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プロショップを支える「頼れる商社」顧客からの差別化要望にモノづくりで提案を図る=注目企業研究 丸政

 金物、建材、土木、ワークショップといった専門店を中心に取引先企業約1150社をサポートする丸政(愛知県/鬼頭孝典社長)。金物店でしか流通していないメーカーの商品や型枠、鳶職人にターゲットを絞った商品など、グループ全体で4万アイテムを誇る豊富な在庫を即日出荷できる体制を整えている。「全ては職人さんの為に」を合言葉に、「性能×デザイン×付加機能」をコンセプトとするオリジナルブランド「GranGear(グランギア)」が人気を博している。

創業当初から貫かれる現場の声を聴く姿勢

 戦後のにおいが色濃く残る1948年、復興需要が続く名古屋市において、工具や資材を金物店や建材店などへ販売する商いを始めたのが丸政の起こりである。 

 創業者の鬼頭政資氏は、徒歩で各地を訪問し、注文を聞いて回った。風呂敷を携え、金物の産地として有名な兵庫県三木市でカンナやノミなどを仕入れた後、名古屋へ戻って納品するという地道な営業スタイルで、少しずつ着実に信頼を獲得していったという。

 本拠の名古屋周辺だけでなく、ライバル企業が少なかった長野県、さらに北陸エリアにも出向き、新たな取引先を開拓していった。

 「この業界は戦前から事業を始めた企業が多く、わが社はいわば後発組でした。他社と同じことをしていては生き残れないと考え、あらゆる工夫や努力をしたと聞いています」。こう話すのは、現社長の鬼頭孝典氏である。現会長の保雄氏の後を継ぎ、2012年から経営トップとして日々、采配を振るっている。

 創業当初から、金物店へ手道具類から大型機械を販売するなかで力を入れたのは現場の声を重視した営業スタイルである。高額な木工機械も扱っていたため、使用法を説明したりメンテナンスしたりする機会が多く、結果として現場に近いプロのニーズに応える提案型の営業が丸政の特徴となった。

職人から強い支持を得る丸政のモノづくり

 現場のプロの職人の声に耳を傾け、それらを品揃えやサービスに反映させてきた丸政。さらに近年は、その手法を生かし、独自製品の開発にも積極的に取り組んでいる。

 営業本部本部長の石井康孝氏は「私が入社した40年以上前から、お得意先さまを訪問すると、もっと使い勝手のよい商品への要望、ヒントを聞く機会が多々ありました。当社は商社ではありますが、そうした声を商品開発に生かせないかと考えてきました」と明かす。

 独自商品の開発をめざすなか、転機となったのが、大工道具や刃物のメーカーである外栄金物を、2008年にM&A(吸収合併)で傘下に収めたことである。同社は、金物の産地として有名な新潟県三条市にある創業1911年の老舗企業で、ユニークな製品群を数多く持っていた。

2008年に傘下入りした外栄金物は、「工具ホルダー」などユニークな製品群を持つ

 そのひとつとして挙げられるのは「工具ホルダー」だ。職人が腰に巻くベルトに装着し、各種工具を身に付けておくための製品で、今ではHCなどでよく目にするが、実は日本で製造・販売したのは同社が初めてだという。根強い人気があり、現場からの声を参考にラインアップの拡充を図っている。

2 0 1 7 年発売で出荷実績5000丁を誇る「足場ハンマー」。現在納品まで3カ月待ちだという

 また、建築現場の足場を立てる際に使用する「足場ハンマー」も支持を得る商品。モノづくりにあたっては安全第一を掲げており、商品の強度を増すように熟練した職人がハンマー面にフックを1本ずつ手作業で溶接するほどのこだわりようだ。丁寧な工程を要するため、2017年の発売以来、生産が追い付かないほどの人気を博している。

 さらに、昨今プロショップから「顧客層の若返りをしたい」「もっと職人に支持される店になるには?」「HCの工具売場と差別化をしたい」という要望が増えてきたことを受けて、「全ては職人さんの為に」を合言葉に、「性能×デザイン×付加機能」をコンセプトとするブランド「GranGear(グランギア)」を立ち上げた。その名に「最良の道具」の意味を込めたオリジナルブランドである。国内の一流メーカーと連携し、機能や品質、デザインにこだわった製品で、着実にラインアップを強化している。

