メニュー

プロ野球界のレジェンド槙原寛己でも乗り越えられなかった?!“クセ”の分析からわかること

YouTubeに「ミスターパーフェクト槙原」というチャンネルがある。日本のプロ野球界で最後に完全試合を達成(1994年5月18日)した元読売ジャイアンツの投手、槙原寛己さんがプロ野球のOBなどをゲストとして迎え、当時の話をインタビュー形式で振り返るという番組だ。

i-stock/Matt_Brown

“クセ”を見抜く重要さ

 2021年10月9日にゲストとして登場したのは、元プロ野球選手でメジャーリーガーの新庄剛志さんだ(新庄さんは配信の20日後、10月29日に北海道日本ハムファイターズの監督に就任した)。

 「ミスターパーフェクト槙原」の中で新庄さんが得意げに話していたのは、槙原さんの現役時代のクセについてだ。入団当初は通算159勝、59セーブを挙げることになる凄い投手を苦手にしていたが、クセを見抜いてからは一転、カモにしていたのだという。

 「分かっちゃったんですよ。槙原さんの場合、ストレートを投げるときには左肩が5㎜くらい小さく動く。でもスライダーの時は動かない。だから動かない時のスライダーをイチニのサンで打っていた」(新庄さん)と笑いながら話していた。

 そういえば、プロ野球選手のクセについて、阪神タイガースや西武ライオンズで捕手の強打者として大活躍した田淵幸一さんも感慨深げに昔を振り返っていた。

 「巨人の堀内恒夫投手はカーブを投げる時に顎がちょっと上がるんだ。直球の時は、そのままなんですぐに分かる。ずいぶん打たせてもらったなあ」

 「昔のユニフォームは伸縮性がないから、盗塁しようとするランナーは、一度ズボンを上に引き上げる。それが走る合図だったから大抵は阻止することができた」

 けれども、そのクセは自分だけの宝物で同じチームメイトであっても誰にも言わない。話が回り回って本人にクセがあることが伝わり、修正されてしまえば元も子もないからだ。

 クセというのは、実はやっている当の本人が一番わからない。だからこれが相手に分かってしまうとなると、もはや負け戦確定だ。選手たちは死活問題であるから必死になって、他の選手のクセを見抜こうとする。年俸に直結するからだ。

個人の“クセ”が収集される時代に

 これまでは属人的な積極性に任されていた選手のクセ検出と解明は、AI時代を迎え組織的なものになり、球団やグループを挙げて敵チームの優秀な選手のあら探し合戦になっていくと予想できる。もうすでに始まっているのかもしれないけれども、動画などをミリ単位で比較し選手のクセを科学的に探していく――。そこにいくと、親会社がIT企業である福岡ソフトバンクホークスや東北楽天ゴールデンイーグルス、横浜DeNAベイスターズなどには一日の長がありそうだ。

 もちろん、クセを逆手にとってトラップをかけるなどの逆襲策もあるのだろうが、力と力の勝負というよりは使用するAIの機能の優劣性がモノをいうようになるのだろう。

 さて、我々の日常生活に入り込んでいるAIといえば、アマゾンアレクサを搭載したスマートスピーカーのアマゾンエコーだ。2015年に市場投入されてから、累計販売1億台以上といわれている。キーボードを使わず声によるコマンドだけで「商品購入」のほか、「音楽」「天気・渋滞」「トリビア・歴史」「ニュース」「アラーム・タイマー」「雑談」などの情報収集をすることができる。

 アマゾンエコーを利用することで個人の細かな情報が蓄積され分析されると、個人の趣向や消費行動が明らかにされてしまうだろう。たとえば、最高気温が15度を切り、悲しい曲を聞いた時には、夕食のメニューとしてシューマイがレコメンドされる、といった具合だ。

 まあ、メニューくらいは許容できるにしても、そんな自分でも分からないクセ情報が1つの企業に持たれてしまうことは、やはりちょっと恐ろしい。