
そんな繁盛店の1つが、JA秋田おばこ(秋田県/齊藤武志代表理事組合長)が運営する「しゅしゅえっとまるしぇ」(秋田県大仙市)だ。なぜ人々は直売所に魅了されるのか。SMの青果部門にとっても大きなヒントになり得る、売場づくりの手法に迫った。
当日の仕入れ状況に合わせて販促を組む
農産物直売所とは、生産者がつくった農産物や加工品を、市場を介さず直接消費者に販売する場所のことだ。運営形態はさまざまで、農業協同組合(JA)や地方公共団体のほか、個人の生産者が集まって共同運営しているケースもある。
数ある直売所の中でも、地元農産物の販路拡大と生産者所得向上の両面で実績を上げているのが、「しゅしゅえっとまるしぇ」だ。24年度の施設全体の売上高は4億円を突破。今年度の売上高は5億円の大台に乗る見通しだ。
同施設はJR「大曲」駅からクルマで約7分、国道105号線沿いに位置する。秋田自動車道「大曲IC」からもクルマで約15分とアクセスしやすいことから、週末は県外からの来店も多いという。
施設内の売場は、農産物の直売スペースをメーンに、レストラン「ここる」、カフェスペース「いこいカフェ」が併設されている。直売スペースでは地元農産物のほか、全国各地のJAからの提供商品や、店内製造の総菜、秋田土産などを幅広く揃える。
「ここる」では定食メニューや季節食材を使用した限定メニュー、「いこいカフェ」では手づくり米粉シフォンケーキやソフトクリームなどを提供しており、買物しながら食事も楽しめる滞在型の施設となっている。
このうち直売スペースは、地元農家がその日に収穫した農産物を直接持ち込む「委託販売」のかたちで運営されている。農家自身がラベリング、包装を行い、商品を売場に並べる。商品ラベルには生産者自身の名前を明示して、安心・安全を訴求する。
値付けは基本、生産者が行っており、近隣SMの価格を参考にしつつ、生産の手間や商品の質を踏まえたうえで決めている。
委託販売のため、売れ残ればその分、生産者が得られる利益は下がる。そのため、しゅしゅえっとまるしぇでは当日中の売り切りを目標とし、最も鮮度のよい状態でお客に届けることを基本方針としている。
ただ、その方針を実現するのは簡単ではない。地元農家が毎朝その日に獲れた野菜や果物を各々の判断で持ち込むという直売所の特性上、当日にならないとどのような商品がどれだけ売場に並ぶかわからないからだ。
当然、次の日も同じ商品が同じ数量で入ってくる可能性はゼロに等しい。品揃えも数量も事前に予測できない以上、売場構成を毎日変えなければならず、SMの青果売場よりも売場づくりの難易度は高いと言える。
こうした直売所ならではの条件のもとで「鮮度維持」と「当日売り切り」を実現するためには、次の3つの要素が必要になるという。
①その日に入った農産物をその日に売り切るという基本方針のもと、仕入れ状況に合わせた臨機応変な売場づくり、②当日中に商品を売り切るだけの十分な客数、③魅力的な品揃えを実現するための安定的な供給網の構築、だ。
どれか1つが欠けてしまえば、直売所ならではの商品の鮮度感を継続的に訴求することはできない。
しゅしゅえっとまるしぇは、オープンから8年かけてこれらの要素を磨き、今では地域の青果流通の重要な販路となっている。店長を務める藤田学氏は「売場の商品の並びが同じになる日は一度もない。
毎日、状況を見ながら、平台を移動させたり新たなPOPを作成したりして、その日に入ってきた農産物の種類や量に適した売場をつくっていく。最優先は生産者が適正な利益を確保できること」と話す。
提案型の売場で当日売り切りを実践
実際にしゅしゅえっとまるしぇの売場を見ていくと、まず特徴的なのが、先述した直売所に必要な要素のうち、①を実践するための提案型の売場づくり・接客に力を入れている点だ。
とくに目立つのは、売場に並ぶ野菜を使ったメニュー提案のPOPの数々だ。多くはしゅしゅえっとまるしぇ側が作成・設置しているが、中には生産者が自発的に作成したものもある。
直売所に並ぶ青果の種類は多種多様で、中にはあまり認知度のないものも含まれる。そうした珍しい野菜も「売り切る」ためには、
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