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生活者の意識変容に合わせたマーケティングの実現

カゴメメインイメージ

トマトケチャップ、野菜飲料の国内シェアトップメーカーのカゴメ(愛知県/山口聡社長)。同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、コロナ禍での生活者の変化に合わせたマーケティングを展開する。実際、カゴメはどのようにDXに取り組んでいるのか、取締役常務執行役員営業本部長の小林寛久氏に聞いた。

ライフスタイルの2つの変化

──コロナ禍で人々のライフスタイルが変わりました。御社ではその変化をどのようにとらえていますか。

小林 大きく2つの変化があるととらえています。

 1つは「生活生産性の意識」です。リモートワークの浸透により、働き方が変わりました。会議、出張などこれまで当たり前にやってきたことが“なくてもけっこういける”ことに気づき、労働生産性を意識するようになりました。同時に、生活の中でも育児や買物などの家事をうまくこなして余暇を捻出するという “暮らし方改革”が進み、生活の生産性を向上させたいと意識している人が増えていると感じています。

 それによりチラシの特売、特定の曜日を対象にしたポイント販促といった従来の販促手法の効果が低下し、One to Oneを前提とした新たなプロモーションの必要性が高まるのではないでしょうか。

こばやし・ひろひさ
1984年4月カゴメ入社。大阪支店家庭用営業部長、コンシューマー事業本部長などを経て、2015年10月、常務取締役執行役員、マーケティング本部長。18年10月営業本部長(現任)、19年3月取締役常務執行役員(現任)

 もう1つは「リーズナブル意識」です。コロナ禍で外食、旅行などが消費できない代わりに家でちょっといいものを食べようという「プチ贅沢」を経験する人が増加しました。それにより、これまで「安い・低価格」として使われていたリーズナブルという言葉が、「合理的な」という本来の意味で認識されるようになったと考えています。

 そこで重要になるのが商品のこだわりを消費者にどう伝えるかです。店頭のPOP、パッケージだけでは限界があるので、デジタルを活用した情報発信により消費者に商品の魅力を伝える必要があります。

業種の垣根を越えたデータ分析

──御社ではどのようにDXに取り組んでいますか。

小林 カゴメでは早い段階からZ-MOT(来店前の下調べで起きる意思決定の決定的瞬間)を意識したマーケティング戦略を推進してきました。生活者の関心毎が今どこにあるのかを分析し、どのような情報を発信すると購入率が変わるのかを検証していきたいと思っています。また、小売業様のもつアプリ会員と紐づけして、継続購買がされているのか、という、従来D2Cでしかできなかった顧客分析ができるようにしたいと思います。野菜の摂取を促進し、お客様がカゴメ商品を買い続けることで健康になっていくモデルを構築したいという思いをDX推進によって具現化していきます。

カゴメはコロナ禍の生活スタイルの変化に合わせたデジタルマーケティングに取り組んでいる

──「アフターコロナ」時代に向けての新たな取り組みはありますか。

小林 D&Sソリューションズ(東京都/中村洋幸社長)の「情報卸」を活用し、より確度の高いOne to Oneマーケティングの実現に挑戦します。これまでのデータ分析では購入者の属性やトライアル率は分析できているものの、どのようなライフスタイルの中で購入されているのか、わかっていません。

 情報卸では小売企業との共同取組の承認の上でID-POSをもとにライフスタイルに基づいたクラスター分類や、店頭・SNSの情報発信に誰が反応したのかといった分析ができ、メーカーと小売の間に、情報プラットフォームを構築できると期待しています。

 たとえば、これまで生鮮食品と加工食品を組み合わせた消費行動の分析はほとんどできていませんでした。野菜をたくさん買い野菜ジュースも摂取する人、野菜を摂らないかわりに野菜ジュースを飲む人、のような消費行動のパターンを分析したいと思っています。

──21年4月開始の「実践リテールDX研究会」にも参加されます。

小林 今まで製・配・販の取り組みは、サプライチェーンの効率化を主軸に進められてきました。食品ロス撲滅やロジスティックス効率化はまだまだ改善すべき課題も多いのですが、一方で品揃えや物量を規定するマーケティング手法を改善していくことも1つのアプローチかと思います。多くの小売、卸、メーカー担当者が一堂に会し、共同研究を行い、ナレッジを共有することで、業界全体の社会への貢献の方法を探りたいと思います。