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物価高でPBに変化と進化の兆し 「買いたくなる」商品の条件とつくり方とは

終わりが見えない物価高、付加価値PBの開発過熱

 「値上げラッシュ」という言葉が聞かれるようになって3年が過ぎた。

 世界情勢の混乱、円安進行などを背景に、2022年初めから始まった値上げラッシュ。25年になっても紛争解決の兆しは見えず、ドル円相場はこの先も歴史的な円安水準が続くとの見方が優勢だ。輸入食材の価格高騰は止まらず、海外勢との調達競争も激化し、これまでのような調達はもはやできなくなったといっていい。さらに国内では24年から野菜を中心とする生鮮食品の相場高が続いており、集荷競争などを要因とする米価高騰にも見舞われている。

 モノだけではない。2025年春闘では満額回答が相次ぎ、3年連続で過去最高水準の賃上げが実施される見通しとなっている。また、物流費上昇のトレンドは変わらず、電気やガスなどエネルギー価格も上昇傾向にある。

 驚くべきデータがある。帝国データバンクによると、25年累計の飲食料品の値上げ品目数は、3月時点で早くも1万品目を突破した。これは前年を大幅に上回る勢いで、年間累計で2万品目前後に到達する見込みだという。

 “全方位”の値上げラッシュに見舞われる中、食品小売各社のプライベートブランド(PB)に変化がみられている。

 一般的に「PB」というと、「ナショナルブランド(NB)商品の類似品を、価格を抑えて販売した商品」をイメージされることが多い。実際、食品小売が展開するPB商品の多くがそのような位置づけとなっている。その一方で、物価高が長期化する中、食品小売では付加価値商品の開発が活発化している。

 たとえば、「業務スーパー」のフランチャイズ元である神戸物産(兵庫県/沼田博和社長)。同社の商品は価格の安さと大容量のボリューム、そしておいしさを両立させた「コスパのよさ」で知られているが、昨年末に、ロングセラー商品の「牛乳パックデザートシリーズ」から「贅沢な濃厚抹茶テリーヌ」という新商品を発売している。

 同シリーズのほかの商品は1パック(1kg)300円前後であるのに対し、同商品は498円。神戸物産としてはチャレンジングな価格帯だが、売れ行きは好調だという。

 また、国内流通最大手のイオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループの「トップバリュ」では、低価格を意識した従来型PBの開発を継続しつつ、これまで市場になかった商品を次々と投入する、「価値戦略」と「価値提供」の2軸での商品開発を推進。レンジ加熱するだけで本格的な中華総菜が楽しめる簡便商品や、「酢」を切り口としたデザートや希釈飲料など、新基軸の商品を今年に入ってからリリースしている。

イオングループの「トップバリュ」
イオングループの「トップバリュ」では2023年のリブランディング以降、これまで市場になかった商品を続々と投入している。写真は、3月に発売された「レンジで焼きたて」シリーズ。レンジで加熱するだけで、フライパンで調理したような「焼き目」がつけられるユニークな商品だ

 味や品質、素材へのこだわり、機能性、新規性と、付加する「価値」の方向性はさまざまだ。各社が付加価値PBの開発に熱を入れるねらいは、多様化するニーズ、また消費の二極化への対応などが挙げられるが、一番は「価格競争の回避」だろう。他社にない独自性を打ち出すことで「価格」以外の価値で購入につなげるというわけだ。もちろん、あらゆるモノが値上げする中では、付加価値商品はコスト上昇分を価格に転嫁しやすいという側面もある。

SPAが実現する独自性、「外販」の可能性も

 「独自性」という観点で強いのが、SPA(製造小売)型の商品開発だ。これまでも本誌ではSPA企業の強さについてレポートしてきた。

 たとえば前出の神戸物産はM&A(合併・買収)でメーカーを次々と傘下に収め、「食の製販一体体制」のもと、他社にないユニークな商品を次々と送り出し、支持を獲得している。

