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2023年のトレンドか?ハードサイダー&シードルの醸造所、専門店が増えている意外な事情

「ハードサイダー」や「シードル」と呼ばれるリンゴのお酒が盛り上がりを見せている。約10年前に海外の若年層の間で低アルコール飲料の需要が高まり、シードルに着目したキリンが2015年に「キリン ハードシードル」を発売。以来、国内のリンゴ農家や小規模ワイナリーが生産する事例が増え、専門醸造所も誕生。近年、取り扱う酒屋や飲食店、小売店も増加し、百貨店でも催事が行われるなど、盛り上がっていたが、とうとうハードサイダー専門の酒場が東京や大阪に登場した。感度が高い若年層を中心に拡大するハードサイダー(シードル)の今をリポートする。

右から『ディレイラ ブリューワークス』(大阪)のイチゴイチエ。同じく松の若葉を使いウッディーな香りのマツ矢サイダー。『Shiwa Cidery』(岩手)のオールドマナー。『ディレイラ ブリューワークス』のテキカカシードル。ホップとリンゴを醸す『サノバスミス』(長野)のサノバスミス

世界的な低アルコールや健康志向が背景に

 米国ではリンゴジュースを「サイダー」と呼ぶことから、ソフトドリンクに対して区別するためにアルコール入りのリンゴのお酒を「ハードサイダー」と呼ぶ。

 一方「シードル」はフランス語。シードルはリンゴだけを原材料にする一方、ハードサイダーは原材料がリンゴ100%のものからクラフトビールのようにスパイスや茶葉といった副素材と共に醸造するものまで自由自在。同じリンゴのお酒としてここでは両者をハードサイダーと呼ぶことにする。

 欧州では古くからハードサイダーが親しまれてきたが、ビール人気に押されて消費が停滞していた時期が長かったという。

 しかし近年の健康志向の高まりでライトな飲み口と低アルコール、地元のリンゴで作られる地産地消を見直す時代的背景から、ハードサイダー人気が復活した。さらに米国でもクラフトビールに次ぐ注目のアルコールとして小規模生産者が作るクラフトハードサイダーが約10年前から勃興した。

日本では増殖するワイン生産者が起爆剤に

大阪・裏難波にオープンした、ハードサイダーのスタンド酒場「schwa2(シュワシュワ)」。周辺の競合立ち飲み店は40代前後を集客するが、同店は20代〜30代が多数。約20坪で客単価は2000円〜3000円。月商1000万をめざす

 日本ではこうした海外の動きを受けて2015年にキリンがハードシードルを発売。リンゴ農家や小規模ワイナリーが追随し、少しずつ生産量が増加した。

 特に国内では2008年に長野県や山梨県でワイン特区が認定され、ワイン生産者が急増したことも背景としてある。2011年、日本のワイナリー軒数は200軒だったが、2021年には400軒を突破している。

 というのも、ワイン生産者がぶどうの栽培からワインという製品になるまでのタイムラグ(例えばぶどうを植えてからワインになるのは4年後。ブドウの有機無農薬栽培にこだわった場合は農薬を使っていた土壌から有機転換期がさらに4年間ある)の間、キャッシュフローをまわすため、地元のリンゴを購入してハードサイダーを作ったり、製品が完成しても順調に売れるまでの収益の柱として製造したりする例があるからだ。

 特にこうした動きはリンゴの生産地である長野県や山梨県、北海道などに多いという。

 これらの理由から製造量が増えて酒屋での取り扱いが増え、小売店や飲食店でもたびたび目にすることが増えたハードサイダー。

 近年、各地でのイベントも増えるなど次第に知名度が上がっていたが2020年3月、とうとう東京・奥渋谷にハードサイダー専門の飲食店「Cidernaut(サイダーノート)」が、2022年5月には大阪・裏難波にハードサイダーのスタンド酒場「schwa2(シュワシュワ)」が誕生。今回は後者に話を聞いた。

 

ハードサイダー専門飲食店登場、テイクアウト需要も狙う

右から“塩たこ焼きに合う”をコンセプトにしたクラフトビールのIPA・きみのわかなのわなかもね1700円(メガ)。リンゴの甘みが強いテキカカシードル850円(S)。6種のリンゴに洋梨を配合したVin Vie 1100円(M)。リンゴとイチゴを醸した自社製のイチゴイチエ1500円(L)

 「schwa2」を経営する(合)シクロは大阪・西成区で介護医療、在宅介護事業を手掛ける会社。

 朝から飲む高齢者や日雇い労働者が多い大阪・西成エリアにおいて就労支援を目的にクラフトビール事業を立ち上げ、2017年に醸造所『ディレイラ ブリューワークス』とクラフトビールのカフェバーをオープン。その後、続々と直営店を展開し、現在大阪・京都・福岡にクラフトビールの飲食店5店舗を運営する。

 そんな同社が、着目したのがハードサイダーの醸造だ。世界的にもクラフトビールの醸造所がハードサイダーを造る事例が増えていることや前述の国内の動きなどから着目したと話す。

 「schwa2」では自社の樽詰めハードサイダー1種と他社の樽詰めハードサイダー5種を中心に自社のクラフトビール5種を用意。カウンター前にタップがずらりと並び圧巻だ。

 またボトル(缶や瓶入り)ハードサイダーも全国の約2550銘柄を取り扱う。ショーケースに並べ、店内飲食需要のみならず、持ち帰り需要も狙う。

約25社50銘柄のハードサイダーが並ぶショーケース。土産や自宅用に持ち帰るお客も多い

 “ハードサイダー”と言っても辛口から甘口、酸味が強いもの、ホップを加えて醸すもの、リンゴに加えその他のフルーツを醸すもの、茶葉を入れて醸すもの、ビール酵母を使うもの…などさまざまだ。アルコール度数も3%から10%と、いずれも低アルコールで幅広い。飲み口は白ワインに近く、料理はスパイスや海鮮料理が合うという。

 そこで同店では料理にスパイスや海鮮を多用。ハードサイダーとの相性を重視すると共に小皿ポーションにしてZ世代の一人客やカップルを集客するねらいだ。カップに描くイラストやPOPなオリジナルTシャツ、若い女性スタッフの投入など、店作りも特徴的だ。

 まだ認知拡大に努めている段階だというが、「飲みやすい」「酸味があるから料理と合う」「香りが多様で面白い」など、アルコール好きからも好意的な反応が得られ、評判は上々。現在、イベント出店にも注力し、ハードサイダーの認知拡大に努めている。

 このように、専門店が登場しさらに認知度が高まるハードサイダー。特に酒離れが叫ばれる若年層を中心に広がりを見せており、酒業界からの注目も高い。今後も注視すべき業態、そしてアルコール飲料だと言える。