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【レポート】大競争時代を勝ち抜く新しいスーパーマーケット創造2019

チャンス獲得のカギは大胆な発想とチャレンジ!

食品スーパー(SM)業界にとって、生き残りをかけた改革が急務となっている。少子高齢化や人口減少により消費支出は長期的に減少局面を辿ることは確実。当然、飽和化、画一化しているSM食品の新業態開発やさらなるコストダウンによる効率経営は避けて通れない。ダイヤモンド・リテイルメディアは、SMの生き残りをテーマにしたセミナー「大競争時代を勝ち抜く新しいスーパーマーケット創造2019」を開催した。マルエツ代表取締役会長の上田真氏は店舗運営改革について、阪急オアシス取締役執行役員の西本和也氏は新業態へのチャレンジについて講演した。

主催株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア

協賛アサヒビール株式会社/株式会社オカムラ/加藤産業株式会社/シャープマーケティングジャパン株式会社/東芝テック株式会社/フジッコ株式会社(五十音順)


【講演①】

株式会社マルエツ 代表取締役会長 上田 真氏
「マルエツが描く新しいスーパーマーケットのかたち」
市場環境の変化を小商圏でのシェアアップで乗り切る

賃料、人件費ともに高い首都圏および近郊地域に出店

 マルエツは首都圏を中心に「マルエツ」219店舗、それに加えて都市型スーパーとして「マルエツ プチ」71店舗、高品質スーパーの「リンコス」5店舗の合計295店舗(2019年2月現在)展開している。店舗の約半数は、賃料と人件費が日本一高い東京に出店しているが、反面、最も肥沃な市場に集中出店しているという見方もできる。全体では1日当たり約65万人の来客があり、月に1度以上来店するユニークユーザーは月間で300万人いる。

 2015年3月に茨城県を地盤とするカスミ、イオングループで関東に展開しているマックスバリュ関東とともに共同持株会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)を設立した。店舗数は516店舗となり、関東地区に売上高約6900億のグループが誕生した。それぞれ企業文化が異なることもあり、15年から16年にかけては「融和」を目的に商品や物流などプロジェクトチームを設けて課題の抽出を図りシナジー創出を検討してきた。17年から18年にかけては、持株会社の機能を再定義し、商品やITなどに関して統合を図りつつあり、新フォーマットや新たなサプライチェーンマネジメントなどの開発に乗り出した。また共同のプライベートブランド開発をはじめ商品改革、コスト構造改革にも着手している。

今年10月の消費増税で現場の混乱やデフレ加速の懸念も

 SMを取り巻く市場環境は厳しさを増している。人口減少や少子高齢化は客数減少や消費縮小に直結し、超高齢化社会に向かうことで商圏の極小化や買物利便性への対応が迫られ、胃袋が小さくなることと手間を省くことにより調理済食品の需要が増えるだろう。一方で、インバウンド需要は大きくはないものの確実にある。今後は世界的な資源不足で仕入れ価格の上昇はじめコスト増の要因が多くなる。また労働力不足によるパート賃金上昇や外国人活用はすでに進んでおり、さらに業務効率化のためにAIやロボットの活用も必要となるだろう。マルエツの場合、パートの時給は今年1月に1000円を超え、都心の新店では1300円でも集まらないなど、人件費高騰と人手不足が深刻化している。加えて今年10月の消費増税も影響が大きいだろう。とくに軽減税率の導入により現場での混乱は確実で、キャッシュレスによるポイント還元など不公平な施策で余計に混乱は増すだろう。

 14年4月に消費税が5%から8%に引き上げられたが、このときは景気動向指数や株価など景気を示す数値が全体的によかった。しかも外税方式となり本体価格表示に変わったことで心理的な値下げ効果もあった。10月の増税で値上がり感を防ぐために本体価格表示を維持してほしい。またプレミアム商品券やキャッシュレスポイント還元は、価格競争激化の契機となりかねず、時限立法終了後、対象企業の売上落ち込みも懸念され、デフレを招く恐れがある。

マルエツ プチで女性店長が大活躍

 市場の変化やコンビニエンスストア、ドラッグストアの台頭に対して、都市型店舗としてマルエツ プチは2009年6月に1号店を開店した。当社では大型店は500坪以上、標準店は300~500坪、都市型のマルエツ プチは100坪程度の売場面積としている。標準店の小型版を想定すると利益は出ない。コンビニとも異なり、あくまでも生鮮食品が買えることやSKUを増やすこと、さらに惣菜、弁当を店舗で調理して提供することを重視している。

