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【小売業・特別対談】
「顧客時代」におけるデータ活用戦略の未来
オークワブランド価値向上で顧客満足度を最大化

近畿および東海の1府7県に現在、ショッピングセンターをはじめスーパーマーケット、スーパーセンター、ディスカウントストアなど約160店舗を展開するリージョナルチェーンのオークワでは、人口減少や業態の垣根を超えた競争の激化などの経営環境の変化に対応してデジタル戦略を加速しデータ活用に積極的に取り組んでいる。不確実性が高まる時代の中で、オークワでは顧客満足度の最大化を目指す価値とサービスの向上にどのように取り組んでいるのか。トレジャーデータ株式会社の小林広紀氏を聞き手に、オークワの情報管理部・大西剛氏とともに、小売業界の現在と未来を考えてみたい。

デジタルで省力化・自動化を進める

株式会社オークワ
管理本部情報管理部部長
大西 剛 氏

1995年、㈱チェーンストアオークワ<現在の㈱オークワ>に入社。店舗経験を経て同年 情報管理部へ異動。2010年システム開発Mr、2014年情報管理部部長へ(現職)
約25年に渡り、システム畑を歩む。

小林 今回は小売企業の中でも積極的にデジタル投資を行っているオークワ様の取り組みをお伺いしながら、われわれトレジャーデータの提供するCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)が、小売業のデータ活用にどのような価値を提供できるのか考えていきたいと思っています。オークワ様では現在どのようなデジタル施策を実施されていますか。

大西 当社では、特に自動発注とAI(人工知能)による需要予測に力を入れています。発注作業など従業員の日々の定常的な作業を省力化することで、店舗の従業員が企画や接客といった業務により注力できるようになっています。

小林 平準化できる業務に掛かるコストを下げ、お客様との接点となる業務に人的リソースを投資することで、競合他社との差別化を図るということですね。そういった省力化や自動化を図るための投資は、どのような背景があって進められたのでしょうか?

大西 「発注作業に時間が掛かりすぎている」という共通認識が社内にありました。その作業をどのように削減するかという議論から、システムに投資して効率化していくことが決まりました。システム投資に関しては、現場から上がってくる意見を基に効率化を進めていくケースが増えています。

トレジャーデータ株式会社
マーケティング担当マネージャー
小林 広紀 氏

1999年、常陽銀行に入行し法人営業に従事。その後、スノーボードメーカー、Gentemstickの経営に株主として参画する。2008年よりビックカメラ経営企画部で計数管理業務や子会社設立に参画したのち、楽天にてECコンサルタントを経て、2016年にビックカメラに復籍。ビックカメラと東芝の合弁会社代表兼アップルソリューション事業部長を務める。企業間でのデータ連携を強く実感し、2018年4月より現職。

小林 現場から声が出てくるのはいいですね。主にどういった声が上がってくるのでしょうか?

大西 「業務に掛かる作業負担を減らしたい」という意見が多いですね。作業の負荷を減らすことで判断のスピードを上げることができます。要求される資料をもっと簡単に出したいとか、季節商品の消化率をリアルタイムで知りたいとか、そういうちょっとした困りごとから着手しています。

小林 システムを担う部署が積極的に現場の声を集めて業務改善策を提案しているというのは、現代の企業経営の視点からみてもとても重要なことだと思います。

大西 情報管理部として会社の業績向上に貢献していきたいと考えています。最近はAIによる客数予測に基づいた商品計画を組むなど、システムの活用度も向上しています。情報管理部ではシステム投資に関して、実際の現場でどのような機能や仕組みが必要なのかキャッチアップしながら、積極的に社内に提案しています。また最近では、大学との産学連携でデータ活用に関する取り組みも実施しています。

現場で役立つための「速い」データ活用

小林 私も前職は小売業界におりましたが、当時は販売データの集計を手作業で行っていました。本当に大変な作業で、基幹システムや様々なデータベースにアクセスし、データをまとめる作業だけで毎日5、6時間かかってしまう。データを分析して、経営層に施策提案をするという本来の業務になかなか時間を割けなかった記憶があります。

大西 データの分析では、アウトプットされたレポートだけ見ると、簡単に作れそうに見えますからね。そこに労力とアウトプットのギャップが生まれて、担当している部署はみんな疲弊してくる。

小林 ある全国展開されているアパレルメーカーでは、毎日2人がかりで多くの時間をかけてデータを集計し、要約してレポートを出していました。トレジャーデータのサービスを導入いただいたところ、作業時間が従来の3分の1以下に短縮できたそうです。

大西 実際、ポイント利用や併売なども考慮してお客様それぞれのストーリーを考えながら購買データの分析をすると、かなりの作業量になります。手作業では難しいし、時間も掛かってしまう。

小林 トレジャーデータの提供するCDPは、お客様がデータを分析する際に必要とされる「速さ」の需要に応えるため、必要なときに必要なデータをすぐに取得できるデータベースになっています。

大西 マーケティングや経営企画の部門ではデータを多様な切り口で分析することが求められる一方、当社は現場での数値認識が重要との考えがありますから、現場にはパターン化した数字が出てくるシステムを用意しないといけません。データや数字との関わり方は専門的に深掘りして活用する部分と、現場で誰もが日常的に活用する部分に二極化していくように思っています。