 「プロショップをはじめとしたお取引先さまから、差別化につながる商品や売場づくりへの要望が強くあったのが、開発のきっかけです。機能、品質、デザインの面で、プロの職人さんにご満足いただけるブランドをめざしています」と石井本部長は語る。

好評の「ヘルメット ヴェンティー」は、現在納品まで4カ月待ちだという

 例えば「ヘルメット ヴェンティー」はトーヨーセフティーとの共同開発。「ミリタリーグリーン」「デザートカラー」「マットネイビー」「ダークグレー」の4色を取りそろえる。いずれも既製のヘルメットにはないカラー展開で、ファッションにこだわりのある若い職人の注目を集めそうだ。

 そのほかにも、ハタヤリミテッドとはコードリール全13アイテムを、リングスターとはツールボックスを、アルインコとは脚立を、ムラテックKDSとはレーザー墨出器のオールインワンセットを共同開発。京セラインダストリアルツールズとは「KYOCERA」ブランドの電子丸ノコを収納できる「丸ノコケース」を企画するなど、展開は多岐に渡っている。

 高いデザイン性は「グランギア」のすべての製品に共通する特長で、30歳代を中心とする若い職人を中心に、高い支持を獲得している。価格は一般的な製品と比べて15%ほど高いものの、売上は毎年約140%で伸長。いずれの製品も出せばすぐに売れるほどの人気を博している。プラスワン(長野県/矢崎金雄社長)、ハードストック(静岡県/遠藤健夫社長)をはじめとした多くのプロショップのほか、HCにも取り扱いが広がっている。 

セパ取付不可を事前に確認できるRtbの「ピーコンビット」。インパクトドライバーで、フォームタイへのPコン取り付けが可能になった

 「『グランギア』の商品は、丁寧に作られているので納期に時間がかかり、品薄状態が続いています。お客さまにご迷惑をおかけしていることが大変申し訳ないです。」(石井本部長)

 また、型枠職人専用の工具メーカーのRtbとは独占契約を締結。同社は型枠職人が自ら立ち上げた会社で、「ピーコンビット」をはじめとした商品群は、職人から絶大な支持を得ているという。

 石井本部長は「『グランギア』に加えて、新ブランド投入も準備しています。これからもプロショップ、HC企業さまの差別化戦略のお役に立てるよう、さらにこだわった新製品を開発していきます」と今後の展開に意気込みを見せる。

毎年、大規模な展示会を開催差別化を図る

「丸政&外栄金物チャレンジフェア2020」には多くの業界関係者が詰めかけた

 現場のプロの職人の声や要望に応える品揃えの提案に加えて、独自製品の開発も進める丸政。それらの取り組みを披露するべく、毎年グループ企業の外栄金物とともに開催しているのが展示会「丸政&外栄金物チャレンジフェア」だ。

 47回目の開催となる今年は、メーカー130社が出展する中、取引先650社が来場した。この展示会をはじめたきっかけは、「チャレンジなきところに成功も失敗もない」と考えた創業者の鬼頭政資氏の意向によるものだったという。同業でこれほど大規模なイベントを継続的に開いているケースは他になく、差別化を志向する丸政を象徴する施策のひとつとなっている。

 提案型の営業、独自商品の開発、さらには大規模な展示会の開催といった競合とは異なる施策に力を入れ、差別化を図ってきたことが、丸政の着実な成長の源泉となっている。

 現在、丸政のおもな商勢圏は本拠の愛知県を中心に、関東、関西といった「東名阪」にまで広がっている。取引先は約1150社にも上り、金物、建材、土木といった専門店をサポート。近年はHCとの取引も増えており、プロの職人のニーズを知る「頼れる商社」との評価をさらに高めている。グループ全体で約4万アイテムを誇る豊富な在庫を背景に、即日出荷できる商品を増やしている。

