SAPジャパン株式会社
代表取締役社長
福田 譲 氏
無印良品『お客様と時間を共有する』 CRM & Digital Marketing戦略
『MUJI DIGITAL Marketingの展望』
株式会社良品計画
WEB事業部長
奥谷 孝司 氏
「個」を理解し、「個」にアプローチする、
SAPのオムニチャネル・エンゲージメント・ソリューション
SAPジャパン株式会社
CECソリューション事業本部 本部長
堀 裕 氏
SAPジャパン株式会社
ソリューション&イノベーション統括本部 アナリティクスソリューション本部
シニアソリューションプリンシパル
岩渕 聖 氏
現場が主導するデジタル化戦略の成功の軌跡
〜すかいらーくはどのように業績を改善してきたか〜
株式会社すかいらーく
マーケティング本部 インサイト戦略グループ ディレクター
神谷 勇樹 氏
SAPジャパン株式会社
インダストリー・バリューエンジニアリング コンシューマークラスター
小売/商社・卸売プリンシパル
土屋 貴広 氏
協賛 SAPジャパン株式会社
<開会の挨拶>
SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 福田 譲 氏
顧客エンゲージメントの最適化でビジネス拡大
難しさもあるが継続したチャレンジが不可欠
優れた顧客体験を感じているのは、わずか8%の消費者
SAPジャパン株式会社
代表取締役社長
福田 譲 氏
今、国内ではインターネットユーザーの7割がオンラインで買い物をする時代。そのためEC市場は中期的に1.5倍から2倍の成長が予想され、海外から商品を購入するクロスボーダーショッパーも3倍に拡大すると言われている。日本企業にとっても、海外で流通チャネルを構築しなくても海外の顧客に向けて商品やサービスを提供できる機会が増えている。
さらに企業の8割は、ネット上できちんとした顧客体験を提供できていると考えている。しかし実際に消費者視点では、その10分の1、わずか8%程度の顧客が「優れたカスタマー・エクスペリエンスを体験できている」とするにとどまっている。オムニチャネルやカスタマー・エクスペリエンスをテーマにしたカンファレンスも今回が3年目になるが、相変わらず関心の高いということは、さらに改善する余地があるということを感じているケースが多いということだと考えている。
NESPRESSOは究極のコーヒー体験提供で14年連続2ケタ成長
SAPはもともと基幹業務システムが中心だったが、現在では7割近くがデジタルマーケティングやオムニチャネル、ビッグデータなどの関連システムが占めている。そうした事例の中には、例えばNBAのように、過去60年分のスタッツ情報(選手のプレー内容に関する統計数値)を公開することでファン層が広がり、新規アクセスが2倍に増えサイトの滞留時間も2倍になったことで放映権料が3倍に拡大した事例は、「ファン・エンゲージメント」と言う観点でクラブスポーツから小売業が学ぶべき事が多い。(今年の全米小売業協会(NRF)主催BIG SHOW 2015の「SAPキーノートセットション」でも好評だったトピックとしても記憶に新しい)。昨年のカンファレンスでも講演があったが、NESPRESSOは究極のコーヒー体験を提供するためにオムニチャネル化を図り、競合製品と比べて割高であるにも関わらず14年連続で2ケタ成長を続けているケースだ。
またLEGOのケースではファンが作品をソーシャルサイトで公開し、1万票以上の「イイネ」を獲得すれば商品化され、しかも構成するブロックの情報を工場に自動的に直送することで製品化を時間短縮。超効率的経営によりROEはトヨタの4倍強というケース。これは、「ファン・エンゲージメント」の結果、LEGO自体はほとんど手を下さずに、ファンの作品は自動的に製品化され収益をもたらすようになる非常に興味深いケースもある。
顧客をファン化する手法を確立することは難しさもある。しかしビジネスを拡大するためにチャレンジを続けることも重要なテーマとなる。
<事例講演>
株式会社良品計画 WEB事業部長 奥谷 孝司 氏
無印良品『お客様と時間を共有する』 CRM & Digital Marketing戦略
『MUJI DIGITAL Marketingの展望』
