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「デジタル化と小売業の未来」#16 D2Cが進むと卸・小売の従来の商習慣はどう変わる?

前回の記事では、D2C文脈における体験型店舗の必要性について触れました。しかし、今後メーカーによるD2Cが増えると、日本で課題となるのがその独特の商習慣です。企業が体験型の店舗やオンライン販売で直接顧客を持つためには、日本独自の商流の中でどのような対応が必要になるのでしょうか。

日本独自のスキーム構築が重要

 メーカーが直接自社の商品を販売するD2Cという形態が増えているとはいえ、実際に弊社クライアントなど数多くのメーカーと話していると、卸や小売との関係性を壊したくないというご要望が多く寄せられます。しかし、激変する小売市場のなかで変化の必要性を感じている企業もいます。流通の中間をほぼほぼ飛ばしながら直販を進めるのか、逆にそこを活かしながら続けるのかという判断の岐路に立たされている企業も少なくありません。

 弊社がこのようなご相談を受けた場合、実際にそのプレーヤーの間に当社が入るのですが、必要となるスキームは実にトリッキーなものです。D2Cに関するご相談においては、従来の流通の流れをある程度壊すことにもなるため、どうしても日本独自の流通構造を構築したうえで直販を進める必要があります。

 

日本特有の卸売業はどうなるのか

 卸企業もこの現状には当然気付いており、卸企業が自ら企画書をつくって新しいスキームを提案したり、PB(プライベートブランド)などの直販に取り組んだりする動きも出ています。商品の流通において卸企業が果たす役割が幅広いのは日本特有で、世界でもあまり例がありません。そのため、現実的には日本ではまだ流通の変革に対する明確な答えが出せていない状態と言えるでしょう。

 実際、メーカーが直販を検討する際、基幹システムから顧客情報管理など、リソースを含めてすぐに取り掛かることはできません。そこで当社では、そのような機能を全て任せることができる「ハンロー」というサービスを展開しています。本サービスは、売上に対する料率だけで、物流だけでなく販売戦略や顧客対応なども含めたオンライン販売の全てを請け負うというサービスですが、これがメーカー各社に非常に好評となっています。

ベンチャーに市場が奪われ始めている

 現実には中間流通を担う卸企業も、結局自社だけでは直販に対応できないという問題が残されています。これは卸側も理解していますが、このまま古い流通の形態を維持し続けるのは難しいとも思っており、卸・メーカー・小売の三方が納得できるトリッキーな座組を作るというトライが始まっていることは知っておくべきでしょう。

 メーカーとしては従来の販売方式で問題がなければ、無理に変えたくないというのが本心です。しかし、実際にマーケットを見てみると利益率も高いデジタル系のベンチャーに市場が取られ始めており、自社の売上を維持できなくなっています。大手であればそういったベンチャーを買収するなど対応するための方法はありますが、そのような資金力がない企業の場合、どうしても生き残るための新しいスキームを模索する必要があるでしょう。

 

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。