 コンビニとの対抗上、品揃えを豊富にして、小型店ならではの「仕組み」や「システム」を工夫することで低コストでの運営を可能にした。当初は失敗が続いたものの、13年頃から黒字化が図れるようになった。

 もうひとつマルエツ プチの強みとなったのが、女性店長の活躍だ。しかもパート出身で優秀な人を社員に登用し店長にした。すでに10人の女性店長がいるが、売上伸長や荒利率改善など店舗の成績も非常に好調だ。女性店長の場合、本部施策を実直に実現することや、社員やパートとのコミュニケーション能力が高い、接客レベルが高いことなどが売上拡大に貢献している。

 もちろん本部組織のフォローも綿密に行ったが、何よりパート時代の経験や主婦という目線でお客様視点や生活者視点を持っていること、他のパート従業員の悩みを理解できることなどから店舗がうまく回っているのだと考えている。

図表1●「マルエツの強みと課題」マルエツ プチの年度別の売上高伸長率

70歳以上の退職社員を派遣登録することで、人手不足に対応

 マルエツは首都圏を中心に店舗展開しており、生き残りのカギとなるのは小商圏でのシェアアップしかない。TカードをベースにID-POSを備えているので、顧客の属性や購買行動などのデータは持っている。それを分析し、精緻に事業に生かしていくことが課題だ。

 マルエツは本部バイイングだけでなく、鮮度向上や他社との差別化のために8つの青果市場を活用したローカルバイイングに力を入れてきた。バイヤーもそちらのほうが多い。また物流・加工センターも八潮と横浜に常温センター、三郷と川崎に低温とPCの複合センターを設置し、なかでも三郷のセンターにはマルエツ プチ専用の仕分け場を設置している。ここでも人手不足は深刻で、加工センターの半分は外国人の労働力に頼っているのが実情だ。

 マルエツは労働者派遣を行う子会社を保有している。人手不足で派遣者に頼ることも多いが、外部の派遣業者ではなくグループ企業を活用することでキャッシュアウトを抑制できる。マルエツの従業員としては70歳が上限だが、退職後にこの会社に派遣登録することで、希望すれば70歳以上でも働くことができる。実際に70歳以上の登録者は700人弱いる。これら人材は、経験豊富なので複数店舗に応援派遣することができる。人手不足対策として有効な手だてととらえている。

図表2●「マルエツの目指す方向性」2019年度方針・小商圏シェア拡大に向けて

 

【講演②】

株式会社阪急オアシス 取締役執行役員 西本和也氏
「阪急オアシスの商品政策」
初年度計画を上回るJR大阪駅の「キチマ」

グループのスーパー統合を機に「高品質食品専門館」打ち出す

 阪急オアシスは、阪急阪神グループの傘下にあるエイチ・ツー・オー リテイリングの事業会社の一社であるエイチ・ツー・オー食品グループの中核となっている。エイチ・ツー・オー食品グループにはそのほかにイズミヤ、阪急デリカアイ、阪急ベーカリー、阪急フーズなどがある。店舗は大阪、兵庫、京都、滋賀の各府県に77店舗あり、売上高は17年度に約1200億円の規模である。

 阪急オアシスは2008年に阪急ニッショーストア、阪急ファミリーストア、阪急フレッシュエールを吸収合併しているが、競争が激しくなるなかで生き残りのために2009年7月に打ち出したのが「高品質食品専門館」というコンセプトだ。その3つのキーワードは「専門性=価値訴求商品の磨き上げ」「ライブ感=対面販売などによるお客様とのコミュニケーションの場」「情報発信=POPやキッチンステージなどを通じた価値訴求商品のお客様への伝達」である。

 普通のSMではなく、アッパーミドルをメーンターゲットに、ベースとなる商品を絞ったかたちでクオリティを高めていく。もちろんアッパーミドルだけではなく、幅広い客層にわれわれが選んだ高品質の商品価値をアピールしていく。

デリカやベーカリーなど「おかず比率」を2020年には30%に

 今、SM業界は同業同士の競合だけでなく、食品も扱い始めたドラッグストアや百円ショップ、コンビニエンスストア、ネットスーパーなど本来SMの市場での陣取り合戦が激しくなっている。しかも市場は少子高齢化、人口減少で縮小する方向にある。事業拡大を継続させるためには、従来の業態論から脱し独自の立ち位置を確立すること、新たな市場を創出する工夫と努力が不可欠になっている。そのため食品の領域ならば、たとえば外食の領域からシェアを取ることも念頭に入れる必要がある。

