大手チェーンによる新ブランドが続々登場
依然続く物価高を背景に、食品小売のプライベートブランド(PB)商品に注目が集まっている。
「PB」に対する消費者のイメージといえば、「ナショナルブランド(NB)商品の類似品を価格を抑えて販売した商品」というものが一般的だ。実際、インフレで生活防衛意識が高まる中、NBの代替品として PB商品を利用する消費者が増えている。
消費者ニーズに合致するかたちで、各社のPB売上高は拡大を続けている。イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループの共通PB「トップバリュ」の売上高は、間もなく発表される2024年2月通期決算で初めて1兆円に到達する見通しとなっている。セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)の「セブンプレミアム」は、メーンの販売チャネルがコンビニエンスストア(CVS)ということもあってコロナ期間中は売上成長が足踏みしたものの、足元では価格訴求型ライン「セブン・ザ・プライス」などで成果がみられており、 24年2月期のPB売上高は過去最高の水準まで復調する予想だ。
一方、ここ数年の食品PBでは新たな動きもみられている。食品スーパー(SM)企業による「健康」「環境」などを切り口とした新ブランドの相次ぐ登場だ。小売業界におけるこの分野の元祖といえば、「トップバリュグリーンアイ」だが、長らく本格的に追随する企業は現れなかった。
そうしたなか、今回の火付け役とも言えるのがSM大手のライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長:以下、ライフ)で、20年より自然派PB「BIO-RAL(ビオラル)」より展開。ターミナル駅などの人口集積エリアに「ビオラル」屋号の店舗を出店すると同時に、既存店へのBIO-RAL コーナーを導入するなどブランド定着に力を入れている。
続くように、アクシアルリテイリング(新潟県/原和彦社長)グループの原信およびナルス(新潟県/丸山三行社長)が、社会課題を起点とした新ブランド「Hana-wel(l ハナウェル)」を23年4月から本格展開。23年11月にはヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)が健康軸の新ブランド「Happiness(ハピネス)」の販売をスタートしている。
現時点では、こうした商品群の展開が売上・利益を大きく押し上げる存在にはなっていないが、着実なファン拡大とそれらお客の客単価アップにつながっている。「健康」「環境」への関心は高まる一方であり、そう遠くない将来、こうした商品群を揃えているかどうかが競争に大きく影響してくるかもしれない。
「SPAでなければ生き残りは難しい」
「今後は、SPA(製造小売)化していない食品小売が生き残るのは難しい」──。
本特集の取材でそう語ったのは、大手 CVS、大手SMで長年にわたり商品開発を手がけてきたEnjin Plus代表の近野潤氏だ。
昨今、小売業界ではSPA型の商品開発を進める企業が快進撃を続けている。その代表格が、「業務スーパー」を展開する神戸物産(兵庫県/沼田博和社長)だ。同社のPBは自社グループの工場で製造する商品と、海外からの直輸入商品で構成される。とくに自社工場のPB商品はNB、他社PBにはないユニークな商品が多く、消費者の支持も厚い。
親会社のOICグループ(神奈川県/髙木勇輔代表)がイトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)の撤退店舗を承継するなど、今年も業界関係者の注目をさらうロピア(神奈川県/髙木勇輔社長)も SPAを志向する企業の1つだ。同社は近年、M&A(買収・合併)で食品メーカーや卸を傘下に次々とおさめることで製造機能をグループ内に取り込んでいる。そうして生み出された尖った商品を、現場主義が徹底された現場で売り込み、顧客の反応をフィードバックし、さらなるブラッシュアップにつなげることで商品力に磨きをかけている。
他方、ローカルとの強い結びつきにより、圧倒的な独自性を実現しているのがツルヤ(長野県/掛川健三社長)だ。同社は地域の生産者やメーカー、ときにはベンチャー企業などと連携することで、「長野県産」を切り口とした、他社にはない高い独自性を持ったPB商品を生み出している。取引先の中には、40年以上にわたり共同で商品開発をしている企業もあるという。ツルヤは自社で製造機能を持っているわけではないため、厳密な定義でいうところの SPAではないものの、中堅・中小規模のチェーンでも取り組み可能なSPA型の商品開発という意味で参考にされたい。
競争型と脱競争型、PB外販の可能性
なぜSPAなのか。SPA型の商品開発の例に挙げたチェーンに共通するのは、独自性の高い商品を生み出すことで“競争に陥らない”状態をつくり出しているという点だ。
NBと同等の品質でありながら低価格を実現した従来型のPBは「価値=価格」であり、価格以上の価値を訴求するのが難しい。また、低価格を実現するには一定の企業規模が必要になるため、必然的に大手チェーンが有利になる。強いブランド力を持ったNBが存在するカテゴリー・商品分類においては、売場内でNB商品と競合してしまうという問題もある。
そこで重要になるのが、「脱競争」という視点だ。他チェーンにはない高い独自性を持ったPB商品であれば、「このPBがあるからこの店に行く」という状態をつくることができ、競争自体を回避できるというわけだ。当然、そうした脱競争PBは安売りする必要もない。
他社にはない独自価値を持った商品は、さらなるビジネス展開も可能にする。
「クイーンズ伊勢丹」を運営するエムアイフードスタイル(東京都/雨宮隆一社長)では、自社工場で製造するPB商品を同業他社や異業種に卸す、いわゆる「外販事業」に取り組んでいる。同社のPB商品は、すでに某大手SMが導入していることで知られているが、24年2月期は取り扱い先が大きく拡大。複数の大手SM、大手 ECサイトで取り扱いが始まっている。
エムアイフードスタイル以外にも、セコマ(北海道/赤尾洋昭社長)や成城石井(神奈川県/原昭彦社長)などがすでに自社PBの外販で成果を上げている。今後、人口減少で国内市場が縮小していくことを考えると、PBの“NB化”を進めることで、国内のみならず海外展開も可能となり、それが食品小売の勝敗を分けるカギとなるかもしれない。
大手チェーンも価値訴求を強化中
足元では、これまで競争型の低価格 PBの展開に力を入れてきたチェーンも価値訴求型の商品開発に乗り出している。
西友(東京都/大久保恒夫社長)は、バイヤーによる「目利きのブランド」と位置づける生鮮ブランド「食の幸」を23年4 月にスタート。西武・セゾングループ時代から活躍するベテランバイヤー主導のもと、「おいしさ」を軸とした産地開拓、商品開発をすすめている。さらに24年4月には、高付加価値型の新たなセレクト商品の投入を予定するなど価格訴求から脱却する動きを見せている。
国内で圧倒的な存在感を誇るトップバリュも、23年に実施したリブランディング後は価値訴求型の商品開発に力を入れ始めており、MZ世代にニーズを想定した商品を続々と投入中だ。調達力や販売力、人材の豊富さを強みとする大手チェーンが価値訴求型の商品開発に踏み込んでいけば、脱競争PB自体の在り方が変わっていくかもしれない。
本特集では、それぞれ強いPBを持った国内の有力小売を取材・調査している。 M&Aか、取引先の開拓・深耕か、既存商品の磨き込みか、それともさらなる技術革新か。自社にとって最適な脱競争PBとはどのようなものか、検討する材料になれば幸いだ。
次項以降は有料会員「DCSオンライン+」限定記事となります。ご登録はこちらから!