「AIとは何か?」みたいな話は専門家に任せ、ここでは意外と簡単に実践的に使うことができるAIについて紹介します。手近にあるAIをどんどん使っていきましょう。
誰でも使えるAIの「民主化」
AIというと、莫大なお金がかかるというのが少し前までの常識でした。専門知識を持った、年収数千万円のAIエンジニアを雇ったり、ITベンダーに巨額の報酬を支払う必要がありました。
ところが、最近は一般ビジネスマンでも使うことができるようになってきました。まさに、AIの「民主化」の流れが急速化しています。これはAIに限らず、Linuxサーバーなど、デジタル分野全体で起こっている流れです。
AIの民主化の象徴的な事例の1つが、メルカリの「HAYASHI」くんです。これはメルカリの新入社員で、プログラミングの経験がなく、AIや機械学習についても素人の女の子が、3カ月でつくったチャットボットです。
このチャットボットは、連載の第1回で紹介した社内共有アプリ「Slack」上に存在し、印刷や経費精算のやり方、翻訳の依頼方法など、これまで人が質問に答えていたことをHAYASHIくんが返答してくれるというものです。Google社が提供する無料のAIエンジン「Dialogflow」を用いて、さまざまなパターンの会話を学習させてAIを育成しています。
HAYASHIくんに限らず、チャットボットは簡単で、かつ、有用なのでAI活用の入門に向いていると思います。「ユニクロ」も問い合わせにチャットボットを使っています。
最近は、電話で問い合わせるのが嫌という人も増えており、小売企業としては、電話だけでなく、チャット対応も問い合わせの選択肢に加えていく必要があります。それも、いつまでも人間が対応していたら生産性が上がらないままなので、AIに置き換えていくべきです。
バックオフィスで使えるサービス
AIは小売業の売場でも力を発揮します。その代表例がディスカウントストア「トライアル」のAIカメラです。これまで品出しは店舗スタッフが定期的に売場を見回り、品薄、欠品している棚の補充に当たっていましたが、AIカメラを棚につけることで、「画像認識」技術により、一定量まで商品が減ってきたらメッセージを飛ばせるような仕組みをつくっています。AIに過去の発注データや催事、天候条件などのデータを読み込ませることで、精度の高い自動発注にも使うことができます。
画像認識と同様に、AIが得意としているのが「自然言語処理」です。四則演算以外の解析をしてくれるのがAIで、これまで四則演算では、言語に関する部分は、「完全一致」または「部分一致」するものしか解析できませんでした。それが自然言語処理によって、文字列が少し違っても補正してくれる「あいまい検索」や、単語や品詞などをそれぞれ1つの塊として認識する「形態素解析」が可能になりました。
この自然言語処理により、バックオフィスで使えるサービスも増えています。
その1つが法務の「リーガルテック」です。小売企業でも法務部で弁護士を抱えている企業は売上高3000億円規模の大手くらいで、総務部が法務を兼任していることが多いです。「Legal Force」というサービスでは、AIが契約書をレビューし、危険条項や必要条項の欠落を指摘してくれます。
また、「ロゼッタ」というサービスは法務関連など専門性の強い分野を得意とする自動翻訳サービスです。「グーグル翻訳」はトレンドに沿った言葉は精度が高いが、専門性の高い言葉を苦手としています。ロゼッタは製品の説明書や設計書といった教師データをたくさん読み込んで学習させることで、専門性に特化したサービスを提供しています。
気がつけば、AIはとても身近なものになっています。AIを活用して難しいことをやりたいと考える前に、チャットボットを一度社内でつくってみたり、バックオフィスで使えるサービスを導入するのがおすすめです。AIを手近に感じることで、AIがどういう仕組みで、どういったことに活用できるかという実感がわくようになるでしょう。