2018年末の「100億円キャンペーン」により、わずか数週間でユーザー数400万人超えを達成した「PayPay」。後発ながら大胆な施策を展開することで、一躍モバイル決済の注目プレイヤーに躍り出た。圧倒的知名度を獲得したPayPayが次に描いていることとは――(本原稿は6営業日連続掲載の連載・キャッシュレス化を乗りこなせ、第2回です)
大反響の「100億円キャンペーン」
モバイル決済サービス「PayPay」は、2018年6月にソフトバンクとヤフーが共同出資して設立した同名の合弁会社、PayPay(東京都)が開発・提供している。
PayPayは、クレジットカードよりも決済手数料が安く(開始から3年間無料、以降の料率は現時点では未定)、利用者がQRコードを読み取るタイプの決済方式であれば、コードが記載されたシールを貼るだけで利用できる。つまり、ほぼ無料で導入・利用ができるのが強みだ。
近年、政府主導の「キャッシュレス推進」施策のもと、大きな動きを見せているキャッシュレス決済だが、中国のAlipayなどを中心にグローバルで急拡大する一方、日本では2018年までほとんど普及していなかった。
こうした状況を一変させたのが、PayPayが18年12月に実施した「100億円あげちゃうキャンペーン」だ。同キャンペーンは、PayPayで決済をした場合、決済金額の一部または全額を還元するというもの。
100億円の原資を投入したこの大胆な施策は開始後たちまち消費者の注目を集め、早々とPayPayに対応したビックカメラ(東京都)には、高額な家電製品をお得に購入しようと消費者が殺到し、12月の売上が対前年比で1.2倍に伸長するなど大きな反響を呼んだ。
一連の施策により、PayPayの利用者数は400万人を超える急激な拡大を見せた。とはいえ、ユーザーにインセンティブを提供しても対応店舗がほとんどなければ、ここまでの話題は呼ばなかっただろう。
PayPayでは具体的な利用可能店舗数を発表していないものの、2019年4月3日時点、ファミリーマート(東京都)やローソン(東京都)などのコンビニエンスストアのほか、ドラッグストアのウェルシアホールディングス(東京都)などの大手小売チェーンが続々とPayPayを導入している。
さらに今年2月には、ディスカウント型食品スーパーのロピア(神奈川県)が導入を発表。食品スーパーでバーコードによるモバイル決済を導入している企業はほぼないうえ、ロピアはこれまで現金払いしか対応していなかった。意外なプレイヤーのPayPay参加に業界では「まさか」の声が上がった。
加盟店獲得は「人海戦術」で
PayPayでは、ユーザーに対していわゆる「バラマキ」とも言えるキャンペーンを行う一方で、「人海戦術」による営業戦略によって加盟店を急激に増やしている。
PayPay広報室の前田将氏は、「『ニワトリかタマゴか』といわれるが、当社では『使える場所が多いかどうか』に重きを置いています。お客さまが日常使いのお店でPayPayを利用いただくため、加盟店数を増やすことに最も大きなリソースを割いています」と語る。
PayPayでは、全国20カ所に営業所を置き、ソフトバンクやヤフーなどのグループ会社から出向した営業マンを配置。小売店や飲食店などの店長に直接話をすることで、加盟店契約へとつなげている。
「店舗さまの中には『現状の現金決済だけの環境でも困っていない』という方もいらっしゃいます。まずはこちらからお尋ねして、モバイル決済のメリットを直接お話しすることが必要なのです」(前田氏)。
現金決済では、売上金の確認、保管、入出金作業などの業務が必要となる。一般的に、これらの業務は店舗オーナーや経験豊富な従業員などにしか任せられないことが多い。
一方、PayPayのようなモバイル決済では現金を介さないため、これらの作業にかかる時間を軽減し、現金決済における『見えないコスト』を削減することが期待できる。
さらに、決済の最短翌日に店舗へ売上金を入金する仕組みとなっており、翌月入金が多いクレジットカードよりも小規模店舗などにとって使い勝手が良い。このようなメリットを直接出向いて話すことで、これまで電子決済に対応していなかった店舗もPayPayを導入するようになってきているという。
モバイル決済市場に目を向けてみると、PayPayだけでなく、さまざまなプレイヤーが勢力を拡大している。マルチ端末などを介することで、これらの加盟店にもPayPayを導入することもできるが、同社は「現金決済にしか対応していない店舗」への導入に力を注いでいる。「PayPayの加盟店数拡大はもちろんですが、当社の課題は『現金決済』というライバルを倒すことです。まずはQR決済が可能な店舗を拡大し、業界を盛り上げていきたい」(前田氏)。