少子高齢化や人口減少など、日本の小売業は年々厳しくなると見込まれている。モノがあふれ、消費者の嗜好が多様化するなか、いかに消費者のニーズを汲み取って、ヒット商品や繁盛店を生み出していくか。
この「本多塾」では、変化対応力と価値創造力を養成し、厳しい競争環境でも生き残るためのヒントを提供していく考えだ。本多コンサルティング代表取締役社長の本多利範氏を塾長に、ライフコーポレーション専務取締役執行役員の並木昭利氏に迎え、8月1日に第1回「本多塾」が開催された。
講演1 小売業を取り巻く環境変化と小商圏での戦い方
株式会社 本多コンサルティング
代表取締役社長 本多 利範氏
中食の強みとコンビニの課題
今回は1回目ということで、小売業を取り巻く環境変化についての認識を共有し、今後、本多塾がめざす商品開発や店舗展開の方向性を示していきたい。
少子高齢化や有職主婦の増加などを背景に、中食産業が成長を続けている。
中食の強みは①「チェーンのオリジナル性をアピールしやすい」、②「客層、時間帯、曜日別の利用目的、商圏等が仮説検証で見える」、③「発注レベルの向上により競合対策ができる」、④「併買率が高く客単価アップにつながる(他カテゴリーを牽引)」、⑤「季節感を演出できる」、⑥「購買頻度が高く、目的買いとなり来店頻度向上を促す」、⑦「利益率が高く店舗の利益を向上させる」、⑧「時短・個食化に対応できる」といった点が挙げられる。チェーンの特徴を出しやすく、流通業最大の武器ともいえる。
これまで週に約80アイテム、1年で約3800の商品を改廃し、売場の鮮度アップに努めてきたコンビニだが、近年は食品スーパーをはじめ、デリカ専門店、コーヒーショップ、ベーカリー、ドラッグストア(DgS)といった他業態がさまざまな商品を出してきたことで、コンビニの商品が没個性化し、業態として地盤沈下が始まっている。
中国でも同じようなことが起こっている。GDPは2017年以降横ばいとなり、物価も上昇したことで物価指数も横ばいだ。GMSなどの大型店は苦戦し、EC最大手のアリババも300坪型の小型店や朝食需要を取り込む新業態のテストをスタートさせている。中国でも都市型小型店や小商圏型のビジネスが今後増えていくだろう。
現在の流通業は商品も人手も色々なところで問題を抱えている。今後、少子化・高齢化が進み、店舗間競争が厳しくなると、足元商圏でお客の支持を獲得できなければ、生き残るのは難しい。小商圏型のビジネスを成功させるには、事業を再定義し、利益の持続的成長や生産効率の向上を改めて考える必要がある。
現在、都市型小型店の代表であるコンビニ、DgS、小型スーパーの1店舗あたりの商圏人口は、コンビニが1700~1900人に対して、DgSが1500人前後、小型スーパーが1500~2200人程度と、コンビニとそれほど差がない。
このように、同じ小商圏で戦う他業態が増えた以上、コンビニも食を中心にインフラ、品揃え、店舗、価格、売場の改革が必要となる。
売れる商品開発には3つの手法がある
コンビニの販売総額11兆7000億円の内訳をみると、ファーストフードと日配品で4兆4000億円、加工食品3兆1600億円、非食品3兆5000億円となっている。魅力のある品揃えのポイントとして挙げられるのが「3階建てマーケティング」だ。
3階は「専門店を超えるおいしさのある商品」をテーマとし、少しだけ特別な自分へのご褒美としてのプチ贅沢な本格品、ハレの日対応をめざす。
2階は「この店オリジナルで選び甲斐のあるおいしさのある商品」をテーマとし、バラエティさや旬の味が楽しめることや、見た目も楽しく手に取る喜びを感じられるような商品開発が目標だ。
1階は「毎日食べたい定番のおいしさのある商品」がテーマ。お客様の来店目的となる差別化されたおいしさ、いつ食べても飽きないおいしさが着地点となる。
小商圏では社会性や地域性、生活密着にも目を向ける必要がある。実際に、北海道のセイコーマートは小商圏対応で成功した勝ち組のコンビニであり、2019年度「JCSI(日本版顧客満足度指数)」コンビニ部門のすべての項目で1位となっている。
小売業を取り巻く環境は少子高齢化や人口格差、温暖化などに加え、消費税増税や東京オリンピック後の景気後退といったさまざまな課題を抱えている。2020年代の顧客変化や競争環境の変化に対応するためにはルールチェンジが必要であり、魅力ある商品の開発、つまり「商品の売れる化」が必須となる。
売れる商品開発には、①「問題解決型」、②「組み合わせ型」、③「水平思考型」の3種がある。
