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ローリングストック=食べながら備える新しい備蓄方法

近年、頻発する自然災害や新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛により、備蓄食に関心が高まっている。なかでも日常的な常温保存可能な食品を一定量ストックしながら食べていく、ローリングストックという、新しい食料備蓄の考え方が広がっている。そこで今回は、デイリーストックアクション実行委員会・委員長の池上紗織氏と副委員長の梅沢義明氏にローリングストックの目的や必要性などを聞いた。

災害時の食事のストレスを減らすために

デイリーストックアクション実行委員会委員長 池上紗織氏一般社団法人日本ソイフードマイスター協会代表理事(左)と副委員長(DSA三陸事務局)梅沢義明氏(右)

 ローリングストックとは、言葉のとおり、ストック(備蓄)をローリング(回転)させることで、食べながら備える、という新しい食料備蓄の考え方だ。非常食といえば、乾パンなどの賞味期限の長い食品のイメージだが、実際に常備している家庭でもどこに置いて、賞味期限がいつまでなのかきちんと把握しているだろうか。備蓄をしていても、いざという時に役立たない可能性もありそうだ。

 そこでデイリーストックアクション実行委員会が中心となって進めているのが「DAILY STOCK ACTION」(DSA)。「常温保存可能食品を常に一定量ストックしながら日常的にも使っていこう」という新しい備蓄スタイルの推進運動だ。

 災害発生時、居住可能な場合は自宅待機が原則。自宅には1週間分の備蓄食料があると安心だが、非常時のためだけにそれだけの量を揃えるのは大変だ。そこで常温保存が可能な食品を日常的に使っていくことで、食品の選択肢が広がり、ストックも容易になる。

 「東日本大震災の時には多くの人が在宅避難されていましたが、道路が通行止めになり物流がストップし、食料調達が困難でした。開いている食品スーパー(SM)があったとしても長蛇の列で必要な食品が買えない、という場合も多いと思います。配給があっても2週間3食菓子パンが続くこともあり、栄養不足が心配です。また、アレルギーがあれば食べられないこともあり、家族に合ったものを揃えておく必要があります。ふだんから食べ慣れていないものは災害時にはストレスとなるので、家族に合ったものを知っておくことが重要です」と、デイリーストックアクション実行委員会・副委員長の梅沢義明氏は話している。

 食事は生きるためにだけでなく、楽しい団らんの時間でもある。非常時だからこそ食べ慣れた食事ができることは心身ともに必要なことだといえそうだ。 

4割を超える家庭が3日分の食料ストックがないと回答

外出自粛制限期間中の食に関するアンケート調査

 今年4月7日の緊急事態宣言を受け、在宅時間が長くなり、備蓄食の必要性がより高まっている。デイリーストックアクション実行委員会は、「外出自粛制限期間中の食に関するアンケート調査」を2020年5月7~25日に実施。その結果、3日分の食料ストックがない家庭が4割を超え、5人に1人は何がストック向き食品かわからない、と答えている。外食中心の人や都心部などの近所にSMやコンビニエンスストアがある人ほどストック意識が薄いようだ。ただ、昨年、関東地方に台風が上陸する前日に食料品が棚から消える事態が起こるなど、食料を調達しやすい都心部でもこうした事態は起こっている。

 自粛期間中の食の困り事は、「毎日献立を考えること」と回答した人が最も多く、調達する食料品についての困り事は、「大量に買った食品が冷蔵庫に入らない」と答えた人が約3割にもなった。冷蔵・冷凍品だけでは冷蔵庫が満杯になってしまうようだ。

 冷蔵庫の詰め込みすぎを防ぐためにもレトルト食品や加工食品などの常温保存食品をふだんの料理に取り入れることが大切。実際にこれらの常温保存食品はどれくらい使われているのか聞いたところ、約7割の人が継続的に活用していることがわかった。ただ、防災の観点からみて十分な日数分のストックができているわけではなさそう。また、常温保存食品を買わない人たちの多くが、常温保存食品に対して「添加物や防腐剤が多そう」「栄養価が低そう」といったネガティブなイメージを持っていることがわかった。

