自社商品の価値を、どうやって顧客に伝えるか? マルエツ(東京都)は5月、初めてテレビ番組を使ってサバ寿司の紹介を試みました。西友(東京都)はかつてのEDLP(エブリデー・ロープライス)イメージから脱却するプロセスで、パティシエ監修のスイーツ、ソムリエ資格バイヤーによるワインセレクションと、質をアピールする商品提案を積み重ねています。また、夏ギフトのカタログでプライベートブランド(PB)を特集するチェーンも少なくありません。スーパー各社は独自商品のブランディングを通じて、企業イメージの更新を図ろうとしています。

マルエツは「お客さまのために」を開発指針に
マルエツの本間正治社長は「商品開発に取り組むうえで社内のマインドが変わりつつある」とし、「その成果をもっと顧客に伝えたい」と言います。「大名さば(〆さば棒寿司)」はその一例として、テレビ番組で紹介されました。また、5月末時点で130店に導入した「2層のとろけるクリームパン」も、従来のマルエツにはない商品と言います。
「開発担当者が店長ミーティングで新商品を説明する際、以前なら作業をどれだけ簡素化できるかがポイントになりがちでした。ところが新しいクリームパンでは2種類のクリームを入れる手間をかけても、このおいしさをお客さまに届けたいと担当者が説明し、現場もその思いを共有して商品化に至りました」(本間社長)
本間社長は続けます。
「社長に就任してからずっと、お客さまは何に不満を持ち、何を求めているかだけを考えようと言ってきましたが、意識の変化が商品開発にも現れてきたと思います。こうした商品を、これまで以上にお客さまに伝えられるよう取り組んでいきます」
また、5月オープンの「マルエツ千歳船橋店」(東京都世田谷区)では、新たにドーナツのコーナー化に着手、手土産などの用途に使える紙製ボックスも準備して、利用シーンの拡大を図ります。
西友は独自商品で「質販店化」
西友は、大久保恒夫社長の就任以降、ウォルマート時代からのイメージ転換を進めてきました。それは、消費者にもかなり浸透していた「EDLPの西友」から、販売力と商品力で売上を伸ばす「質販店化」をめざすプロセスでした。同社の主力PB「みなさまのお墨付き」は、レトルトカレーに代表されるように独自色を強め、独自調達の生鮮品はPB「食の幸」としてブランディング。多くのカテゴリーに取り入れた上質品は「SEIYU FINE SELECT」として、バイヤーの目利きをアピールします。
2024年にスタートしたスイーツPB「ジュテ・アン・ソール」はパティシエ監修の開発商品で、6月発売の第5弾では「黒糖シュー」など新たに和テイストの品揃えを追加しました。
ワインでは、昨年秋からソムリエ資格者によるバイヤーセレクションの展開が始まりました。前述のFINE SELECT内の取り組みですが、バイヤーの顔写真入りPOPも掲示してアピールを強めています。ワインの価格帯は税込1000円前後~1000円台後半です。ほかのカテゴリーにも共通して言えるのは、西友の価値訴求はあくまで日常消費の範囲内ということです。決して高級路線ではない中に、かつてのEDLPから変貌した姿があります。
贈答はPBを試してもらう機会
スーパーマーケットが得意とする生鮮品を、夏ギフトの看板商品としてカタログに掲載するチェーンは多いです。たとえば西友は、カタログ内でPB「食の幸」の生鮮品を特集しています。また、イオン(千葉県)グループも、「トップバリュ」の和牛ギフトや、同じく「グリーンアイ」のウナギ蒲焼などをギフト化しています。さらに西友は、PB「みなさまのお墨付き」のレトルトカレーなどもギフトセットにしています。
PBの位置付けは一昔前とは違います。ナショナルブランド(NB)に比べて安いことだけを訴求していた時代には、「PBを贈答する」という発想はあり得なかったでしょう。
加工食品のPBをギフト化するチェーンはほかにもあります。茨城県を地盤とするカスミは自社PB「MiiL」のピザやドレッシングをカタログ内で特集、ライフコーポレーション(大阪府)のギフトカタログは、PB「ビオラル」シリーズで巻頭を飾るのが恒例です。
これらのPBは、チェーンの独自色を打ち出すための商品群です。NBメーカーはギフトについて、自社商品を試してもらうチャンスと言ったりしますが、PBをギフト化するチェーンストアの狙いも同じでしょう。自社のファンがPBを贈答してくれれば、新たなファン獲得につながる期待が持てます。
店頭でもネットでもメディアでも、さらにはギフトを通じても、各社はあらゆる機会で独自商品の価値を伝えようとしています。商品を見る目が変われば、そのチェーンを見る目も変わるはずです。