[11日 ロイター] – 米アップルは10日、新型「iPhone(アイフォーン)11」シリーズの発表に合わせて、11月に開始する動画配信サービス「アップルTV+(プラス)」で同社製品を購入したユーザーの視聴を1年間無料にする方針を明らかにした。こうした経営戦略によってアップルは動画配信のユーザー数が最大手ネットフリックスを凌駕しそうだが、トップの座を維持するのは難しそうだ。
アップルの発表によると、アイフォーン、マックブック、iPad(アイパッド)、iPod(アイポッド)タッチなどアップル製品を購入するユーザーは最初の1年間、アップルTV+の料金がかからず、その後は月額5ドルで視聴が可能。
市場が予想するアイフォーンの向こう1年間の販売台数(中国を除く)は少なくとも1億3000万台。マックブックとアイパッドは昨年の販売実績が6000万台強で、アップルTV+のユーザー数はネットフリックスの約1億6000万人を余裕で超える見通しだ。
ただ、無料視聴の効果が消えれば、アップルも有料顧客の獲得には新たなコンテンツの投入が欠かせないという、この業界共通の課題に直面する。ネットフリックスは昨年、新たな番組の制作に120億ドルを費やしたとされる。
アップルはこの数カ月間にハリウッドのタレントをかき集め、番組の制作を計画している。しかしアップルTV+は視聴料が競合他社よりも安いとはいえ、20億ドルという今年の予算では視聴者のつなぎ留めに不可欠なヒット作を確保するのは困難だとアナリストはみている。
クレディ・スイスは、ネットフリックスが動画配信市場で確保している10年の先行性やサービスの規模、コンテンツ、顧客のつなぎ留めなどが、コンテンツが比較的乏しいアップルTV+によって影響を受けることはないとの見方を示した。
増える市場参入
動画配信サービス市場はアップル以外にもウォルト・ディズニーが「フールー」のサービス開始を予定しており、アマゾンの「プライムビデオ」やワーナーメディアの「HBOマックス」と競合する見通しだ。
動画配信はサービスの数が比較的限られている上、「プライムビデオ」の視聴がアマゾンの無料配送サービスの契約者に限定されるなど特異な仕組みが設けられており、これまでユーザーにはほとんど選択の余地がなかった。しかしアナリストは、市場参入の増加で市場のこうした特質が変化するとみている。
ネットフリックスはこれまで映画会社やテレビ局からコンテンツを買いあさってきた。しかし映画会社やテレビ局は自前の動画配信サービスに乗り出し、マーベル・シネマティック・ユニバースのような作品群を抱えるようになってきている。
アップルTV+は11月1日から100カ国でサービスを始め、毎週新作を立ち上げる計画。既にジェイソン・モモア主演の「SEE 暗闇の世界」、リース・ウィザースプーンとジェニファー・アニストンが主演する「ザ・モーニングショー」などの作品を発表している。
しかしネットフリックスの昨年の番組数は700作に達しており、しかも視聴率上位100番組に入った作品が数十作もある。ネットフリックスは今年は番組制作に150億ドルを投入する計画だと報じられている。
シノバス・トラスト・カンパニーのポートフォリオマネジャー、ダニエル・モーガン氏は「アップルは基本的に(HBOやショータイムなど)他社へのサブスクリプションサービスの販売に重点を置き、オリジナルコンテンツはそれほど重視していない」と指摘。「動画配信サービス市場は配信会社がひしめいており、アップルTV+のような新参組が足掛かりをつかむのは難しいだろう」と述べた。
この点からすると、アップルの動画配信サービス参入は価格競争に巻き込まれつつあるアイフォーン、アイパッドの販売促進が主な狙いかもしれない。
米証券ウェッドブッシュのアナリストらは、アイフォーンのユーザー数が全世界で9億人に上るアップルは3年から4年以内に動画ストリーミングサービスの有料契約者が1億人に達する可能性があるとしつつ、同社にとっての最優先はアイフォーンの販売、とりわけ中国での販売だと指摘。「アップルがアップルTV+を1年間無料にしたのはアイフォーン11の新型3機種の需要を喚起するためだ」とした。
(Tanvi Mehta記者、Supantha Mukherjee記者)