① 「問題解決型」は現在の商品、製法をすべて否定することから始め、お客様の「負」の部分を解消する開発方法。具を増やすなど、既存商品の問題解決が新しい商品になる。
② 「組み合わせ型」は、既存の商品を組み合わせて今までにない新しい商品を作る方法。市場にない商品や製法を取り入れることがポイントとなる。
③ 「水平思考型」は既存の理論、枠にとらわれず新しい商品を作る方法。発想の転換や切り口を変えることが求められる。
本多塾2回目以降において、「商品の売れる化」について具体的に解説していきたい。
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ライフがめざす日本一のスーパーマーケット
講演2 ライフがめざす日本一のスーパーマーケット
株式会社 ライフコーポレーション 取締役専務執行役員
並木 利昭 氏
足元半径1㎞のシェア率アップねらう
食品スーパー「ライフ」を運営する当社は、270店舗を展開する全国有数の食品スーパーチェーンに成長した。1910年に創業した当社の2019年2月期の営業収益は6986億円、経常利益128億円と好調に推移している。
当社の基本戦略は「足元半径1㎞のシェア率アップ」。地域ごとのニーズ把握と迅速な対応により、足元商圏のシェアを10%から11%以上へ伸ばすことを目標としている。
第6次中期経営計画(2018年度~2021年度)では、「ライフらしさ」を実現するためのアクションとして「お店が主役」を掲げ、人、店、商品への投資と、ネットスーパー、カード、インフラに関する戦略を策定している(図表①)。
まず、「お店が主役」とするため、本部のスーパーバイザーを店舗に回すなど、100名規模の大胆な配置転換を実施した。店舗に権限委譲を行い、本社指示を削減した。また「お客様座談会」の実施や、店長の意思で有効活用できる店長裁量費の活用といった取り組みも行っている。
「人への投資」では既存店のパートナー採用強化、処遇改善、新店人員確保のため、60億円を投資。人財育成の一環として経営塾(次期経営幹部の人材育成)、店長塾、副店長塾、その他研修を実施することで一人ひとりの能力を高め、強靭な組織を作り上げる。また、女性活躍推進のため、時短勤務者でも意欲・能力次第で管理職として抜擢している(図表②)。
外国人技能実習生の採用にも力を入れ、現在はベトナム、タイ、ミャンマーから343名がプロセスセンターなどで活躍している。
店舗や商品、インフラも強化
「店への投資」では2019年2月期には約155億円を投資し、10店舗を新規出店、12店舗を改装した。近年力を入れているのが超都心型店舗へのチャレンジだ。「ムスブ田町店」は、JR田町駅直結、高層オフィスビル1階という立地への挑戦だったが、オープン2カ月目で黒字化を達成した。ライフらしさを具現化した新旗艦店「桜新町店」も好調に推移している。また、「神戸駅前店」や「なんば店」など、ニーズの変化に対応した既存店活性化にも挑戦。19年4月には新業態『Miniel』の展開を開始している。
「商品への投資」では、PB開発を強化。現在、5ブランドを展開するが、中でも「ライフプレミアム」「ライフナチュラル」は前年比2桁増で伸長している(図表③)。総菜部門でも「純和赤鶏むね唐揚げ」やPB「贅沢なあご入りおだし」を使用した「肉じゃが」など、看板商品の育成や商品力強化による圧倒的な差別化を実現する。
「ネットスーパー・カード戦略」については、セイノーホールディングスとの業務提携により配送力を強化。また、アマゾンのプライム会員向けサービス「Prime Now(プライムナウ)」 にも出店する予定(註:9月12日より東京都内7区にてサービス提供開始)で、21年度までにネットスーパー売上100億円をめざす。
「カード戦略」では自社型電子マネー「LaCuCa」は約360万人、自社クレジットカード「LCカード」は約33万人と順調に利用者数を伸ばしており、20年に「LaCuCa」460万人、「LCカード」50万人を目標としている。また7月より「PayPay」「LINE Pay」「メルペイ」を試験導入、お客様の利便性向上に努めていく。
「インフラ戦略」では18年11月に大阪平林総合物流センターを稼働。首都圏は川崎総合物流センターを17年6月に稼働し、首都圏200店舗体制を構築済みであり、さらなる飛躍に向けて400店舗体制までの基盤を整備していく。
浸透・発展と継続活動としてファンイベント「ライフフェスタ」を開催。またライフらしさを具現化した好事例を全店の代表パートナー約500名の前で発表する「スマイルワークショップ」を通じ、全店舗のレベルアップを図っていく方針だ。