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ローソン、AI活用の値引き実験を162店に拡大!粗利額と廃棄ロスはどこまで下がるのか?

ローソン(東京都/竹増貞信社長)は、都内162店舗で「AIを活用した値引き」の実証実験を開始した。これは、個店の在庫数や販売実績に応じて、AIが値引き額を推奨する「人の手に頼らない値引き」を実現するシステムで、ローソンが昨年東北地方23店舗で行った実験を進化させたものである。値引きの対象となるのはおにぎりや総菜、チルド麺など約270SKU。実験期間は2022年6月28日から9月下旬までを予定している。ローソンのAI活用による「粗利額」アップと「廃棄ロス」削減をねらう取り組みとは。

値引き推奨を確認するローソンの従業員

AI活用により「思い込み」による値引きをなくし、合理化をすすめる!

 ローソンはAIを活用した値引き実験を、21年6から10月にかけて、東北6県の郊外型店舗23店で行ってきた。22年6月下旬から9月下旬までは、この取り組みを都内の駅チカ店舗、直営店、FC店など計162店舗まで広げる。ローソンはAI値引きを全国に広げ、「2030年までに食品ロス50%削減(対18年度比)、50年までに100%減」という目標を達成しようとしている。

 では、具体的に「AIを活用した値」とはどんな仕組みになっているのだろうか。従来、ローソンの店舗での商品の値引きは各店舗のオーナーによる「勘・経験・度胸」に基づいた決断に委ねられてきた。しかし、このような人に頼った値引きでは、24時間営業という特性上、常に合理的な判断ができるとは限らない。また、値引き業務を行うのはオーナーやベテランクルーといった業務経験が長い人員に限られている。人手不足に悩むコンビニ(CVS)にとってはそうした人材が不在の時間帯もあり、ハードルが高い業務となっていた。

ローソン次世代CVS頭括部の石川淳氏

 ローソン次世代CVS統括部マネージャーの石川淳氏は「値引きは、担当者の『思い込み』が反映されてしまうために、機会ロス・廃棄につながってしまう要因の一つとなっていた」と説明する。

 「たとえば、廃棄期限が迫る『おにぎり』をカテゴリーごと値引きしてしまうケースが多かった。本来は『おにぎり』の中にも、販売金額が高く、廃棄期限にかかわらず売れる商品もあるが、値引き担当者の『廃棄』を恐れるという心理が働いてしまうのだ。商品の特性を無視した値引きが常態化すると、結果的にお店の利益を毀損してしまう。この『属人性の高さゆえの機会ロス』という課題を解決したかった」(同)

 21年の実験では、販売金額や発注データ、カテゴリーの在庫数、天気予報などの膨大なデータを本部がAIで分析し、各店舗、各商品(弁当・おにぎり・パンなど約60SKU)別に「値引き率」をピンポイントで店舗に推奨するシステムを導入。結果として、廃棄金額は実験実施前と比べ約2.5%減少し、粗利額は約0.6%増加するなど、一定の成果を挙げた。

 店舗オーナーは「値引きしたものが売れるようになった」「適切な値引きができるようになった」と好反応を示したという。東北での成功を受け、今回、対象SKUを約270SKU(総菜・チルド麺・デザートを含む)に拡大し、AIによる値引き実験を都内162店舗(東北23店舗も継続)でも実施することを決めたのだ。

都内での実験では店舗オペレーションの簡素化に取り組む

 今回の実験では、主に2点、前回の実験から得た反省材料を活かした取り組みを行う。

1つ目は、店舗オペレーションの簡素化だ。21年の東北での実験の際は、値引き対象の商品にバーコードをスキャンし、バックルームのストコン(ストアコンピューター:商品の発注や廃棄登録など、店舗のデータを集約したコンピューター)で印刷する、という形をとっていた。今回の実験では、バーコードのスキャンが必要なくなり、本部からストコンに対して値引き率を印刷したバーコードのデータを送信し、店舗はそれを印刷して商品に貼るだけで業務が完結するようになった。

値引き後価格が表示されたバーコード

この変更は、今後AI活用による値引きを広げていく上で、都内162店舗の直営店やFC店、駅近店舗や住宅立地の店舗など、さまざまな形態の店舗で応用が効くように、業務をできるだけシンプルにしたい、というねらいがある。「特に都内の店舗では人手不足が深刻で、クルーの経験にもバラつきがある。オペレーションの簡素化は必須だ」(石川氏)

 2つ目は、本部が値引きデータを送る時間帯を、細大4回に増やしたことだ。東北での実験では値引きデータの送付が16時に固定されていたが、個店によってはこの夕方の時間帯に他の業務で忙しく、値引きデータを商品に貼ることができない、というケースがあった。そこで、今回の実験では、昼・夕方・夜2回の最大4回、個店の希望に応じて本部から値引きデータを送信する時間帯を分散できるようにした。この変更により、個店はより積極的に値引き業務に取り組めるようになる、というねらいがある。

以上2つの改善で、都内での実験では、廃棄額約4%減と荒利額約1%増を目標に掲げる。ローソンは23年度中に、AI活用による値引きを全国のローソンに拡大していく考えだ。

AI活用導入のためには、本部と店舗の「コミュニケーション」が重要

 21年度の東北での実験では課題もあった。それは、オーナーと本部のコミュニケーション不足に起因するものだ。AIを活用する値引き推奨には、データに基づいた合理性があり、実際に数値も向上している。が、あくまで値引きの最終的な決定権は店舗オーナーにある。オーナーによっては、これまでの経験則を重視し、本部からの値引き推奨を承認しない、とう例もあったという。さらに、店舗オペレーションが大きく変わることから、業務が煩雑になるという問題もあった。

 後者の課題については、今回の都内での実験でオペレーションを簡素化したことによる解決をねらう。また前者については、「(店舗では)値引きをしている商品に対して、なぜ今回本部は値引きを推奨しなかったのか」や「(店舗では)値引きを実施していない商品にたいして、なぜ値引きを推奨したのか」というコミュニケーションを密にとっていくという。

 「都内での実験では、オペレーション上の『ペインポイント』を検証していく。AI活用による値引き推奨が成功するか否かは、本部と店舗がどれだけ良い連携をとれるかにかかっている」(石川氏)

ローソンは、AI活用による値引きの推奨によって、粗利額アップと廃棄ロス削減という目標を達成することができるのだろうか。