神戸物産のPB商品
「独自性」という点で強いのは、自社で製造機能を抱えるSPA勢だ。その代表格、神戸物産では物価高でもユニークな商品を次々と開発し、支持を拡大している

 急速出店で業界中の注目を集めるロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)も、食品メーカーや卸を相次いで買収し、製造機能をグループ内に取り込んでいるSPA企業だ。ターゲットに据えるヤングファミリーに向けて「尖った」商品を続々と投入し、一般的な食品スーパーでは考えられない広域からお客を呼び込むことを可能にしている。

 中間コストの削減、ニーズ変化への迅速な対応などSPAのメリットは多いが、最大の強みはやはり、「脱競争PB」を生み出せるという点だ。他チェーンにはない高い独自性を持ったPB商品があれば、「このPBがあるからこの店に行く」という状態をつくることができる。強いブランド力を持ったNB商品と売場内で競合することもなく、競争自体を回避できるというわけだ。当然、価格競争にも巻き込まれない。

 それだけではない。本特集では、後述する「CGC商品」を調査するため、茨城県地盤のローカルチェーン、タイヨー(森田剛社長)の店舗を調査しているが、そこでは北海道を本拠とするコンビニエンスストア、セコマ(北海道/赤尾洋昭社長)のPBの牛乳を販売していた。

 セコマも創業時からSPAを志向してきた企業の1つ。国内マーケットが人口減少で縮小に向かう中、自社の商勢圏だけで成長し続けるのは限界がある。独自性の高いPBがあれば、他チェーンあるいは海外への「外販」という可能性も拓けてくる。

共通PBに留め型商品、中小でも独自商品は可能!

 ただし、生産ロットを確保するための一定の売上規模が必要であることに加え、自社で製造リソースを抱えなければいけないなど、SPAの参入障壁は高い。また、さまざまなカテゴリーでオリジナル商品を展開するためには、それに対応したインフラを整備する必要があり、ラインアップを増やそうとすればするほど取り組みの難易度は上がっていく。すべてのチェーンがSPAに取り組めるわけではない。

 他方、物価高の中、とくに中堅・中小チェーンでその存在感を大きくしているのが、CGCグループ(東京都/堀内淳弘社長)が展開する共通PB「CGC商品」だ。本特集では、規模の異なるCGCグループ加盟企業2社の売場を調査しているが、両チェーンとも、自社の企業規模を踏まえたうえでCGC商品をうまく活用している様子が垣間見えた。

 名だたる大手メーカーが製造を担うCGC商品は、品質が優れている一方で爆発力のある安さはなく、これまではPBというよりもNBに近い面があった。だが、あらゆるモノが値上げに向かうこの局面の中においては、相対的に値ごろ感が創出され、着実に支持を拡大しているようだ。品揃えや売価設定も加盟企業の裁量で決定されているようで、中堅・中小にとってはなくてはならない存在となっている。

 そのほか物価高騰下の商品開発の手法として、留め型商品にも注目が集まっている。留め型商品とは、メーカーが特定の小売業に向けて製造する商品のことを指し、一般的なPBと比較して、「小ロットで発注可能」「発売までのリードタイムが短い」などの利点がある。

 食品小売のPB・留め型商品の企画・開発・製造をサポートするukka(東京都/谷川佳社長)によれば、最近は、定番はPBでラインアップしながら独自性を打ち出す商品を留め型で商品化する、といった活用事例もあるという。コスト上昇で調達・開発が難しくなる中では、留め型による“小回りの利く”開発も検討の余地がありそうだ。

 本特集で実施している消費者調査では、日頃購入する食品をNBからPBに切り替える、ブランドスイッチの動きも確認されている。物価高は確かに厳しいものの、PBにとってこの状況は商品を手に取ってもらう絶好のチャンスでもある。ここで商品の価値を正しくお客に伝えることができれば、リピート・定着も期待できるだろう。各社はどのような価値を追求し、物価高時代でも「買いたくなる商品」を開発しているのか。本特集にはそのヒントが詰まっているはずだ。

 

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