 さらに備蓄食品として思い浮かぶ食品を聞いたところ、「カップラーメンなどの即席麺」が88.1%とトップで、「カレーなどのレトルト食品」が84.8%、「開けたらすぐに食べられる缶詰・瓶詰」が83%と続く。備蓄食品といえば「すぐに食べられるもの」というイメージが強いが、春の外出自粛制限のように、家で過ごす時間が長いということは、調理ができる状況にあるということだ。その結果、自粛期間中はお好み焼粉やホットケーキミックスなど、家庭で調理する食品が売れた。

非常時対策だけでなく日常のトラブルにも対応

 防災食は地震や台風などの災害時だけに役立つものではなく、DSAでは、「大きな災い(非常時)」と「小さな災い(日常)」の2つの対策を提唱している。

 近年、専業主婦よりも働きながら子育てをしている人のほうが多くなり、家事や育児、仕事など、女性の負担が大きくなっている。日々、奮闘している女性たちに起こるのがプチトラブル。「子供が急に具合が悪くなった」や「大雨が降って小さい子供を抱えて買物に行けない」など、プチトラブルは日常茶飯事だ。こうした時、簡単に調理できるストック食品があれば乗り切ることができる。

 「家事や育児、仕事と女性の負担が大きいのに、レトルト食品を活用した時短メニューに対して、罪悪感を持つ人が多いようです。そういう人には、『小さな防災訓練の日』として、備蓄食を使った料理を食べる日を設けてもらいたい。備蓄食を回転させることができますし、実際に食べることで家族の好みもわかってくるので一石二鳥です」と、DSA実行委員会委員長・池上紗織氏。

家庭での食料備蓄率100%をめざす

デイリーストックアクション実行委員会では、ローリングストックの必要性を訴求したPOPなどを多数用意している

 実際にどのような食品がローリングストックとして適しているのか。開封してすぐに食べられる食品と、調理が前提の食品の2種類を揃えておくことが基本。野菜の水煮や乾燥野菜、ツナ缶詰などアレンジ自在な使いやすい常温保存食品を揃えておくと便利だ。賞味期限は必ずしも長い必要はなく、短いものは消費する回転を上げるようにすれば大丈夫。また、常温保存食品を使って主食・おかず・副菜・汁物といった定食が出来上がるイメージで揃えることが大切だ。一見、冷凍食品もローリングストックとして適しているように思えるが、停電になった場合、冷凍食品は1日で使えなくなってしまうため、あまり適していない。

 「私はふだんからよく乾燥野菜を使っています。野菜を切る手間がなく、ゴミが出ないので便利です。レトルトカレーに乾燥ほうれん草とウズラの卵をトッピングするだけで、彩りのよいカレーが出来上がります。料理は生鮮からつくるもの、という固定概念をなくせば、簡単においしくつくれる料理の幅が広がります」(池上氏)。

 DSAは楽天レシピのファンページ内で、備蓄食を使ったレシピを紹介している。現在1万5000人(20年6月現在)が登録。人気メニューは、サバ缶を使った丼ぶりや、真空パックのあさりでつくった和風ボンゴレ、じゃがいもフレークと片栗粉でつくるチヂミなど。便利なストック食品を無理せず生活に浸透させていくのがねらいだ。

 「みなさんと話している時に感じるのが、多くの人が乾燥野菜やチキンの水煮などが、ふだん買物に行くSMのどこに置いてあるのか知らない、ということです。消費者と直接つながっているSMが、店頭で提案してもらえれば、備蓄率がアップすると思います。私達は家庭での食料備蓄率100%をめざしています」(池上氏)

 家庭での備蓄率が上がれば、災害が起こった場合でも被害が大きなところに支援が集中できる。備蓄率を上げることが地域の底力アップにつながるということだ。