顧客理解に必要なのは「データの一元的な管理」

オークワアプリ(左)、ネットスーパーオークワ(右上)、ネットショッピング(右下)

小林 オークワ様は、アプリやネットスーパーなど多岐にわたるチャネルをお持ちですね。

大西 「まずやってみよう」というマインドでチャネルを増やしてきましたが、結果として
システムが分散してしまったのは課題です。現段階でシステムの統合を進めていきたいと考えています。顧客IDを含むデータを一元的に管理できれば、お客様への最適な情報発信から購買までつながるような仕組みができると考えています。
最近はクラウドサービスなど、部署やお店ごとに簡単に導入できるシステムも多いため、余計にデータが散らばってしまっているという状況もあります。

小林 トレジャーデータにご相談いただくケースでも、業界を問わず、「データが分散してしまっている」という課題は多いですね。システムが部署やチャネルごとで分散し、うまく連携できていないという「サイロ化」の課題を持たれている企業様はとても多いです。

大西 チャネルが増えただけでなく、お客様の行動パターンも複雑になってきています。性別や年代といったわかりやすい枠組みが、むしろ余計な先入観として分析を邪魔しているように思います。
 家族構成が変われば消費行動も変わるし、いまは男性でも自炊する方が多い。コロナ禍で生活スタイルが変わった方も多いでしょう。男女比ではスーパーに来店するのは女性の方が圧倒的に多いので、そもそも男性向け、女性向けの商品というのが難しいのです。「お父さんのためにこれ買ってあげよう」というのもありますしね。そういうカテゴリーの分け方や売場での提案方法は、今後課題になるように思います。

小林 お客様を「個」で見ていくということが必要とされますよね。それがデジタル技術の進化で可能になってきています。セグメントから購買傾向を予測するのも必要ですが、お客様個々の様々なチャネルでの購買前、購買後の行動、POSのデータなどを分析し、販促に繋げていくという考え方です。また、その結果、商品カテゴリーの分け方やタグ付けも大きく変わるのではないかと思います。小売企業側の管理を優先したカテゴリー分けやタグ付けから、お客様の嗜好性に基づいたカテゴリー分けやタグ付けが出来れば、売上増加に寄与しそうです。

デジタル投資でブランド価値向上を図る

小林 トレジャーデータが提供しているCDP「Treasure Data CDP」についてですが、
どのように思われますか。

産地・素材・製法にこだわり抜いたブランド・オークワプレミアム

大西 MA(マーケティング・オートメーション)に使えるという特徴があると思っています。値引きクーポンの発行だけでなく、もう1品追加で購入していただくための施策や、商品の付加価値をお客様にお伝えするような仕組みを構築することができれば、企業価値の向上に役立てられると思います。
 今後の小売業界では、単純な安売り競争で生き残っていくことは難しいでしょう。企業や商品のブランドを確立し、「オークワでしか買えないもの」を作っていく。「オークワブランド」力の向上が求められています。
Treasure Data CDPの事例記事などを読むと、ブランド価値を向上させるためにCDPを導入し活用されている企業も多く、共感できますね。企業価値を向上するための一翼を担っていけるようであれば、当社にとっても使い勝手がよいと思います。

小林 値引きだけが販促ではないですよね。お客様自身が気づいていない潜在的なニーズを汲み取って商品を提案していくこともお客様の満足度向上につながります。そのためにはデータを分析、活用して、お客様をしっかり理解して、お客様の半歩くらい先を見ていく必要があると考えます。まさにトレジャーデータがCDPで、様々な企業様をサポートさせていただいているところです。

大西 ブランドが確立されれば収益は安定しますし、AIでコストを削減すれば生産性は向上する。企業の成長には、ブランディングと経費削減の両輪が必要だと考えています。当社の情報管理部も、その両方に役立てるデジタル投資、データ分析を目指していきたいです。

小林 多くの企業では、システム部門は基幹システムの保守メンテナンスが主な仕事で「守り」の印象がありますが、お話をお伺いしていますと、オークワ様の情報管理部は部署をまたいだ提案を積極的に行うなど「攻め」のイメージがありますね。

大西 オークワの信条は、「より良いものをより安く、高品質のものをお手頃価格でお客様に提供する」ことです。それはシステム投資でも同じだと思います。今流行っているAIなどを導入するのは簡単です。でも、それは本当に現場で役に立つのか。システム投資では、きちんと精査して、システムの品質を保ちながら構築を進めていきたいです。

小林 大西さんのような考えをお持ちのシステム部門の方が増えると、小売業界や世の中全体のデジタル化も、もっと加速していくと感じます。

大西 DXという言葉が流行っていますが、どのように会社の利益やお客様の利便性につながるのかというと、まだ不明な点が多いと思います。そこが明確になると、DXで小売業界はかなり速いスピードで変わっていくはずです。

小林 小売業の経営者の方は特に、日々のPL(損益計算書)を意識されていますから、投資がPLにどう反映されるのかという点で判断されることが多いですよね。

大西 そういう傾向は強いでしょうね。

小林 私たちトレジャーデータも、CDPを活用いただく企業のさらに先にいる生活者に、どんな付加価値を提供できるかを常に考えていきたいと思います。この度は貴重なお話をありがとうございました。