日本の冷凍食品の歴史が始まって今年で101年。日本冷凍食品協会では『冷凍食品新世紀』と位置づけ、キャッチコピー「べんりとおいしいのその先に」を掲げた。保存料不要で賞味期限が長く、食品ロスは最小限。本格的な味わいを提供し、人にも環境にも優しい。冷凍食品は今年、新しいステージに立った。
時代が求める食品の“代表選手”に
家庭用冷凍食品の需要増が続いている。言うまでもなく、コロナ禍を背景にした在宅時間の増加に伴う人気である。スーパー、CVS、生協などの2020年度冷凍食品売上は軒並み二ケタ増。とくに、簡便ランチニーズにはまった麵類、米飯類、家飲み用のおつまみ、そして夕食メーンディッシュになる餃子やから揚げが売れている。ついに、時代が求める食品の代表選手になった、というムードが業界全体に漂っている。
緊急事態の世の中で、冷凍食品は注目を集め、新規ユーザーも獲得して間口が広がった。人気の要因は、もちろん、長年大手メーカーが地道なモノづくりを続けてきたことにある。技術革新を伴う開発姿勢で、万人が認める簡便さとおいしさを実現してきた。それをベースに、買物頻度を減らす動きの中で、家庭内ストック需要にマッチした。そして、あまり強調したくはないが、リーズナブルであるという点も消費者の心をつかんだ要因だ。とくにパスタ。1食の価格が200円前後で種類も豊富、しかもゆでたて品質のおいしさである。ランチ需要の人気に火がついて、売場では今や最も目立つカテゴリーになっている。
圧倒的おいしさという点では、ぎょうざが人気No.1である。もとより人気商品だが、この1年でさまざまな出来事があった。昨年、味の素冷凍食品の「ギョーザ」を夫から“手抜き”と言われた云々のTwitter論争に、同社が生産工程の動画公開により“手間抜き”と訴えて多くの共感を得たこと。今年春には、フタいらずで焼ける「大阪王将 羽根つき餃子」が人気TV番組でブレイクしたこと。さらに直近では、東京2020オリンピックの選手村食堂で、GYOZAが大人気、「世界一」と絶賛するオリンピアンのSNS投稿が世界の注目を集めた。もちろん、東京2020オフィシャルパートナーである味の素の「ギョーザ」である。
炒飯も売上アップが続き、新ステージに入った感がある。8月には、ニチレイフーズ「本格炒め炒飯」が発売20周年記念イベントとして、冷凍炒飯売上世界一の『ギネス認定』を達成した。米飯ライバル各社も勢いづく。味の素冷凍食品は、米飯類で減塩商品の開発を強化。「五目炒飯」に続き、秋には「地鶏釜めし」を発売した。マルハニチロも皿いらずの「WIL Dish焼豚五目炒飯」が好調。テーブルマークも300gパッケージの『男メシ』系米飯に注力、この秋冬は、さらにインパクトの強い新商品、大きな具をのせた「炙り豚カルビめし」、豚の小腸とガツを使った「ホルモン炒飯」を投入している。
ラーメン・イノベーション『日清本麺』に注目必至
2021年の秋冬新商品は、需要急伸に対し安定供給が優先であった昨年の状況から一転落ち着いて、各社が新提案、新機軸商品を投入している。コロナ禍で得た新規ユーザーをより魅力的な商品で冷凍食品ファンにしていくことが、業界の今年のテーマである。筆者が考える有力メーカーの新商品のポイントを一覧表(次ページ)にまとめた。本物志向、本格志向が色濃く出たシーズンである。
なかでも衝撃を受けた商品がある。日清食品冷凍の新シリーズ『日清本麺』2品である。「日清が本気で創った、うまい麺」というキャッチフレーズをブランドにした『日清本麺』は、開発に約6年かかったという「生麺ゆでたて凍結製法」(特許出願中)が、業界の常識を覆す技術開発として注目できる。つまり、ラーメン店の調理法、ゆでたて熱々の麺を熱いスープに入れる、という段取りを再現することに成功した。こだわりを伝えられる「レンジ調理専用」にしたことで、麺の香りや味わい、麺の表面の食感が、限りなく生麺に近づいた。商品は、「こくうま醤油ラーメン」「濃厚味噌ラーメン」の2品。醤油は中細ストレート麺、味噌は中太ちぢれ麺と分け、しっかりした麺に合わせた力強いスープ、具は、大判の炙り焼豚、メンマ、ネギ。価格は200円台後半が想定される。バイヤーの評価は高く、配荷率もかなり高いと聞くブレイク・スルー商品だ。
遅ればせながらの市場参入に踏み切った、マルハニチロの「極旨!ももから揚げ」も話題商品である。既存から揚げ人気製品に対抗する差別化ポイントは、赤坂璃宮譚彦彬オーナーシェフ監修、ブレッダリング(衣の粉をまぶす)による手づくり感のある薄衣である。インパクトのあるパッケージデザインには、500gと大きくアピール、お得感も訴えている。
味の素「ギョーザ」の50年目の進化もこの秋の話題である。豚肉配合を従来比1.5倍にするなど、大きな転換による商品力アップを図った。
結果の期待できる新商品群が揃った。パッケージを見ると金色を配した商品が目立つ。金メダルを意識したか、と邪推しながら、『東京五輪は冷食業界のエポック年』というフレーズを1年遅れで楽しんでいる。