家具・インテリアを扱うECサイト「LOWYA(ロウヤ)」を展開するベガコーポレーション(福岡県)。実店舗での流通が常識の商材を、後発ながらEC領域のトップの一角に食い込むまでに拡大させた異端の企業だ。2023年4月からは距離を置いてきたリアル店舗の運営に乗り出す。その狙いや今後の展望について、同社代表取締役社長の浮城智和氏に聞いた。
コロナ特需で過去最高益を達成
先ごろ発表された2023年3月期第3四半期決算では、3Qとして過去最高の売上高を更新。ベガコーポレーションをけん引したのは家具ECのLOWYA事業だ。コロナ禍における、生活・就業環境の変化で、自宅スペースの充実需要が高まり、数字を伸ばした。
家具のEC分野は、リアル店舗を展開する大手がそのブランド力や資本力を武器に強さを誇っている。そうした中で同社はEC特化型の家具・インテリア業態として、独自のポジションを確立し、存在感を示している。
EC特化型も、磨き上げた情報発信力で存在感
最大の強みは、ニーズを徹底分析し、見やすく、魅力的に、わかりやすく伝える情報提供力だ。代表取締役社長の浮城氏が「サイトの作りこみは一日の長がある」が話すように、価格や品数では到底及ばない大手競合に対し、こだわりの商品選定とコーディネートなどをネット上で効果的に訴求することで消費者の購買欲を刺激しながら、ニーズを着実に掴み取っている。
サイトを訪問すれば、一目瞭然だ。<春らしさを感じるカフェ風アンティークインテリア><温もりと清潔感を感じられるノルディックテイストコーデ>などのテーマで、部屋のタイプ別にコーディネートされたインテリアが、さまざまな角度から撮影された豊富な画像とともに、丁寧に説明を添えて掲載されている。実店舗で店員とコミュニケーションをとりながら商品選びをする楽しさもあるが、サイトを通じ、自分にはない発想やセンスに刺激を受けながら一人でじっくりと選べる楽しさは、ダイレクトに購買欲を刺激する。
また、インスタライブで商品開発会議に視聴者を招待するというイベントも開催。ファンとともにカラー選定した3色のソファは、即完売するほどの人気を博した(現在は再入荷)。
19年目にして初の直営店舗運営に踏み出した2つの理由
2004年の創業から19年。「地道にやってきた」中で、着実にステップを踏みながらたどり着いた家具EC分野におけるトップの一角。そんな同社が2023年に入り、方向転換ともみえる動きを強めている。かたくなに距離を置いてきたリアル店舗との距離を急速に縮めているのだ。
理由は大きく2つある。ひとつは、コロナ禍での環境変化。もうひとつはさらなるEC市場でのポジション確立のためだ。
コロナ禍で同社が売上を伸ばした一方、そこに着眼した大手がEC部門を強化する動きが加速。しかもそれは、リアルとの融合を意識したOMOの構築と連動する。そうなれば、同社にとって、強みのネットによる情報発信力だけではどうしても手薄になる。だからこそ、リアル店舗を自ら運営することでこうした動きに対抗。より質の高い情報発信および集客につなげるのが狙いだ。
2つ目の理由はシンプルだ。あえてリアル店舗の領域に踏み込むことで、顧客をEC領域へ誘い、さらなるECユーザーを増大させるためだ。
大手リアル店舗の強みはその認知度。全国展開する店舗はそれだけで名が知られ、優位性がある。一方のEC専業は、売上が上位に肉薄していても、認知度が低い傾向にある。実際、同社の認知度は15%超で、8割を超える大手とは大きな差がある。そうしたジレンマを解消し、ブランド力を一層高めることで潜在顧客を一気にすくい上げる算段だ。
2022年からイオンとの連携で“露出”を加速
2022年9月、イオンスタイル幕張新都心で創業以来初となる卸売販売を開始したのを皮切りに、同年10月には2店舗目となるイオンスタイル北戸田を開業。着々とユーザーが実物に触れられる機会を増やしている。2023年2月10日からは、イオンスタイルおよびイオンの店舗で新生活に向けた家具の展示を、期間限定ながら順次開始している。
そしてこの4月、初の直営店となる「LOWYA九大伊都店」(福岡県福岡市西区)をお膝下、福岡にオープンする。場所は九州大学を中心とした周辺の各研究開発施設との産学連携により、新産業・新事業の創出を目指して作られる“新しい街”で、「蔦屋書店」、飲食店、賃貸マンションなどで構成される。同社創業以来の大きなチャレンジとなる拠点としては、十分な集客も見込め、申し分ない立地といえる。
常に意識している「流通の変革」
あえて距離を置いてきた19年越しの直営店舗開業も、あくまで「軸足はEC」と明言する浮城氏。環境が変化する中で、より立体的な商品選びを可能にすることで、ユーザー満足度を高めるための一施策に過ぎないといわんばかりだ。
「流通を変革する」。浮城氏が常に意識しているのは、この1点。だからこそ、そこに通じると判断できればこそ、状況を見極めたうえで躊躇なく決断する。
家具販売では、実店舗で現物を確認して購入するという常識を変えた。売上の8割以上を占める家具ECに続く柱として注力する越境EC事業「DOKODEMO」では、日本製品の流通を変革すべく、試行錯誤を続けている。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などの最新テクノロジーによる、物理的な壁の突破も念頭に、新たな可能性の追求に妥協はない。
起業家としての“成人”を前に、家具のEC化を推進した慎重さと大胆さを併せ持つ異端者が創業の地に構える初の直営店舗。そこでどんな化学反応が起こるのかーー。野望の実現へ向けた大きな転換点にもなりそうなだけに、福岡発の流通変革の行く末に大いに注目だ。