小売DX(デジタル・トランスフォーメーション)の議論の中で、必ずといっていいほど話題に上るのが「データの活用」だ。小売業はどのようにデータを活用していくべきなのか。小売業のIT活用アドバイザーとして実績多数の店舗のICT活用研究所代表である郡司昇氏が解説する。
デジタルの導入効果を見極めよう
ここ数年、小売業界ではDXの取り組みが見られているが、デジタルの知見が足りないこともあって、「手段」に頼りすぎている印象を受ける。安易に業者の提案に飛びつくのではなくデジタルを導入することで生活者にどのような利点がもたらされるのか、従業員の働き方はどう改善されるかという視点を持つことが大切だ。
そうした視点が欠けているために、さまざまな挑戦をしたものの、POC(Proof Of Concept:概念実証)だけで終わってしまい、成果が伴わないことが多い。また、一度始めたことをなかなかやめられないというケースも散見される。以前に比べてデジタル活用は浸透しつつあるものの、まだまだやるべきことは多い。
レジの例がわかりやすい。店内で買物をする来店客は、買物カゴの下のほうに重いもの、あるいは硬いものをまず置き、その上に軽いもの、やわらかいものを積んでいく。通常レジやセミセルフレジの場合、精算の際は店員が買物カゴの上のほうにあるやわらかいものをまず横によけ、重いものからスキャンして精算済みのカゴに入れる。そして、精算が済んだ来店客はサッカー台に行って、下にある重いものを取り出し、レジ袋やマイバッグに詰めていく。つまり、来店客と店員で同じ作業を3回も行っており、非常にムダが多い。
セルフレジを導入すれば、来店客は直接レジ袋やマイバッグに商品を詰めることができる。来店客は混雑しているサッカー台に並ぶ手間も省ける。また、レジに必要な人員が削減されることで、総菜製造や接客のような技術を必要とする部門に人員を割くことも可能になる。
国内のセルフレジでは、不正防止と年齢確認のために約4~6台に1人が配置されているが、米国では無人の店が多い。不正行為はAIによる監視で防止できるし、年齢制限のある商品は有人レジに振り分ければ、セルフレジに人員を配置する必要はなくなる。このように、デジタルを導入していくうえでは、それによって何がどのように改善されるのかを見極めることが大切だ。
現場の負担を軽減するコスモス薬品の「棚割り」
小売DXで重要になるのがデータの活用だ。かつての小売業はデータがあってもそれを活用するという考えが足りていなかったが、最近になってようやくその準備ができ始めている。
意外に思えるかもしれないが、データ活用という点で、ドラッグストア大手のコスモス薬品(福岡県/横山英昭社長)に注目したい。
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