顧客との関係を深め「顧客時間」を把握しマーケティング効果を向上
ユニークなマーケティング手法で注目される無印良品。ネットストアを展開する中で、顧客の行動を把握したことで新たなデジタル戦略に方向転換している。「顧客時間」を共有することで、より効果的なマーケティング施策の実行につながった。そしてスタートしたのが「MUJI PASSPORT」だ。従来のCRMアプリケーションを統合するとともに、さらに顧客との関係性を深め、顧客の行動を把握するのが狙い。そうした土台ができたことで、次のステップとして分析の自動化、高速化によるマーケティング施策効果の向上を狙う。
会員の6割はネットで買い物をしないという事実
株式会社良品計画
WEB事業部長
奥谷 孝司 氏
無印良品がネットストアを開設したのが2000年。当初の売上規模は微々たるものだったが、拡大を続け2006年には有楽町店を抜き最大店舗となり、2011年以降はさらに3年連続で2ケタ成長を続けている。しかし売上規模だけを見れば、ネットストアは全体の7%を占めているに過ぎない。
WEB事業の役割は、無印良品のネットサイトでの購買拡大は当たり前として、そのほかに重要なミッションとして店舗送客機能とくらしの良品研究所やソーシャルネットをベースにした顧客とのコミュニケーション拡大がある。しかし会員動向を調べると、過去2年間で最低1回はネットストアを利用した人は4割弱。そのうち半年以内に購買している会員は2割以下。6割以上はネットを見たりはするけれど、買い物をしないという実態がわかった。つまりオンラインストアが売上を上げても会社にも、顧客にも貢献度合いは少ない。顧客の時間にソーシャルメディア、CRMツールを使って積極的に関与することで顧客と無印良品の関係強化を図り満足度を向上させる方向に転換を図った。もはやオンラインストアの売上拡大には固執しないと決めた。
顧客連携を深め店舗送客や顧客満足度向上にシフト
「顧客時間」とは、購入前の検討から購入、さらに購入後の使用・消費までを指す。従来は購買時点だけに注目していたが、それだけでは答えは出ない。「顧客時間」全体を攻めることで売上だけでなく顧客との絆を作ることに注力を始めている。しかしネットストアの利用は約4割にとどまる。それならば店舗送客を強化するために、ネットや店舗、個人の時間の中でブランド体験を訴求・共有することが顧客満足度を高めることになると判断した。そこでWEB事業部の役割も店舗送客と顧客とのコミュニケーションを通じた顧客との関係改善にシフトし、結果として売上拡大につながる方向に転換した。
従来のネットストア注力がMUJI(DIGITAL)MARKETING1.0とするならば、方向転換は2.0への進化と言えるだろう。
ソーシャルメディアを活用し自社メディアに顧客を誘導
以前から顧客はネットで情報を得て店舗で購入している。つまりネットと店舗を行き来しており、その点ではO2Oは古くて新しいものだ。しかしこれからの店舗送客で重要なことは、ネットの技術を活用してKPIを検証して高速でPDCAを回していくこと。これまでにソーシャルメディアで情報発信し店舗送客した事例では、有楽町店の10周年キャンペーンでコメントを寄せればクーポンをもらえる仕組みや、11年から開始したネットで注文し店頭で受け取るサービスなどがある。
さらにMUJI(DIGITAL)MARKETING3.0の段階では、顧客とのコミュニケーション改善に取り組んだ。従来からWEBを通じてコミュニケーションする場はあったが、2009年からソーシャルメディアの活用を順次始めた。そして2年ほど前から、ソーシャルメディアを活用して自社メディアに呼び込む作戦も打ち出した。
MUJI to GOキャンペーンのケースもユニーク。前回はハードキャリー販売に成果があったが2014年の場合は新商品がなかった。そこで「無印良品の人をダメにするソファ」で売れたソファの経験を生かし、MUJI to Sleepと名付けてネッククッションをピックアップ。薪のはぜる音などサウンドアプリを配信、さらにYouTubeで寝ている人の動画を配信、それも13カ国語対応で展開した。これにより昨年対比で大幅な販売アップにつながった。
こうした事例は、店舗での買い物の楽しみや非日常性、新たな発見のサポートをソーシャルメディアとデジタルデバイスで行ったことの効果だと考えている。
