で実現するには、デジタルと接客の融合が大切だ。そして、そのつなぎ役である店舗スタッフの貢献度の可視化も重要なのである。

 この課題に対してテキサスA&M大学のメイズビジネススクールで教鞭を執るヴェンカテッシュ・シャンカー教授は、2016年5月に発表した論文で、「モバイルショッパーマーケティング」という考え方を提唱している(図1)。

図1:モバイルショッパーマーケティングの概念図

 この図を筆者は多くの講演や、執筆活動の中で多用している。まず、図の上半分はまさにデジタル武装されたお客様の顧客時間、カスタマー・ジャーニーを示している。このようなお客様の買物行動プロセスを、従業員(店員)がモバイルテクノロジーでサポートすること、その評価と、動機付けを会社として実現していかないと真のOMO、オムニチャネル環境の実現はできない。図の下半分は企業と店舗をつなぐシステム連携と評価システムの重要性を示している。店員がモバイルデバイスでお客様に対応するようになれば、店員のパフォーマンス評価の仕組みも変わるだろう。さらに、プロセスをデータドリブンで進められるよう、データマネジメント基盤が求められる。

 つまり優れた店舗体験において、テクノロジーを利活用できる従業員の存在が重要になるのである。そして、そのためにはテクノロジー嫌いのままではいられない。もはや商品知識豊富で容姿端麗なスタッフを店舗に配置するだけではモノは売れない時代なのだ。

 しかし、このスタッフの技術活用行動や、OMOサポートの可視化に最適なツールがなかなかみつからなかったわけですが、最近日本でも注目すべきツールが登場している。それが、ここで紹介したいVanish Standard社が提供するSTAFF STARTである。

現場を活気づけるITサービス

 STAFF STARTは、店舗に所属するスタッフが自社通販サイトやSNS上でのオンライン接客を可能にするStaffTech(スタッフテック)サービスだ。サービスリリースから5年で1,600以上のブランドに利用されており、2020年の流通総額は前年比2.75倍の約1,104億円を達成するなど急成長を遂げている。会社概要にも「店舗スタッフをDX化し、店舗と、EC、ブランドと顧客をつなぐStaffTech(スタッフテック)サービス」と記されている。

図2:スタッフスタートの概念図

 彼らのサービス概要を示すこの図をみてもらいたい。よくSTAFF STARTは店舗スタッフがECサイト上で顧客にアイテムのコーディネートを提案でき、商品をおすすめすることができる購入促進ツールとして紹介される。それ自体は間違いではないが、さらに多くの機能があることをご存知だろうか?実際に彼らは販売スタッフのあらゆる業務をオンライン業務へとDX化することを志向し、オンラインでの貢献度を可視化することにより、個⼈評価と店舗評価までをワンストップで実施できることが可能なのだ。

 STAFF STARTを活用した投稿から、評価までの流れを見ると、この機能がいかに店舗スタッフのデジタル武装化につながり、テクノロジー嫌悪主義(Technophobic Culture)」を乗り越え、お客様、店舗スタッフ、企業との信頼関係作りに寄与しているかがわかる。というのも、各店舗スタッフがSTAFF STARTアプリを使ってコーディネートを投稿すると、それらが全国から集まりECサイトに掲載され、その投稿の結果EC売上にどのように貢献したのかが、管理画面から可視化され、それに基づき小売業は売上貢献に応じた評価や報酬を支払うという仕組みなのだ。実際に導入企業がこの評価制度を活用しているのか筆者は知らないが、まさに三方良しの発想で構築されたテクノロジーであり、現代のオムニチャネル化するお客様とつながる最高のツールであるといえるのではないだろうか?

 さらにSTAFF STARTには投稿機能だけでなく、スタッフの商品レビュー投稿機能、スタッフが特集ページを作る機能に加えて動画機能や、バイヤーが店頭スタッフの意見を取り入れ商品開発や販売に活かせる機能、店舗で接客したお客様にECサイトの商品QRコードを渡し、ネットでの購買を促す機能まである。さらにLINEとの連携も発表し、今秋から新サービス「LINE STAFF START」が始まる。国内⽉間約 8,900万⼈(2021年6⽉時点)が利⽤するLINEを活用することで、お客様とスタッフがオンラインやリアルでシームレスにつながり、1⼈ひとりに合わせたダイレクトなコミュニケーションが可能となる。まさに個客とつながることを店舗スタッフが実現できるのだ。

店舗スタッフを救うために、Human Touchなテクノロジーを。

 ここまで解説してきように店舗、本社、お客様の三方良しのデジタル活用術の導入は喫緊の課題なのである。帝国データバンクの調べによると,コロナ禍における小売、飲食店の人手不足は深刻化している。これらの業界では正社員の過剰感も示されてはいるが、非正社員に関しては、「飲食店」や「各種商品小売」といった個人消費関連の業種が人手不足に喘いでいる。規模別に非正社員が「不足」している割合をみてみると、「大企業」は21.7%、「中小企業」は22.7%、「中小企業」のうち「小規模企業」は22.0%と、企業規模を問わない問題であることもわかる。業種別にみると、「飲食店」が56.4%や総合スーパーなどを含む「各種商品小売」といった個人消費関連の業種が上位に並んでいる。

 オムニチャネル戦略を資金的にも実行しやすい大企業においても人手不足が鮮明になりつつある中,従来の店舗オペレーションにない店舗における「オムニチャネルオペレーション」、店舗スタッフのデジタル武装に積極的な現場が少ないのも理解できる。さらにコロナ禍による経営難に直面する企業も少なくない。しかし、多忙を極める店舗スタッフをいまのまま放置してよいのだろうか?彼らは生産性を求められながらも、彼らを助ける武器はあまりにも少ない。しかしお客様はどんどん進化を遂げている。

 人材難に喘ぐ労働環境の改善がなければ,顧客視点の店頭のデジタル化は進まないだろう。オムニチャネル化する消費者が本当に求めている体験を提供できる企業がどのくらいの今あるだろう。ユニクロがネット注文品を2時間でお引き渡しするサービスを全国で開始した。「デジタル武装」できる企業と、できない企業の差が鮮明になってきた。

 しかし、今回紹介したSTAFF STARTのような企業も登場してきている。リアルを中心にビジネス展開する小売業がこのような購買体験を提供できるようになるためのツールは生まれつつある。リアル企業の怠慢として存在する①低EC 化率 ②Technophobic Culture(デジタル化嫌い)が経営層だけでなく,店頭にもはびこる現状は打破可能だ。小売業は今こそ組織文化を変え,オムニチャネル戦略、OMOに全社で挑戦するリーダーシップや経営者、そしてSTAFF STARTのようなで店舗スタッフの武器を提供してくる企業との連携が必要なのだ。

 現代の買物体験においても引き続き店舗は重要なタッチポイントである。お客様のオムニチャネル化に対応するためのデジタルツールの導入、従業員インセンティブ、研修、費用対効果の検証を小売業の経営陣は今こそ取り組んでもらいたい。それなくしては,デジタル対応された小売業の未来は,すぐそこにあるのにいつまで経ってもこない、そして窮地に追い込まれることになるであろう。