 昔からSMは「冷蔵庫の代わり」「ダイニングキッチンの代わり」「リビングダイニングの代わり」などと変化してきた。食材を提供する立場に加えて、食事を提供する機能も担うようになってきた。実際、店舗を見ても農産や水産、畜産物よりも、デリカやベーカリーなどの売上が伸びている。デリカやベーカリーのシェアをわれわれは「おかず比率」と呼ぶが、現状の20%程度から2020年には30%に高まるとみている。

図表3●SM業界の規模縮小の構図

海外のマルシェ=市場を参考に賑わいの創出ねらう

 2009年7月に「高品質食品専門館」の1号店として「千里中央店」をオープンし、15年11月に「箕面船場店」を展開。さらに17年7月にはNSC型のオアシスタウン「伊丹鴻池店」、都市型スーパーなど新業態を展開してきた。そして18年4月1日にJR大阪駅のルクア大阪に開設したのが「キッチン&マーケット」(キチマ)である。

 もともと「キチマ」は、21年5月に三宮の神戸阪急ビル内に1号店をオープンすることを決めていた。そこにJR西日本SC開発から話が持ち込まれ、急遽、梅田の大阪駅ビルで先行して展開することになった。大阪駅は1日の乗降客数が約230万人と関西一のターミナル駅だ。サラリーマンもいれば、旅行客もいるし、阪急や阪神、大丸など百貨店もひしめいていて大阪の主婦も買物に訪れる。そして、外国人観光客も多い。

 新たな店舗づくりを考えるなか、着目したのが物販と飲食の融合が世界の潮流となっていることだ。リスボンのタイムアウトマーケットやロンドンのバラマーケット、ニューヨークのグランドセントラルマーケット、台北の上引水産などを見学し、大阪駅というターミナルで物販と飲食の融合を図った業態を展開することを決めた。コンセプトは「欧風テイストの市場感と賑わいの両立」であり、市場ならではの対面販売や広場で買ったものを飲食できるような、市場の賑わいを取り入れたデザインとした。

 「買う!食べる!集まる!が、ここにある」をキャッチフレーズに、輸入食材や飲料、ピッツァや生パスタを提供する「メルカ」(①)、スイーツとカフェのある「スイーツアットホーム」(②)、青果や鮮魚、精肉に加えてミートレストランやBBQを設けた「フレッシュガーデン」(③)、デリカを扱う「デリステーション」(④)、日本の厳選した食品や飲料を扱う「グルメコーナー」(⑤)、ベーカリーの「ラ・プチ」(⑥)に加えて、中心部には買ったものを持ってきて自由に食べられる「ミート&イートスクエア」(⑦)を設置した。

図表4●キッチン&マーケットの店内レイアウト

新設店にも「キチマ」併設など展開の拡大を継続

 新業態の「キチマ」だけに、初年度に成功するかどうか正直不安だった。「物販が成功のカギ」と考え、そのための工夫を盛り込んだことにより、初年度は20億円の予算に対して、それを超える売上を達成しそうだ。

 当初、梅田界隈はオフィスが多いのに飲食店が少なく“昼食難民”が「キチマ」に集中する、と見込んでいた。実際には午前中から買物客が「ミート&イートスクエア」でおしゃべりしたり飲食したりしており、サラリーマンが押し掛ける余地がなかったようだ。その代わり、夕方以降はサラリーマンやOLなどのグループがワインを買って飲み、総菜を買って食事することでにぎわっている。買った肉を焼いてお酒も持ち込めるBBQコーナーも設けたが、そこも盛況だ。

 ちなみにワインは1日300本、月間1万本程度は売れる。1000~2000円のワインがよく売れる。なかには数万円のものも置いてあり、1人で60万円分購入したのがこれまでの記録だ。当初300席を用意した「ミート&イートスクエア」は、順調に稼働というよりむしろ席数が足りずに、現在では400席まで増やしている。

 「キチマ」が好評なことで今年3月に開店した新町店の一部にも「CAFÉ&BAR」として飲食スペースを設けた。ワイン用にグラスの貸し出しなども行っている。さらに今年5月15日にはJR福島駅前に「キチマ」スタイルの一部を取り入れた店舗をオープンする。8月にはNSC型のオアシスタウン「キセラ川西」を出店。そして21年5月には先ほど触れた神戸・三宮にも予定どおり「キチマ」を出店する。JR大阪駅の「キチマ」も変わり続けなければならない。そのため10月には一部デザインなどの刷新を検討しているところだ。