MUJI PASSPORTで顧客との関係性を維持・発展
「情報過多」「モノ余り」「不況」の中で生き残るには、「最高」「最安」「最愛」の3つしかない。いかにして「伝えるか」ではなく、どうすれば「受け取ってもらえるか」だ。B2Cのメッセージは届きにくい。我々は様々なツールで店舗送客を図ってきたが成功事例も含めて局所的、部分的という反省もある。マーケティングによって引き上げた「ブランド関与への振れ幅」を安定させるためには、作り上げた関係性を維持する土台が必要になる。
そして2013年5月にスタートしたのが「MUJI PASSPORT」。買物や店舗でのチェックインでマイルが貯まるほか、商品検索を容易にし在庫のある店舗を表示できるようにした。
目的は3つあり、まずネット・リアルの区別なくファンとのコミュニケーションを図る、そして売上増につながる持続的な来店客数の増加、さらにマーケティング施策効果の可視化だ。従来からのクレジットカード、ネットメンバー、ソーシャルメディアなどのCRMをアプリで統合し「顧客時間」の全体的な把握を狙っている。
すでに347万人がダウンロードしており、それも良品週間の際に急増した。中心となっているのは30代から40代の女性。14年上期の前年同期比実績ではMUJI PASSPORT提示率が5ポイントアップ、客単価は1.7倍、購買回数の上昇といった効果が出ている。実際のメリットとして、若年層に直接リーチできる媒体であることや、顧客の状況に応じて提示施策を変えられる媒体、休眠層にも直接リーチできること、媒体費用自体は0円であることなど。デメリットはポイント付与が必要なことくらいで、導入効果は圧倒的だ。
無印良品では今後、ビッグデータの分析力向上や顧客の行動データの把握をさらに強化していく。経験やカンに基づくものではなく、データ分析から得られたマーケティング施策こそが重要であり、顧客接点のデータを統合し関係性を強化するためにDIGITAL Marketing Platformを構築し、分析を自動化、高速化し予測精度の向上を図っていくつもりだ。それが3.0+αへの発展だと考えている。
<講 演>
SAPジャパン株式会社 CECソリューション事業本部 本部長 堀 裕 氏
SAPジャパン株式会社 ソリューション&イノベーション統括本部 アナリティクスソリューション本部
シニアソリューションプリンシパル 岩渕 聖 氏
「個」を理解し、「個」にアプローチする、
SAPのオムニチャネル・エンゲージメント・ソリューション
データ分析でパーソナライズされた顧客体験を提供
顧客それぞれに対応したターゲットマーケティングで成果を挙げるためには、膨大なデータを分析し、しかもPDCAを高速で回して修正、実行を繰り返さなければならない。そもそもデータ分析に時間をかけていては、投入すべきタイミングに投入できない。変化が速く、複雑化している現代では、そうしたチャンスロスは無視できないレベルだ。その対策として分析や検証を同一基盤で行えるツールが必要となる。SAPはそうした需要に対応したソリューションをワールドワイドで展開している。
オムニチャネル・コマースからオムニチャネル・エンゲージメントへ
SAPジャパン株式会社
CECソリューション事業本部 本部長
堀 裕 氏
旧ハイブリスジャパンがSAPに統合され、CECソリューション事業本部として業務を継続している。CECというのはCustomer Engagement &Commerceの略であり、我々は「顧客が状況に合った、一貫性のある、関連性の高い体験の提供をチャネルやデバイスに関わらず、カスタマージャーニーのあるゆる局面において実現する」ソリューションの提供を行っている。
購買行動は生活行動の一環であり、顧客に応じて状況や背景も異なる。つまり顧客それぞれのジャーニーがあり、その多種多様な顧客に向き合うことが重要になる。
NESPRESSOのケースでは、ブランドを立ち上げる段階からシステム化に参加し、現地対応などを組み込み、すべてのチャネルで展開できる仕組みを構築したことで、ビジネス面で大きな成果を挙げただけでなく、品質の劇的な向上や秀逸なサービス、柔軟な拡張性、一部では複雑なデリバリーオプションの提供などを実現している。
