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新型コロナウイルス対策にも一役買った中国IT企業の最新テクノロジー

新型コロナウイルスの世界的な蔓延が深刻化している。中国で新型コロナウイルスがアウトブレイク(感染爆発)したのは 1月下旬のこと。中国国内で最も多くの感染者数を出した武漢市は1月23日に封鎖され、それに追随するかたちで多数の都市でも同様に封鎖が行われた。それから約2カ月が経過した現在、中国ではピークアウトを迎え、約8割の工場が生産活動を再開。多くの都市で外出可能となり日常生活が徐々に取り戻されつつある。中国政府の対応については国外を中心に批判する声も少なくない。しかし、最先端のテクノロジーを官民一体となって活用したことでピークアウトまで持っていったというのもまた事実である。実際にどのような取り組みが展開されたのだろうか?

感染の危険性をアプリで把握可能に

通行人のアリペイヘルスコードをチェックする検問の様子

 都市封鎖が行われたおよそ 2カ月間、中国では新型コロナウイルス撲滅のため、官民が 一体となり最先端のテクノロジーの導入・活用が進められた。なかでも注目すべき事例 が、ビッグデータを活用したす べての人々の行動履歴と接触履歴の掌握である。新型コロナウイルスは感染力が強く、人から人への伝染が特徴であり、感染予防のためには感染者を把握したうえで濃厚接触者 を特定することが最重要課題となる。

 この問題を解決するためアリババ(Alibaba)グループの金融部門を担当するアントフィナンシャル(Ant Financial)は、2月11日に「アリペイヘルスコード」のサービス開始を発表した。これはQRコード決済「アリペイ(Alipay)」のビッグデー タと、行政が有する市民の移動状況や健康管理に関するビッグデータを総合解析するもの。大量のデータと科学的な根拠に基づいて、自身の新型コロナウイルス感染の危険性を把握できるというわけである。アプリ上にはユーザーごとに赤黄緑のいずれかの色のQRコードが 表示され、自らが濃厚接触者に該当するかどうかを判断することが可能となる。

実際の画面。緑色で表示されれば原則として移動が可能(著者知人提供)

 

 

 緑色が表示されれば「安全者」として市内を出歩くことが可能、黄色ならば「要注意」として7日間、赤色ならば「濃厚接触者」として14日間の隔離措置が講じられるといった具合だ。自分自身で確認するだけでなく、集合住宅の出入口や駅など市内各地に設けられた検問所でもアリペイヘルスコードがチェックされる。

 アリペイヘルスコードは、1月23日の武漢市閉鎖後からわずか20日後に杭州市でサービスを開始し、その1週間後には中国全土の100都市で提供されるまでに拡大した。感染有無というセンシティブな個人情報を赤裸々に解析されることに嫌悪感を抱く人もいるだろうが 、多くの市民の生命と安全を守る「予防インフラ」として大きな役割を果たしたことは間違いない。

充実したOMOの仕組みが拡散リスクを低減

OMO型リアル店舗の存在も拡散抑制に一定数寄与したとみられる(写真はアリババが展開する「フーマー・フレッシュ」)井フーマーフレッシュ外観

 もう1つ、中国が新型コロナウイルスの拡散抑制に成功した理由として、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合 )が 高度に進んでいることも忘れてはならない。 

 2016年末からアリババを中心にOMOを推進する動きが加速していったことは周知のとおりだが、デジタルへのリテラシーが高い若年層で主に普及していたのが実情だった。しかし、都市封鎖によって外出できない状況下で、シニア層などデジタル化と無縁だった人々も半ば強制的にOMOの世界に取り込まれ、オンラインでの買物が生活インフラの一部として浸透していった。

 たとえば 、テンセント(Tencent)傘下のOMO型生鮮食品スーパー「毎日優鮮」では、都市封鎖後1週間で対前年比3.5 倍の売上を記録、客単価も同4倍を記録している。こうしたニューリテール戦略で築いた土台が、世界各国で見られるように都市封鎖時にリアル店舗へ人々がパニック的に押し寄せ、結果ウイルスを拡散するというリスクを低減させた側面はあるだろう。

 新型コロナウイルスとの戦い は、日本を含め世界各国がこれまで経験したことのないような難題であり、英知を結集し力を合わせて克服することが求められる。中国での最新テクノロジーの活用事例が必ずしもほかの国で同様に効果的だという確証はないが、ポジティブな成果を挙げた事例として、部分的にでもヒントとして学ぶことは有効かもしれない 。