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今後日本でも実店舗が増える? Amazonと違う価値を実店舗が追求すべき理由

グローバルで見ると、米国ではステイホーム以前から実店舗数が減少しており、逆に中国の店舗数は増大しています。この違いの原因はどこにあるのでしょうか。日本でも現在実店舗は減少傾向にありますが、今後は中国と同じように大きな変化を伴って店舗数が増大してくる可能性があります。迫りくる変化に対応するためには、その理由をしっかり把握しておく必要があるでしょう。

gorodenkoff/iStock

オンラインへの投資が落ち着きつつある中国

 多くの経営者にお話を伺っていると、たとえばブランディング目的で1億円の投資をする際、WEB上のコンテンツをさらに充実させるより、店舗に投資して集客した方がよい結果を生む傾向にあるといいます。ファンとのエンゲージや記憶の価値、さらには購買率に至るまで圧倒的に店舗の方がよい数字になるのです。

 これはBtoBに置き換えるとわかりやすいのですが、昔は展示会やリアルでの商談は営業マンが喋れば喋るほどエンゲージも簡単に上げることができました。しかしオンライン展示会やウェビナーでは、そういった対面特有の熱量を伝えるのが難しいことから、どうしても限界があるためエンゲージは下がってしまいます。オンラインへの最低限の投資は必須としても、一定の投資が完了すれば結局店舗に投資する方がエンゲージも上がるようになるのです。

 同じように、中国は世界的に見てもデジタル化が非常に進み、成熟してきていることから、現在は店舗への投資が活発になっています。オンラインへの投資が完了した一方で店舗はまだまだ伸びしろも多く、エンゲージもさらに高めることができるため、米国と日本で店舗数が減少している一方、中国では増大するという逆転現象が起こっているのです。

オンライン上での時間の取り合いが激化

 オンラインだけでは顧客のエンゲージや単価の向上が難しく、「目的買い」した商品以外のものを購入してもらうことが非常に困難だということに多くの方が気付き始めています。とくにオンラインでの時間の取り合いは非常に激しく、たとえ5分や1分であっても時間を奪うのは非常に厳しい状態なのです。

 これは、たとえばメルマガ1通をしっかり読んでもらうために、どれだけコストをかける必要があるかと考えればよくおわかりいただけると思います。今までメルマガの担当者が経験則だけで20分かけてつくっていたものを、今では1週間かけてじっくりコンテンツをつくりこまなければ読んでさえくれないようになっているのです。

 今の実店舗は、世界中で商品の“置き場”のような運用になっていますが、このままいけばそれはやがてAmazonに置き換わってしまうため不必要になってしまいます。だからこそ、早期に投資効果の高い体験型やエンゲージ型の店舗に置き換える必要があるのです。

時間をどう消費させるかがポイントに

 少々厳しい言い方になりますが、現在、多くの実店舗では基本的に商品が所狭しと詰め込まれており、従業員は商品の棚卸しのためにいるだけとなっています。この状態は言ってしまえばAmazonとほとんど差がありません。この状態が続くと、「ただ物を消費するだけであればAmazonでよいのでは」という話になりますが、店舗に買物に行くという行動には、やはり別の目的があるはずです。

 たとえばショッピングモールに行く際も、「家族で行けばこういう会話があるかな」などと店舗側は想像することができます。だから店舗側も、「自店でどのように時間を消費させるか」という視点が今後重要なポイントになってくるでしょう。突き詰めていくと、物を置く必要はあまりなく、どういう時間を消費させるかということに目線が変わるはずなのです。

 究極的にはモノがなくても、「体験してオンラインで買っていただく」という、現在のモノの置き場というところからは生まれない発想も当たり前のように生まれてくるはずなのです。

 そもそも実店舗も、モノの置き場にしようとしてなっているわけではなかったはずです。これまでの小売業のKPIは、坪当たり売上の最大化に焦点が当たり、坪当たりに「商品=売上」が詰め込まれ、かつ労働コストを下げるためにスタッフを減らすことになり、今も自動レジやセルフレジの導入が進められています。もちろんそれも1つの方法ではありますが、それではエンゲージは上がらず、世界規模で展開するAmazonに勝つことはできなくなるでしょう。

 結局、「Amazonと正面から戦わない」ということが最も有効な対応策で、Amazonにはできない方向性を模索する必要があるのです。これはAmazonに商品を流さないから関係ないという話ではありません。メーカーであればAmazonに商品を流していなくても、ほかの似た会社がAmazonで似た商品を展開することになるため、やはり同じ状況になります。だからこそ、すべての小売業がAmazonとは違う価値に向かって転換する必要があるのです。

 

プロフィール

望月智之(もちづき・ともゆき)

1977年生まれ。株式会社いつも 取締役副社長。東証1 部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつもを共同創業。同社はD2C・ECコンサルティング会社として、数多くのメーカー企業にデジタルマーケティング支援を提供している。自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの専門家として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、デジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。
ニッポン放送でナビゲーターをつとめる「望月智之 イノベーターズ・クロス」他、「J-WAVE」「東洋経済オンライン」等メディアへの出演・寄稿やセミナー登壇など多数。