顧客の状況をリアルタイムで把握し購買につながる情報を発信
顧客にエンゲージできる仕組みを構築する段階で、まず既存のシステムインフラが最適化できているかが重要だ。多くの場合、後付けでシステムを拡張してきたためにデータのサイロ化に陥っているのではないだろうか。しかしオムニチャネル・エンゲージメントの実現にはデータ活用がポイントであり、データを統合しなければならない。そこで我々が提案するのがデータ・プラットフォームの構築だ。POSやモバイル、WEBなどのフロント部分とERPやWMS、CRMなどの業務システムの間にデータを統合するプラットフォームを構築する方法だ。
顧客は状況に応じて様々な情報を発信している。その状況を把握しリアルタイムに購買を促す情報を発信しなければならない。しかも無闇にDMを送りつけるのは逆効果だ。SAP hybris Marketing は、WEBサイトを訪問する顧客の状況を把握し、顧客体験を単一ポイントからコントロール。同時にインテリジェントに統合されたEメールと広告によりROIを最大化する。
従来の部門特化された仕組みが第一世代であり、CRMにより統合されたマーケティングが第二世代。オムニチャネル・エンゲージメントはすべてを融合した第三世代のプラットフォームとなる。
インメモリと機械学習がシンプル化するマーケティングデータ活用
SAPジャパン株式会社
ソリューション&イノベーション統括本部
アナリティクスソリューション本部
シニアソリューションプリンシパル
岩渕 聖 氏
SAPのオムニチャネル化に向けた提案は、4つの構成要素がある。まず、顧客デマンドベースでのオペレーションやインフォメーションフローの最適化、生産性改善など既存オペレーションの合理化を図る。さらに顧客情報に対してマーケティングオペレーションのデジタル化を図り大量かつ高速のPDCAを回す仕組み。さらにインタラクションや機械学習による分析の高度化・高速化などにより顧客を理解すること。そして購入前の段階から購入後に至るまで顧客体験を強化することの4つの要素がある。すでに海外でもマーケティングや営業領域で多くの導入企業があり、国内でも先進的な企業が導入を進めてきた。
これをテクノロジー面で支えているのが、SAP独自のインメモリDBのHANAである。従来は1日かけてバッチ処理していたデータを数秒で処理できるので、鮮度の高い情報提供が可能になる。例えば東京-大阪間が1秒で結ばれるとしたら、それだけで人の動きが変わる。同様に高速処理が可能になることで、大きな業務変革を起こすことが可能だ。これまで困難だった、マーケティングデータ分析のリアルタイム化などが容易に実現できる。
自動化により従来6週間を要した作業を数時間に短縮
リアルタイム化が可能になることで、過去データの分析だけでなく予測もひとつのプラットフォーム上で瞬時に行うことができるようになる。そのため仮に予測が間違っていても、すぐに是正することができる。
また、機械学習エンジンにより、従来は分析の専門家に依存していた業務から解放されるメリットもある。データマイニングを導入した企業でも、対象となる分析シナリオを全て実装できないため精度が高まらなかったり、専門家に依存するため属人化しモデルが発展しなかったり、このため時代の変化に乗り切れないという課題があった。
SAPは昨年、KXEN社を買収し、このデータ解析エンジンをInfiniteInsightとして提供している。データマイニングを自動化したことで、従来は約6週間を要した作業を自動化により数時間程度で完了でき、生産性向上に加え意思決定制度向上にも貢献できる。
すでに海外では500社以上、日本でも約50社が採用しており、今後も自動化された機械学習エンジンの活用は一般化していくだろう。高度な分析やマーケティング戦略を同一の基盤で行えるシンプルな仕組みを構築することが不可欠の要素である。
<事例講演>
株式会社すかいらーく マーケティング本部 インサイト戦略グループ
ディレクター 神谷 勇樹 氏
現場が主導するデジタル化戦略の成功の軌跡
〜すかいらーくはどのように業績を改善してきたか〜
データ分析で顧客に最適なタイミングで最適なオファーを届ける