 さらに、従業員教育にも注力している。メーカーを招いた商品知識を学ぶ勉強会を全拠点で毎月開催。営業部門で商品性能試験を行い、提案力に磨きをかけている営業担当者だけでなく電話での受注業務に携わる事務担当者も参加することで、全社挙げての接客力向上に取り組んでいる。

 鬼頭社長は「プロの職人さんの支持を得るために、商品テストや現場の声をさらに深掘りをして、提案していきたいと思います。プロショップやHC企業さまのビジネスに貢献できるよう、より一層努力してまいります」と抱負を語ってくれた。

会場の一角にある「GranGear」の特設コーナー

「GranGear(グランギア)」連携メーカーの声

ハタヤリミテッド

 50年前からコードリールの製品づくりをしてきましたが、プロが好む塗装をした事によりマーケットが広がりました。また成熟市場において価格競争品になっていましたが、価値を付加したことで価格が上がってもエンドユーザーにとても好評です。今年1月発売になった15メーターシリーズは、プロのニーズをよく知っている丸政さんならではの提案だと思います。丸政さん向けのオリジナル商品は現在、13アイテムあり、当社では一番です。

「レインボーリール」は、そのデザイン性と15mをラインアップしたことで、コードリール市場に新たな流れを起こした

リングスター

 5年前からの取り組みですが、現在丸政さん向けのオリジナル商品アイテム数は、当社で一番です。鉄製の工具箱は徐々に市場が縮小していましたが、「グランギア」によりマーケットが広がり、プロショップ・HC・WEB販売において大好評です。また、収納する工具を限定したケースシリーズは、丸政さんと何度も何度も製作会議をして作り上げました。その結果、プロショップでは大きな支持を得ており、グラインダー収納ケースにおきましては、生産が間にあわない状態が続いております。今後も時代にあったオリジナル商品を丸政さんと情報交換しながら作り上げていきたいです。

ディスクグラインダーなどの電動工具がすっぽり収まる「グラインダー収納ケース」

アルインコ

 今から4年前に、丸政さんからプロの職人が好む艶消しのブラック塗装で商品製作を作りたい、という提案をいただきました。当時、 脚立と言えばアルミ色(シルバー)が当たり前だったので、正直どれくらい販売出来るのか未知数でした。しかし、丸政さんから「自分が職人なら、道具でもカッコイイ方を必ず選ぶ‼」という発言があり、製造に踏み切りました。価格が通常品と比べて20%以上高いにも関わらず、毎年約140%ずつ伸び続けています。最近ではプロショップのみならず、差別化したいとハードに力を入れているHCさんにも定番導入が決まって、今期も販売が伸びると予想しています。

異色の脚立「BPRSシリーズ」。足のかかる踏ざんに滑り止めを貼ることで、安全性、機能性の向上も図っている

ムラテックKDS

 レーザー墨出器の機能や付加価値での差別化が困難となっている中、3年ほど前よりユーザー様の利便性についての訴求する形での商材について意見交換をさせていただいています。昨年10月に発売させていただいた業界初の「オール・イン・ワン」セットには売れ筋商品のグリーンレーザー墨出器と受光器と専用三脚をスタイリッシュなブラックアルミケースにコンパクトに収納されています。ご購入いただいたユーザー様からは、現場までの持ち運びの便利さ、現場に三脚を忘れる事がなくなった、車の整理整頓にもなる等、大変好評いただいております。

グリーンレーザー墨出器と受光器、専用三脚をケースにコンパクトに収納できる「オールインワンレーザー墨出器」

京セラインダストリアルツールズ

 今回、京セラブランドのプロ用電動工具シリーズを発売するにあたって、何かインパクトがある企画を考えていたところ、当社のプロモデル開発に懸ける想いと、丸政さんのプライベートブランドである「グランギア」の「全ての機能やデザインは、プロの職人の為に」というコンセプトに大変共感しました。そこで、当社新ブランド電子丸ノコとのコラボ企画にした所、大変好評を得ております。

「丸ノコケース」の内装には特殊スポンジを採用し、電子丸ノコのベースを傷めない配慮がなされている