競争が激しい外食産業。業態のバリエーションを増やすことやメニュー提案、クーポン配信など、顧客誘導のために各社が様々な戦略を展開している。大手のすかいらーくは、これまで広告宣伝を売上拡大の有効な手段として導入してきた。しかし、その一方で広告の費用対効果に課題があることも明らかになっていた。そこで同社では新たにアプリの配信とPOSから得られる情報をベースにしたデータ分析を進めることにした。そこから新たな取り組みとしてデータ分析の自動化を図り、顧客に対して最適なタイミングで最適なオファーを届ける仕組みの構築に取り組んでいる。
従来は売上拡大を広告宣伝費の増大で支えていた
株式会社すかいらーく
マーケティング本部
インサイト戦略グループディレクター
神谷 勇樹 氏
従来から競争の激しい外食産業の中で、すかいらーくは広告宣伝を、売上増を達成する重要な手段と位置付けてきていた。例えば2012年度3297億円の売上に対して2013年度は3325億円に28億円プラスになったが、この間に広告宣伝費は44億7300万円から61億3300万円へと17億円増大している。費用対効果からみれば広告費増大の収益性は低かったわけだ。
そこでデータ分析を強化することで費用対効果の向上に取り組んだ。その結果、2013年度上半期の売上高1618億円に対して2014年度上半期は1657億円に39億円のプラスになった一方で、広告宣伝費は25億5200万円から22億3700万円へと3億円の圧縮を図ることができた。
そこでどのように分析力の強化を図ったかということになる。従来、すかいらーくではPOSデータを基にVolume(量)を軸にブランド別のキャンペーンの成果を集計・分析していた。しかし顧客を対象にした統計解析などの領域まで行っていないため、キャンペーンの内容が顧客特性と相関していないためブランドによっては著しく効果が低いという問題があった。
POSデータから得られる情報を分析し深堀り
そこでサンクスで展開していたサンクスクジを、従来のデザートやサイドメニュー中心から付加価値の高いグリル商品を割り引くクーポンに転換した。その結果、キャンペーンの利益を4倍に高めることができた。
このケースでは、Volumeゾーンの集計ではPOSデータから商品の販売構成比を立地区分別に集計したことに加え、統計解析を取り入れてVariety(種類)の領域で顧客アンケートとPOSデータを紐付けテスト商品の評価を行った。さらに機会学習を使ってPOSデータから顧客別のメニュー方針をクラスタ分析により策定することも行った。
例えば平日1人で来店しランチを注文し30分程度滞在された男性客ならば、「ランチのサラリーマン」だと推測できる。また平日昼に3人で来店しランチとドリンクバーを注文し2時間滞在した女性客ならばランチとおしゃべりを楽しみに来た主婦グループということがわかる。つまりどのような顧客がどのような時に来店するか把握すれば、嗜好もある程度わかる。POSデータからわかるのは単純に販売数だけではない。
中華レストランのバーミヤンでは、こうした分析を行いメニューの方向性を変えたことで販売数が2倍に近くに上昇した。経験やカンに頼っていた頃に比べて、明確に分析の効果が出ている。
ガストではアプリ導入後、グル―プ全体を上回る業績アップを実現
そうしたデータに応じて各ニーズに向けた、メニューの開発にもつながる。失敗すれば分析で検証し軌道修正していくことで、より精度が高まることになる。
過去は広告を拡大することで、売上増につなげてきた。しかし、例えば自動車など高額商品、化粧品などのブランド商品と比較して利益が薄い外食産業では費用対効果は低いと考えるのが当然である。
そこでより効果の高い媒体を考えた時に、コストベースで活用できる自社媒体であり、なおかつ消費者それぞれに発信できる媒体しかない。そこでアプリを自社開発することを決断した。
まず投入したのはガストアプリである。来店客に向けてテーブルにアプリのダウンロード広告を設置しポイントやクーポンを配信する。さらにソーシャルメディアを連携させて、ポイント、クーポンのほかにフェア情報なども提供する。この仕組みを回していくことで、継続的な来店誘導を行っているわけだ。
従来の新聞の折り込みチラシなどは何万部も配布していた。一方、ダウンロード数は圧倒的に少ないのが現状である。しかし、クーポン利用者はチラシを見てくる顧客の数を上回り、しかもコストは数百万円かかるチラシに比べて数10分の1で済む。しかもガストアプリのリリース以降は、ガストの業績伸長率はグループ全体の伸長率を上回るようになった。もちろん採取できるデータから顧客のプロファイリングを図りプッシュ通知も積極的に行っている。
SAPのソリューションを活用し分析を自動化
費用対効果という点で、アプリ投入による効果は顕著に表れている。今後、我々が課題としているのはダウンロード数の拡大によるメディア化と最適なタイミングで最適なオファーを自動的に行う仕組みの開発・投入だ。すかいらーくグループの店舗の利用顧客は年間7000万から8000万人。スマホの普及率から推定すれば来店客の半分程度ダウンロードしてもらえれば最低でも2000万ダウンロードに達する計算になる。
さらに分析を加えることで最適なタイミングで最適なオファーを届けることができるようにしたい。例えばダイエット中で肉類を控えていれば、肉類とともに野菜も豊富なメニューの提案やランチが早かった人には、夕方に来店オファーを送るといった仕掛けだ。そのためにそれぞれの顧客がどのようなステージにいるかを把握する必要がある。しかし複雑なデータを人力で回すのは不可能でありITにより自動化するしか方法がない。現在、SAPのInfiniteInsightを導入し、専門的なノウハウがなくても誰でも扱えるシステムを構築し、さらに効果を高めて行く考えである。
<閉会の挨拶>
SAPジャパン株式会社 インダストリー・バリューエンジニアリング コンシューマークラスター
小売/商社・卸売プリンシパル 土屋 貴広 氏
流通業はコマースから顧客エンゲージメントの時代に
SAPがオムニチャネル化を全面的に支援
SAPのオファリングを目的別に4層構造に分類
SAPジャパン株式会社
インダストリー・バリューエンジニアリング
コンシューマークラスター
小売/商社・卸売プリンシパル
土屋 貴広 氏
流通業を取り巻く状況は大きく変化している。顧客の嗜好やツールの多様化により、顧客に対する応対も変化しなければビジネスの拡大は望めない。ただ、顧客のジャーニーは「個」に応じて様々あり、それに応じて各社の描くジャーニーもそれぞれユニークなスタイルとなる。
SAPとしての説明にあったように、我々のオムニチャネルオファリングはマルチチャネルなど顧客体験の強化だけでなく、顧客を理解するインサイト、マーケティングオペレーションのデジタル化、そして既存オペレーションの合理化の4層構造となっている。
“顧客体験”をどのように溜めて行くか、そして顧客を理解するために高速PDCAを回しインサイトを高め、マーケティングに反映していく。その結果を既存のオペレーションの合理化に確実に生かし改善の余剰を創出していくという階層構造だ。
ただ、取り組み方法として各社それぞれの戦略がある。また、既存資産も異なり、全てを新しい仕組みに移行できない場合もある。そこで手を打てるところから着手し、各社における改善サイクルを着実に実行していくというのがSAPからの提案である。
オムニチャネル化で在庫精度も重要なテーマに
今回のカンファレンスでは、無印良品の事例とすかいらーくの事例が紹介された。無印良品のケースでは「顧客との時間を共有する」ことで成果を出し、すかいらーくは現場主導でデジタル化を進め費用対効果の向上を実現している。これら顧客側の変化に対する対応として、SAPから既存の業務システムと連携しフロントのツール活用につなげる仕組み(データ統合基盤やデータ分析、マーケティングオペレーションの自動化)の提案も行った。さらにSAP顧客のオムニチャネル事例では、単にフロント側の改革だけでなく、供給側での“在庫精度”も重要なテーマとして上がっている。まさにこれは、顧客側と供給側双方のエンゲージメントを推進する必要があると付け加えた。
ただ、各社の置かれた環境は様々であり、業務や既存システムの複雑さも企業によって異なっている。SAPでは各社事情に則したロードマップを描くために、SAPに何ができるのか?を理解するためのワークショップを随時開催すると同時に、オムニチャネル化に何が必要で、カスタマージャーニーをどう描くか、システム化必要性や目的の明確化、システム化計画の策定などを通じて流通業を支援できる体制を整えている。